in a schale

シャーレにとじ込めたありふれた日常。

2/1 Sugar“First ONEMAN Tour 2008-2009【add】Final”at 東京キネマ倶楽部

2009-02-04 17:53:29 | ライブレポート
 “ヴィジュアル系”は好きか嫌いか、好みがはっきり分かれるジャンルだ。バンドにすべてを費やし、全国各地を追いかける熱狂的なファンもいれば、男性がメイクをしているだけでムリという人までさまざま。

 Sugarはこの“ヴィジュアル系”というフィールドにいながら、そこでも極端に好みが分かれるバンドである。長身に黒く長い髪をなびかせ、迫力あるメイクをほどこしたヴォーカルのLoki、もはや音楽オタクと呼ぶしかないほど音の追求を続け、奇怪なステージングで観客の度肝を抜くギターのSIZNA、もともとヴィジュアル系とは無縁の場所から突然この世界に飛び込んできたベースの真悟、そして、マイペースながらも、バンドに関しては人一倍我が強いドラムの篤人。

 この4人が生みだす音楽は、よく言えば“独自”であり、悪く言えば今の流行りとは“逆行”している。ジャズ、フュージョン、ファンク……それらにロックとゴシックのエッセンスを加え、隠し味にひとさじの砂糖を。



 今宵もここ東京キネマ倶楽部では、甘く愛しい「時間」が流れていた。

 以前はグランド・キャバレーだったという会場。天井の高い広々とした円形ホールには、レトロな雰囲気とアダルトな華やかさが漂う。

 定刻18時30分、開演。それから約2時間半、全25曲という濃厚なライブが行なわれた。しかし、それは決して“長い”とは思わせず、むしろあっという間だった。おもしろい本を読みはじめたら夢中になって止まらなくなってしまった、そんな感覚。

 SIZNAの軽く歪ませたテレキャスターのアルペジオが響きわたり、「malicious」からゆるやかに滑りだしたライブ。Lokiの髪に吹きつけられたラメスプレーがキラキラと反射した「Blossom」、篤人の軽やかなタム回しに目を奪われた「苦悩と憂鬱に溺れて」と続く。また「凍え揺れる炎」では、静かなる狂気が顔をのぞかせ、心ここにあらずといったように、棒立ちで弾く真悟の姿も見られた。

 プレイ・スタイルの確立。Sugarのメンバーを観ているとそう思うことが多い。それぞれが自分のよさ・見せ場を理解し、前面に押し出していく。そのため、演奏中の彼らには隙がない。まるでアクターのように各々が“自分”を演じていくのだ。

 「麝香漂う中で」からは、下手の半円形サブ・ステージにゲストであるサックスとキーボード奏者が現れ、曲にさらなる彩りを添えていく。ジャジーな雰囲気に包まれ、かつてのキャバレーへとタイム・スリップしたような感覚におちいる。「rotten words for dear.」は繊細なピアノ・フレーズから始まり、音源とは一味違う軽快なアレンジで披露された。まるでレコードをかけているような空間。音のカクテルをゆっくりと飲み干した会場は、心地よい酩酊に包まれていく。

 「Memento-Mori」では、真悟のそばに2人の女性ヴァイオリニストが現れ、鋭い旋律を奏でる。トルソーをかたどったマイク・スタンドにしがみついたLokiが、ゆらゆらと体を揺らす。

 篤人のもとにSIZNAと真悟が集まり笑顔を見せた「JAM」からは、ふたたび4人に戻り、シンプルなロック・バンドとしての魅力を見せつけていく。楽器陣がコーラスをはさむ「Candy」ではLokiが“アハハハ…!”と不敵な笑い声を轟かせ、「自腐」「ベリー」とサディスティックに責め立てていった。


 すぐさまアンコールがかかり、ステージに登場した楽器陣。すると、なにやら“やらかした”らしいSIZNAに真悟と篤人が集中攻撃。なんとセット・リストを1曲飛ばしてしまったという(「antlion」の前に「男娼と黒猫」を演奏する予定だった模様)。しかし、素直に“間違えました!”と告白したSIZNAは、会場の許しを得たようだ。

 そんな3人と、ゲスト奏者で演奏されたCHICK COREAの「Spain」は、真悟の“新兵器”であるNEWベースが大活躍。まるでギターのように音の立った繊細なフレーズを奏でていた。

 そして、ふたたびMC。楽器陣3人でデザインしたというシルバー・アクセサリーを真悟が宣伝。“3人でデザインした”と主張する真悟だったが、篤人によると彼とSIZNAのデザインは見事に却下されてしまったようだ。客席から“えぇ~!”と非難の声があがると、“買ってくれればいいんだよ!(笑)”と切り返す真悟。

 収拾がつかなくなってきたところで苦笑いしながらLokiが登場し、なだめる。そして、“きょうを迎えることができたのも君たちのおかげです。本当にありがとう”と代表して感謝の気持ちを述べ「Sleepy」へ。深いブルーの照明がひっそりとした夜をイメージさせていく。「Snow White」では、そんな夜に粉砂糖の雪が降り積もる。生音にこだわる彼らの演奏には同期では味わえない臨場感がたしかにあった。


 そして、夜は明ける。ダブル・アンコール。“この曲を君たちに贈りたいと思います”。そうLokiが告げ、ラストに披露されたのは「月に啼き、朝を哂う花と」。これ以上はないというほどのやさしさにあふれたSIZNAのハーモニクスがそっと包みこむ。人肌のぬくもりのようにあたたかい音。まばゆい白い光が朝日のように目に染みる。Lokiはひざをつき、そのままずっと祈るように歌い続けていた。


 Sugarは情景を見せる。メイクでも衣装でも表わせない、曲と歌をとおして描く情景。彼らは彼らなりの“ヴィジュアル”をしっかりと作り上げていた。それは、私たちの心を震わせ、“感動”よりも彼ら自身の“未来”を感じさせた。

 さあ、これから本当の夜が明ける。会場をあとにすると、上空には美しい三日月が輝いていた。




◆SET LIST◆
01.malicious
02.Blossom
03.苦悩と憂鬱に溺れて
04.swim like a butterfly

05.骨と翅
06.凍え揺れる炎
07.咎人の空
08.麝香漂う中で(Guest:Sax&Key)

09.rotten words for dear.(Guest:Key)
10.antlion(Guest:Sax&Key)
11.Memento-Mori(Guest:Sax,Key&Vn)
12.悲しみに眠る陽だまり(Guest:Sax&Key)

13.JAM
14.媚薬
15.afterglow
16.Candy
17.自腐
18.ベリー

-EN.1-
19.Spain(instrumental/Guest:Sax&Key)

20.Sleepy
21.in pain
22.Snow White(Guest:Sax,Key&Vn)

-EN.2-
23.白日に抱かれた愛しき影
24.吐息めく湿度

25.月に啼き、朝を哂う花と(Guest:Sax&Key)