当時は、建築木材の加工を現場で行うのが普通だったから、カンナ、ノミ、ノコギリの使い様や差し金の使い方、墨入れの仕方など、何を見ても巧みで珍しく、飽きることがなかった。
大工さんの道具箱は、宝物の箱のように見えたものだ。初めて見よう見まねで刃物を研いでみたのもその頃だった。
その後幾度か大工仕事を見る機会はあったが、工場で機械加工した木材の組み立てが主体となった現場には、もうかつての感動を想い起こさせるものはほとんど残っていなかった。だが、子供の頃の驚きはそのまま木工の趣味となって定着し、大工道具をひととおり揃え、使うようになった。
あるとき、素人ながら木工の技の巧みな人に出会った。たいした工具を持たないその人の見事な工作物を見たとき、我ながら自分の技能の拙さ、進歩のなさに呆れ、以来木工をぷっつり止めてしまった。踏ん切りをつけるため、大方の道具をその人に進呈して・・・。ちょうど山野草栽培への関心が深くなっていた頃だったので、潮時と感じたのかも知れない。
その数年後、ホームセンターでインパクトドライバーというものを見付け、迷わず購入した。これは電動ドライバーの一種だが、厚く堅い板材でも楽にネジ止めできる。規格材をこの道具で組み立てると、形はともかく、何でも手早く作ることができた。ツーバイフォー工法に象徴される、本物の大工さんの仕事振りの変容と同様、日曜大工も、ノミとカナヅチで材木にホゾ穴を穿つようなことをしない時代。これなら、技の巧拙に左右されず、そこそこのものができあがると思った。
改めてDIYを趣味に加え、早速、書棚やパソコンラック、鉢台などを矢継ぎ早に作ってみた。以来、収納物のサイズにぴったり合う、使い勝手の好い市販品が見当たらないときは、もっぱらこの道具を使って自作している。
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