緩和ケアで行こう

へなちょこ緩和ケアナース?!のネガティブ傾向な日記です。

卵かけご飯と酢飯

2012-05-03 22:54:29 | 患者さん

 桜井さん(仮名)がご家族との関係がとても複雑だということを書かせていただきました。


 ご家族にお願いすることの中で、結構多いことが、「患者さんが〇〇を食べたいとおっしゃっているから、差し入れしてもらいたい」ということがあります。
 もちろん、病院食で対応できるところはできるだけ対応するようにしています。
 緩和ケア病棟は、院内でも特別に、いろいろなものを付加することができるようになっています。
 (栄養士さんの配慮です、ありがとう

 

 さてさて。

 桜井さんのお部屋にいつものように、ふら~~~っと(いつも、そんな感じでお邪魔させていただいてました)伺いました。

 桜井さんは、病気の進行のために、気道狭窄がみられていて、お喋りすると、いえ、呼吸をすると、「ぜ~~~~、ぜ~~~」と異常な音がしています。
 このところ、気道狭窄がひどくなってきています。
 できるだけの対処はさせていただいていましたが、体力の低下とともにうとうとしたり、ぼーーーっとする時間が長くなってきました。

 食欲も落ちてきています。


ポン:何か、食べたいものってある?
桜井さん:卵かけご飯とか、ええなぁ~~~~。
ポン:っ!!!卵かけご飯かーーー。あつあつのごはんで食べたらおいしいなぁ…(しばらく沈黙)・・・・・・・それやったら食べれそう?
桜井さん:(大きく頷く)それと、巻きずしの具とのりをのけてな、ミキサーにかけてくれんかなぁ。
ポン:そやなぁ。ミキサーかぁ。卵かけご飯と酢飯やな。ちょっと考えてみるわ。それやったら、食べれそうなんやんなぁ。よし、やってみるわ。


 と、こんな会話が成立いたしまして。


 この体力が落ちているときに、食べたいものがあるとなっ。
 それなら、それを用意いたそう!!!

 すぐさま、そんな気持ちになりました。


 しかーし。



 桜井さんは、食べ物を飲み込むことがうまくできなくなっていたので、食事は「ミキサー食+とろみ」をつけたものに変わっていました。
 ご飯は、ミキサーしなくてはならなくて…。
 ご飯をミキサーにかけて、卵をかければいいか?
 なーんて、ポンと受け持ち看護師と考えあぐねて、主任さんにミキサーを持ってきてもらって、ご要望にお応えすることにしました。

 そうそう。
 お米と寿司酢は受け持ち看護師が持ってきてくれて。
 ポンは、卵を持っていくことにしました。
 
 普段は、1パック198円くらいの卵しか買わないポンでしたが、この時ばかりは6個で300円以上する卵をゲットいたしまして…。
 私なりに卵かけご飯に備えました。






 当日。


 昼食が近づいた時間に、緩和ケア病棟のキッチンで調理を始めました~~。
 受け持ち看護師はご飯を炊いてくれていました。
 
 そしてー。
 炊き上がったご飯をミキサーに入れてー。
 スイッチ、オンっ





 あれれ???


 ミキサーしたあとのご飯は、餅のようにどろどろ


ポン:これ、ちょっと、水を入れんとあかんのかな???
受け持ち看護師:これはあかんわーーー。

 試食もしました、ええ、ええ。
 そしたら、炊いたご飯をそのままミキサーにかけると粘稠度が増して、飲み込みがうまくいかない患者さんが食べたら、窒息するやんかっと思うくらい、ねとねとでした。

 次はご飯にちょいと水を足して、ミキサーにかけて…。


 なーんてやっているうちに、キッチンはぐちゃぐちゃ。
 うまくいかなくて炊いたご飯がなくなりました。


 
 んもーーーー、どうしようもなくて、栄養士さんにコールしました。
 
 「カクカクシカジカで、なんとか、卵かけごはんと酢飯をたべさせてあげたいっ、でも、もうコメが…、ご飯がなくなってしまって…、しかも、うまくいってないっ



 栄養士さんは素早く、『主食がミキサー+とろみ』を持って、病棟にやってきてくれました。


 そして。


 「ポンさん。ミキサーにかけるなら、お粥にしてください。」
 そう言われました。



 そうか~~~~。そうやったんか~~~~。
 私、あほやなぁぁぁぁ~~~~。
 (栄養士さんに言われて、ご飯のミキサー+とろみというものの作業?工程がわかった私




 栄養士さんに持ってきたいただいたお粥のミキサー+とろみに…・
 一皿は卵液をかけて、しょうゆをかけて。
 一皿は寿司酢をかけて。



 桜井さんに提供しました。







 桜井さんの口に、運んだところ…。



 指でサインを作ってくれました。
 「おいしい」
 「これなら、いけそう」と。




 もう、この反応をみただけで、涙が出ました。


 


 桜井さん。一人じゃないで。
 せめて。私らがいてるから…。


 命の終わりが迫った患者さんの食べたいものを用意することの大切さをここで云々いいたいわけではありません。



 桜井さんがご飯を食べることができる時間はそう、長くはない。
 そう思ったら、体が動きます。
 気持ちも動きます。

 



 その数日後。
 桜井さんは旅立ちました。






 こうゆう場面って。
 患者さんのためかもしれないけど、実は。
 私たち医療者にとっても、いろいろなものをもらっているのよね。


 
 OKサインを出してくれた姿をみれたことが嬉しかった。
 桜井さんのそばにいれたことが嬉しかった。



 ありがとね、桜井さん。
 


 そして。
 お疲れっ、担当看護師っ。
 


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