思惟石

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『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』 転がされるのは読者だけど。

2023-11-17 13:43:08 | 日記
『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』
レオ・ペルッツ
訳:垂野創一郎

タイトルはロシアの民謡のフレーズだそうです、
この林檎のごとく何処に転がっていくのかわからない
青年の物語。

主人公はオーストリア・ウィーンの青年ヴィトーリン。
時代は第一次世界大戦直後。

ヴィトーリンは大戦末期にロシアの捕虜収容所にいた。
ロシアの司令官セリュコフに誇りを傷つけられ、
釈放され故郷ウィーンへ帰ったのち
復讐のためにロシアに舞い戻るという。

怒涛の第一章。
ロシアで何があったの?
気になる〜。

と思ったら、まず、ウィーンに戻った時点で
復讐を誓った捕虜仲間が一斉に平和を享受して離脱。
うーん、その気持ちはわかる。

実家も困窮してるし、恋人には結婚を迫られるし、
なんならヴィトーリンだって復讐どころじゃない。
平和に生きろ。

復讐心を掻き立てる回想に登場するセリュコフも、
まあ、なんか地雷踏んだんかもしれんけど、
内戦中のロシアに戻ろうと思えるほどの復讐の原動力になるか?と。

そう、ロシアは第一次世界大戦後の帝政崩壊真っ只中。
白軍と赤軍とボリシェビキと反革命と色んなものが混沌として
誰に味方しても何を喋っても死ぬ状態。
そんなとこになぜ行くんだヴィトーリン。

そんな感じで終始、主人公の精神的健やかさを疑い続けながら、
読む復讐劇です笑
さすがのペルッツ。

転がっていく林檎ちゃんに翻弄されながら、
ペルッツに転がされて楽しむ一冊。
楽しかった。

ペルッツというと幻想文学なイメージだったけど、
これは幻想味がない、毛色が違う作品。
原著は1928年に刊行されベストセラーだったそうです。

第一次世界大戦の
「クリスマスには終わるだろう」
(開戦は1914年7月、終戦は1918年。
 当事者全員がここまで長く酷くなると思っていなかったという)
が途方もなく間違っていて、
ロシアもオーストリアも帝政崩壊、不確かな革命運動真っ盛り。

そこらへんの時代感や労働階級の意識、宗教性などを絡めた
訳者の垂野先生の解説もおもしろかったです。
黙示録やら祭壇画やら出てきて、解説まで読者を転がすじゃん!となる。
良い買い物した!
コメント
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