夏の初めの頃、家の近くにある○○商店街では毎年福引が行われる。
ある年のこと。その福引所で「ひよこ」を無料でくれるという噂が流れた。その噂
を聞いた少女は、その可愛いひよこが欲しくて、福引所へと急いだ。「ひよこ、下
さい」と言うと、男の人は小さなひよこを少女に一羽、渡してくれた。
ひよこは、少女の手の中で温かかった。レモンイエローのふわふわした羽を少
女の掌に押しつけるようにして、「ピヨピヨ」と頼りなげに鳴いていた。
近所の男の子もひよこを貰ったのだが、数日後、そのひよこを踏んで殺してしま
ったという話を母親から聞く。
少女は少年の残酷さを知った。
少女のひよこは、すくすくと元気に育っていった。「雄だろうか、雌だろうか?」
と楽しみにする少女は、なんて世間知らずだったのだろう。
当然のことながら、成長したひよこの頭には、小さな鶏冠がいつの間にか揺れ
ていた。
そして、朝早い時間に大きな声で鳴くようになった頃、少女は両親から鶏を手
放すように言われた。その当時、少女の家の近くには、鶏を何羽か飼っている
家があったのだ。「あの家なら、きっと飼ってくれるに違いない」。母親の言葉に
少女は頷き、鳥を抱えてその家を訪れた。少女の鶏はこうして貰われていった。
鶏の頭の鶏冠は、もうすっかり大人の鶏のものになっていた。
少女の鶏が殺され、貰われていった家の食卓に上がったといことを、少女が
母親から聞かされたのは、それから一週間もしないころだった。少女は、大人の
無神経さと残酷さを知った。それと同時に、そんな家に鶏を渡さざるを得なかっ
た自分の無力さも知った。
早く大人になりたいと思いつつも、綺麗な水晶玉のような心に傷をつけながら、
輝きを失っていく大人にはなりたくないと願っていた少女も、いつしか化粧と
スーツが似合う歳になった。
いま、かっての少女は、無数の傷がついた水晶玉を「さめた目」でみつめて
いる。
ある年のこと。その福引所で「ひよこ」を無料でくれるという噂が流れた。その噂
を聞いた少女は、その可愛いひよこが欲しくて、福引所へと急いだ。「ひよこ、下
さい」と言うと、男の人は小さなひよこを少女に一羽、渡してくれた。
ひよこは、少女の手の中で温かかった。レモンイエローのふわふわした羽を少
女の掌に押しつけるようにして、「ピヨピヨ」と頼りなげに鳴いていた。
近所の男の子もひよこを貰ったのだが、数日後、そのひよこを踏んで殺してしま
ったという話を母親から聞く。
少女は少年の残酷さを知った。
少女のひよこは、すくすくと元気に育っていった。「雄だろうか、雌だろうか?」
と楽しみにする少女は、なんて世間知らずだったのだろう。
当然のことながら、成長したひよこの頭には、小さな鶏冠がいつの間にか揺れ
ていた。
そして、朝早い時間に大きな声で鳴くようになった頃、少女は両親から鶏を手
放すように言われた。その当時、少女の家の近くには、鶏を何羽か飼っている
家があったのだ。「あの家なら、きっと飼ってくれるに違いない」。母親の言葉に
少女は頷き、鳥を抱えてその家を訪れた。少女の鶏はこうして貰われていった。
鶏の頭の鶏冠は、もうすっかり大人の鶏のものになっていた。
少女の鶏が殺され、貰われていった家の食卓に上がったといことを、少女が
母親から聞かされたのは、それから一週間もしないころだった。少女は、大人の
無神経さと残酷さを知った。それと同時に、そんな家に鶏を渡さざるを得なかっ
た自分の無力さも知った。
早く大人になりたいと思いつつも、綺麗な水晶玉のような心に傷をつけながら、
輝きを失っていく大人にはなりたくないと願っていた少女も、いつしか化粧と
スーツが似合う歳になった。
いま、かっての少女は、無数の傷がついた水晶玉を「さめた目」でみつめて
いる。
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