早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十一年五月 第二十一巻五号 近詠 俳句

2021-11-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年五月 第二十一巻五号

   對座一句なかるべからず
句の道にある者、暇あって對座した時は、『一句なかるべからず』主義のことにありたい。(中略)獨りでもなく、俳句會でもないといふ、中間的な機会がありとすれば、それはこの『對座一句なかるべからず』の對座の時であろう。
自分一人ではいろいろと多事に頭往つて静かに句作しにくい時もあろう、また俳句會へ出席しにくい時間都合のこともあるであろう、だが、句人二人三人が夜の暇の時に打ち寄つて雑談に果つることは、比較的一番多いことではあるまいか この時にも一向に句作いやうとせぬ人は、まず俳句に熱心とは云へない。
一人でない一人の時、句會ではない句會の開催、即ちこの對座一句なかるべからずを、自然に発達せしめることを良しとする。

   近詠
   加賀竹之浦より
日本中ふる春雨を旅の濡る

耕しを見る眼移りに雨の鷺

桃さくら櫻散り敷き残る雪

田に乗りて雪解の出水赫を巻ける

花過ぎと思ふて来しに雪間草

春不順車軸の雨に蕗の臺

桑畑木の芽遅れが春の晝

目白鳥きてひらめく梢春の雨後

春嵐樹々におさまり波にあり

欄に闇こそ會遊春の風

あけぼのゝ露を春なる竹の浦

旅に居る採りし松露が机上かな

海の方春の鹿島が星の下

吉崎の御忌へ踏むなる春の露

春の雨背越の浦は鯛網だ

  早春社十周年記念祝賀会 祝句
 


早春のひとみち來たり猶も往く

   陽春譜 藤本阿南記
鳥交む雨に梢のぬぐはれて

調ふる春や田の水風の照る

春の夜の甘美に濁り水溜り

春愁の心をわれとさいなまん

風車賣りが宮磴のぼりゆく

桟庭へ降りる梯子の春日よき

風すこし寒し接木の藁に吹く

春晝や一騎の騎兵町を往く

義家はよき大将よ花霞

猪は鼻を泪に涅槃像

  登高
登高のさらに石段宮の前

登高や雲なき空がおもはゆく

登高のかたはらにする稚松かな

  黍
さゆれして露にも黍のくろづめり

朝晴れや黍の裸がひと並び

黍の中子供すくすく通りゆく


   初夏五題

  五月闇
五月闇何花散ってこまこまと

五月闇背戸より草の匂ひくる

  竹落葉
竹落葉いつしか池を見下ろしに

竹落葉焚火色こそなかりけれ

  麥の秋
夜はすでに燈に來る蟲や麥の秋  

麥の秋女働いてうつくしき

  燕
つばめ來て用水桶の水満ちて

つばくらを仰ぐところに海の雲

   野崎行 河内野崎 四條畷への吟行 三月三十一日
春分や日南出て來し松の風

山麓に耕人を見ず春かすみ

草萌や久作茶屋の床の脚

君堂の蔀のぞきつ春寒し

鵯鳴いて雨霽れぎわの霞哉

砂ひろく春寒墓をめぐり踏む

  早春社四月本句會
干潟から沖から鴉しづか哉

照り雨に鴎のしろし飛干潟

蝶ひくゝ波往かんとす汐干哉

春の塵掃いて間是寳かな

往きぬけて寺より宮は春の塵

春の塵句座のかたずけあすの事

  早春社武庫三月例會 ー逆瀬川吟行句ー
下萌や野に一軒が妻木積む

  早春社無月二月例會
校庭に數鳴る時計水ぬるむ

  早春社紅吟二月例會
春枯れの桃林に入る徑かな

  早春社立春一月例會
井華水神路の宿にくみにけり

  早春社立春二月例會
春枯れや鳥居殖えたる丘の上

  早春社立春三月例會
海苔舟や舳ならべて蝶と行く

  淡路句會同人歓迎句會 雁山氏邸映畫観賞会
春の雲山々露のはじめ哉

囀りのある時礫空をゆく

囀りや海女が頭上の籠下ろす



      











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