「日本人の衣類は非常に美しく清潔で、我等にものとは、些かも類似してい
ない。いわんやその食事の方法や料理、汁に到っては理解する事は不可能であ
る。ことごとく清潔を保ち、その方法は重々しく、我等の食事とは全く共通点
がない。即ち、各人は、それぞれ一人づつの食卓で食事し、テーブル掛け、ナ
プキン、ナイフ、フォーク、スプーンなどは何もなく、ただ彼等が箸と称する
2本の小さい棒があるのみで、食物には全く手を触れる事なく、極めて清潔巧
妙に箸を扱い、パン屑(ご飯粒)一斤といえども皿(お碗)から食卓に落とさ
ない。極めてつつましやかに礼儀正しく食事し、その作法についても他の諸事
に劣らない規則がある」
と、日本の「箸」について、16世紀に来日したイタリア人宣教師バリーニ
ャーンはこのように述べている。
ところで、8月4日は「箸の日」と定め千代田区所在の日枝神社をはじめ各地
の神社で毎年「箸感謝祭」等が行われている。これは、日本人が年間に消費する
「塗り箸」1億2千万膳、江戸中期に登場した「割り箸」250億膳と日頃世話
になっている、箸に感謝し併せて箸のPRもしようと昭和50年に設けられた。
そのほか菜箸、火箸、取り箸、茶の湯の箸など多くの箸が毎年作られている。
「ハシは、食物と人間の口知の間を渡すもの、つまり語源は間(ハシ)にある」
と国学院大学教授阿部正路氏はいう。一般的には、次の五つのことが言われて
いる。
① ハシは「橋」である。「食と口知との橋の意」であり、植物と人間の口を
結ぶかけ橋である。橋はかけ渡すもの、仲介・媒介するものである。
② ハシは「間(はし)」である。「間(はし)に挟むの意」といわれ、二
本の箸の間に、食物をはさみ、食物と人間の間を結ぶもの。また神と人、
人と人との間を結ぶもの。
③ ハシは「端」である。「はしとは端なり」といわれ、竹または木の中程
を折り曲げて、その端と端を向かい合わせて食を取ったことによる。
④ ハシは「嘴(はし)」である。「箸は嘴なり」といわれ、箸を持った形
姿は、鳥の嘴で物をついばむのと同じ姿である。
⑤ ハシは「柱」である。箸は、これを使う神や人の霊魂の宿る依代(より
しろ)から「箸は柱なり」と。まさに神霊や祖霊が宿る小さな柱であり、
小さな神木である。
このように、箸には神や人の魂が宿るとの信仰から。「野外で使った箸は折
って捨てないと、キツネや魔物につかれる」「箸を折ったり踏んだりすると財
産をなくす」という話や風習が残っている。また、日本の箸は、神に食べ物を
ささげる神事に登場したことから古来、神と人を結ぶものとの謂れから、神社
や寺院はさまざまな祝い箸・祈り箸・厄除け箸などを授与している。例えば、
出雲大社の縁結び箸、春日大社の長寿箸、鶴岡八幡宮の福寿箸、松蔭神社の
開運箸……といった具合に。
ところで、世界の民族が食物や料理を口に運ぶ食事方法は、
① 世界人口の44%が手食
② 箸食28%
③ ナイフ・フォーク・スプーン食28%
の三っに大別されるそうだが、箸を主な食事用具としているのは、中国文化圏
に属する日本、韓国、北朝鮮、中国、台湾、ベトナム、シンガポールの7か国
だそうだ。箸が普及した中国文化圏では、二本の箸にもっとも適した粘性の米
と麺類を主食にしてきたことによるそうだ。
この「ほぐし・はがし・まぜ・分け・はさみ・つまむ」という箸の機能は、
切って突くだけのナイフやフォークからはけして生まれない独特の箸文化が日
本に誕生した。
ヨーロッパでのナイフ・フォーク・スプーン食の歴史は、わずか300~
400年間にすぎず、それ以前はすべて肉類は手づかみで食べていた。今日、
パンを手でちぎって食べるのも、手食文化の名残と言われている。日本の箸は
中国から伝わったが、古事記(712年)に「スサノヲミコトが出雲国に降り
立った時、川上から箸(はし)が流れてきた。上流には人が住んでいるに違い
ない。と訪ねてみると、老夫婦が娘を囲んで泣いていた。…」ヤマタノオロチ
退治の導入部で、「箸」は日本最古の文献に登場している。これだけの長い歴
史を持つ日本の箸文化も時代の変遷と食生活の変化に伴い「箸のマナー」が疎
かになってきているのではないだろうか。
日本人の食事作法は「箸に始まり箸に終わる」といわれ箸の取り方に始まり
箸の置き方、しまい方に終わる、箸は正に「礼儀の標(シルシ)」と言われてき
た。それに従い、和食の席でタブーとされる箸の作法が生じ、それが「嫌い箸」
である。
先箸、中箸、天箸、握り箸、クロス箸、つかみ箸、そろえ箸、迷い箸、移り
箸、探り箸、こじ箸、せせり箸、寄せ箸、そら箸、立箸、刺し箸、、持ち箸、
もぎ箸、直箸、二人箸、箸渡し、かき箸、込み箸、横箸、涙箸、渡し箸、ねぶ
り箸、指さし箸、落とし箸、かみ箸、叩き箸、受け箸、振り箸、洗い箸など
約70の箸使いのタブーがあるそうだ。つい無意識にやってしまうことがある。
箸のマナーは幼児期から…そして箸に感謝すると共に食べ物に感謝する気持
ちを養うのも一考かと思う。
私達夫婦が今使用している箸には、それぞれの名前が金文字で書き込まれて
いる。デパートで開催されていた職人の巧展においてお願いしたものである。
私達にとっては、「考える箸」とも言える大切な箸である。
ない。いわんやその食事の方法や料理、汁に到っては理解する事は不可能であ
る。ことごとく清潔を保ち、その方法は重々しく、我等の食事とは全く共通点
がない。即ち、各人は、それぞれ一人づつの食卓で食事し、テーブル掛け、ナ
プキン、ナイフ、フォーク、スプーンなどは何もなく、ただ彼等が箸と称する
2本の小さい棒があるのみで、食物には全く手を触れる事なく、極めて清潔巧
妙に箸を扱い、パン屑(ご飯粒)一斤といえども皿(お碗)から食卓に落とさ
ない。極めてつつましやかに礼儀正しく食事し、その作法についても他の諸事
に劣らない規則がある」
と、日本の「箸」について、16世紀に来日したイタリア人宣教師バリーニ
ャーンはこのように述べている。
ところで、8月4日は「箸の日」と定め千代田区所在の日枝神社をはじめ各地
の神社で毎年「箸感謝祭」等が行われている。これは、日本人が年間に消費する
「塗り箸」1億2千万膳、江戸中期に登場した「割り箸」250億膳と日頃世話
になっている、箸に感謝し併せて箸のPRもしようと昭和50年に設けられた。
そのほか菜箸、火箸、取り箸、茶の湯の箸など多くの箸が毎年作られている。
「ハシは、食物と人間の口知の間を渡すもの、つまり語源は間(ハシ)にある」
と国学院大学教授阿部正路氏はいう。一般的には、次の五つのことが言われて
いる。
① ハシは「橋」である。「食と口知との橋の意」であり、植物と人間の口を
結ぶかけ橋である。橋はかけ渡すもの、仲介・媒介するものである。
② ハシは「間(はし)」である。「間(はし)に挟むの意」といわれ、二
本の箸の間に、食物をはさみ、食物と人間の間を結ぶもの。また神と人、
人と人との間を結ぶもの。
③ ハシは「端」である。「はしとは端なり」といわれ、竹または木の中程
を折り曲げて、その端と端を向かい合わせて食を取ったことによる。
④ ハシは「嘴(はし)」である。「箸は嘴なり」といわれ、箸を持った形
姿は、鳥の嘴で物をついばむのと同じ姿である。
⑤ ハシは「柱」である。箸は、これを使う神や人の霊魂の宿る依代(より
しろ)から「箸は柱なり」と。まさに神霊や祖霊が宿る小さな柱であり、
小さな神木である。
このように、箸には神や人の魂が宿るとの信仰から。「野外で使った箸は折
って捨てないと、キツネや魔物につかれる」「箸を折ったり踏んだりすると財
産をなくす」という話や風習が残っている。また、日本の箸は、神に食べ物を
ささげる神事に登場したことから古来、神と人を結ぶものとの謂れから、神社
や寺院はさまざまな祝い箸・祈り箸・厄除け箸などを授与している。例えば、
出雲大社の縁結び箸、春日大社の長寿箸、鶴岡八幡宮の福寿箸、松蔭神社の
開運箸……といった具合に。
ところで、世界の民族が食物や料理を口に運ぶ食事方法は、
① 世界人口の44%が手食
② 箸食28%
③ ナイフ・フォーク・スプーン食28%
の三っに大別されるそうだが、箸を主な食事用具としているのは、中国文化圏
に属する日本、韓国、北朝鮮、中国、台湾、ベトナム、シンガポールの7か国
だそうだ。箸が普及した中国文化圏では、二本の箸にもっとも適した粘性の米
と麺類を主食にしてきたことによるそうだ。
この「ほぐし・はがし・まぜ・分け・はさみ・つまむ」という箸の機能は、
切って突くだけのナイフやフォークからはけして生まれない独特の箸文化が日
本に誕生した。
ヨーロッパでのナイフ・フォーク・スプーン食の歴史は、わずか300~
400年間にすぎず、それ以前はすべて肉類は手づかみで食べていた。今日、
パンを手でちぎって食べるのも、手食文化の名残と言われている。日本の箸は
中国から伝わったが、古事記(712年)に「スサノヲミコトが出雲国に降り
立った時、川上から箸(はし)が流れてきた。上流には人が住んでいるに違い
ない。と訪ねてみると、老夫婦が娘を囲んで泣いていた。…」ヤマタノオロチ
退治の導入部で、「箸」は日本最古の文献に登場している。これだけの長い歴
史を持つ日本の箸文化も時代の変遷と食生活の変化に伴い「箸のマナー」が疎
かになってきているのではないだろうか。
日本人の食事作法は「箸に始まり箸に終わる」といわれ箸の取り方に始まり
箸の置き方、しまい方に終わる、箸は正に「礼儀の標(シルシ)」と言われてき
た。それに従い、和食の席でタブーとされる箸の作法が生じ、それが「嫌い箸」
である。
先箸、中箸、天箸、握り箸、クロス箸、つかみ箸、そろえ箸、迷い箸、移り
箸、探り箸、こじ箸、せせり箸、寄せ箸、そら箸、立箸、刺し箸、、持ち箸、
もぎ箸、直箸、二人箸、箸渡し、かき箸、込み箸、横箸、涙箸、渡し箸、ねぶ
り箸、指さし箸、落とし箸、かみ箸、叩き箸、受け箸、振り箸、洗い箸など
約70の箸使いのタブーがあるそうだ。つい無意識にやってしまうことがある。
箸のマナーは幼児期から…そして箸に感謝すると共に食べ物に感謝する気持
ちを養うのも一考かと思う。
私達夫婦が今使用している箸には、それぞれの名前が金文字で書き込まれて
いる。デパートで開催されていた職人の巧展においてお願いしたものである。
私達にとっては、「考える箸」とも言える大切な箸である。