思惟石

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松井今朝子『銀座開化おもかげ草紙』

2017-06-27 13:49:18 | 日記
松井今朝子『銀座開化おもかげ草紙』を読了。

幕府瓦解後数年の、銀座の、市井の人々。

明治初期の新しい時代の物語というと、
司馬遼太郎の『坂の上の雲』に代表されるような
政治や軍の「上層部」視点で描かれることが多い
イメージがありました。

主人公を始めとする、銀座界隈の「住民」たちが
新時代に戸惑ったり適応したり翻弄されたりする
人々の暮らしの描写が、すごく新鮮でした。

まあ、市井の人々と言いつつ、
それなりにやんごとない人物がたくさん出ていますが。
そこはそれとして。

主人公の宗八郎は、武家の次男坊。
三十路にして世捨て人のような生活をしていたものの、
兄に言われて銀座に住むことになり、
様々な出来事や人々に触れ、自身も変わっていくというお話しです。

すでに自分のことを「若くない」と自覚しているので
明治の新しい価値観や風物に苦々しい気持ちになったり
受け入れられない自分に歯噛みしたり。
それらは、ほんのちょっと生まれる時代がずれていたら
関係なかったり、悩むほどでもなかったりすることで。

時代を担う立場でも世代でもないし、
かといって、江戸に殉ずるほど前時代を生きたわけでもない。

会社で「中堅」と言われる私なぞは他人事とは思えず、
ああああ~なんか、もぞもぞする!つらいっ!!!
と、ごろごろ転げまわってしまいます。

若くない。さりとて、そこまで老けてない。
という世代にボディーブローをキメるような悶々が満載です。

それはさておき、いきなり文明開化しちゃった
明治の日本の描写が細やかで、おもしろいです。

銀座で初めてのガス灯が灯った瞬間の、
「意外と頼りない明るさ」とか、なるほどなあ、と。
社会の授業では、その事実の歴史的な価値しか習わないから
エレクトリカルパレードくらい強烈な瞬間を想像していましたが、
いきなりそんなにピカピカしないか、とか思って
偉そうにうなずく自分に苦笑です。

東京に突如現れた煉瓦造建築の、
「隣人が何をやってるかわからない」という
江戸よりも現代のマンション事情に近い状況に
いきなり放り込まれる感じとかも、おもしろいなと。
隣室で女郎屋まがいのことをやっていても気づかないなんて、
江戸の長屋では有りえない状況ですよね。

「ウサギ」の値段が高騰して破産者が大量に出たとか、
まったく知りませんでした。
オランダのチューリップ・バブルみたいなことが
ウサギチャンであったとは。もふもふ。

この作品、主人公の周辺の人々に実在の人物がいるようで、
そういうのをちょこちょこ調べるのもおもしろいです。
元与力の原胤昭や戸田の若様や高島の叔父さん。
読んだ際、ちょっと人物設定の描写が唐突な気もしたのですが、
実際のプロフィールだということで、なるほどと。

宗八郎の初出は幕末が舞台の『幕末あどれさん』で、
この『銀座開化おもかげ草紙』は明治期を描いた
三部作になっているそうです。
明治9年から西南戦争まで。

おもしろそうだし、読みたいと思いつつ。
なんか、思わぬ角度で悶絶しそうで
ちょっと時間をおこうかなと思案中。
コメント
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