「股引き」とか「腰巻き」とかの語は、死語になりつつあるから、敢えてどこかに遺しておかなければ、日本語が貧しくなる。
昭和の大企業のホワイトカラーにとって会社は城だったから、スーツは前時代の裃の代用だった。
同じ作者の意地悪ばあさんは、たまに夏など洋装することもあったが、常は和服が定番だった。つまり作者長谷川町子が作品を生んだ時代、昭和の半ばまでの日本人の大人の被服生活は、家庭内では和装が主流だった。
その頃の日本の老人の冬の和装というものは、今日の機能的な防寒衣料と較べると、まことに寒々しいものがあった。和服の構造は、風通しがよすぎる。
和装はもともと防寒への配慮を必要としない地域の被服で、日本人南方由来説の強力な根拠である。着物文化は、日本列島より緯度が低い高温多湿な地域の衣服文化の、寒冷地適応型として発展したものである。その最たるものはアイヌの民俗被服だろう。明らかに南方由来の衣料の寒冷地適応型に見える。大陸のツングース系民族の被服とは異質な衣服だ。
私が知る昭和の老人(男性)たちの冬の和装下着に、ラクダの股引(ももひき)というものがあった。本来はラクダの毛の繊維でできた、西洋(=北方)由来のタイツ型下着である。これと対で、上衣も同じ素材の襟なしシャツがあった。おそらく、明治期の洋式軍隊での、寒冷地仕様の純毛下着セットがその始まりではなかったかと思う。日本の男性の洋装の普及は、軍服から始まったとされているが、これもそのひとつだったかもしれない。洋服というものは、和服と対照的に着用者の西洋人の生活域、寒冷地に適した構造をしている。
ラクダの股引(ももひき)は、男性の着物の下半身の防寒にはもってこいの代物で、瞬く間に普及した。普及品の生地は当初のラクダの被毛繊維ではなく、色だけがラクダ色をした綿又はウールの起毛ニット衣服だった。学童たちも、洋服の下にラクダの股引きを穿いていた。何を隠そう私も、中学生までは冬にラクダの上下を着込んでいた憶えがある。
その頃のお爺さんたちは、着物姿で胡座をかくと、ラクダの股引きが露わになったものだった。
一方婦人の和装の下着は腰巻き(正式には裾除けというらしい)だが、文明開化の後に、綿ネルという起毛織布が国産されるようになると、年配の婦人は冬の腰巻にネルを愛用するようになった。ネルはウールのフランネルが語源だから本来純毛だが、日本で普及したのは綿ネルだった。起毛により、平織綿布とは暖かさが格段に違うネルの腰巻は、老婦人に限り昭和の中期まで愛好されていた。
やはり着物は、男女共に冬の衣料には本質的に向かなかったのであろう。
私ごとで恐縮だが、その綿ネル地のカッターシャツを、ウールのセーターの下に着込んで過ごすのが、ここ5年ほど続いている。寒さに弱くなった証拠だろう。
ポリエステル嫌いの私には、快適この上ない冬の定番衣服である。ただし、ユニクロのネルシャツは生地が薄くて実用にならない。ネルとコーデュロイは、厚手のものに限る。
ラクダの股引きとネルの腰巻きという、お爺さんやお婆さんが愛用していた懐かしい衣料、現代ではどちらもほとんど用いられないが、日本人の庶民を冬の寒さから護った衣料として、けっして忘れてはいけないと思っている。
ネルの腰巻は近年は英ネル、或いはボンネル(アクリル)が主流ですが、健在です。
「お腰」、「裾除け」などと呼ばれていますが。こちらでは特に年輩の方や病人の方に
重宝されているようです。しかしながら生産、流通は往年の比ではありませぬが。
恥ずかしながら私は「悪魔の被服」の愛用者です。後期高齢者ではありますが、
「万年青年」の気概はしっかりと持ち合わせております。序でに、私宅は戦前は
福井産地の絹織物商、現在は呉服商です。私は別の仕事を持ちましたが、もう
ほぼリタイアなので、家業を見直しているこの頃です。失礼致しました。
いつもありがとうございます😊
らくだのパッチ、懐かしい言葉で、
私は若い頃から寒がりで、職場や友人は、知って
います、結婚する前に勤めたいた会社の先輩が
男性ですが 「寒かったら らくだのパッチ履け」
といつも私に言ってました、
らくだの下着は一番暖かいとか?
けど、当時そんな高級な下着何処に行けば
買えるのか?見たこともないし、
🐪の下着は暖かいしかわかりませんでした。
何処にでも売っているのでしょうか(笑)、
突然のコメントすいません、
これからも宜しくお願いします🙇⤵️。
ラクダなつかしく響きます
父が出征の時母はラクダのシャツをもたせたそうです
寒かったら苦労するとの思いから
でも父はビルマで戦死しました
婦人の腰巻も今は珍しいかも 個人的には未だ活用していますが
おすそよけと申しております
フォローありがとうございます
これからもよろしくお願いします
戦地に行く父君に母君が特別に用意された防寒衣料だったのですね。胸が痛みます。
和装の名称のご教示も有難うございました。
先日いただいた「ラクダの・・」記事へのコメントに、当方操作ミスでID記入を忘れて返信してしまい、失礼致しました。