道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

酔い心地

2020年11月06日 | 随想
伊那で買ったキノコと酒で晩酌を愉しんだら、悪い癖が頭をもたげた。酒のウンチク披露癖である。酒に弱いのに滅法酒が好きだから困る。

人の体質と飲むお酒には、根深い関係性があって、老生も馬齢を累ねた結果漸く「味覚を好むお酒」と、「体が好むお酒」の違いが分かってきたように思う。体が好むとは「酔い心地が好い」ということである。
酒に強い人は、案外酔い心地に気づかないかもしれない。

酒にはビール・清酒・ワイン・紹興酒などの醸造酒と、焼酎・ウイスキー・ジン・ラム・ウォッカ、ブランデーなど蒸留酒があるが、それぞれの酒で微妙に酔い心地に差異があるらしい。酔い心地の違いは、酩酊度に因るものでなく、その酒に含まれるアルコール以外の微量物質の働きによるものだと説明されている。それら微量物質には、A.発酵由来のものと、B.添加副原料に由るものとがある。酒に強い人は、微量成分の効果や影響を体が感知せず無視できるのだろう。

老生は和食党なので、食味を高めるために清酒を好む。しかし酔い心地の点では、赤ワインに軍配を挙げる。赤ワインを飲むと、血管が拡がり筋肉が弛緩するのを感じる。そしてリラックスした気分に浸ることが多い。これはAに因る効能である。
清酒にはAの微量物質が、ビールにはA+B(ホップ)の微量物質が含まれ、それぞれ酔い心地は大きく異なる。
赤ワインには果皮や種由来の微量物質が含まれ、白ワインにはそれが無い。

蒸留酒には、原料の風味が蒸留の際にアルコールに移行するが、木の実や野草を風味付けに添加することもあり、それらの成分がアルコールに僅かに溶出して独自の風味を出している。これも微量成分に当たる。

ワインによる血管の拡張は、精神にも良い影響を及ぼすらしい。イギリスでの調査で、それが証明されたと、かつて雑誌で読んだことがある。(当ブログ「赤ワインの効能」をご参照ください)

赤ワインは、血管を拡げ筋肉を弛緩させる効果が絶大である。天然温泉に入った後のような、ポカポカ感が持続する。清酒のように、醒めどきに冷えを感ずることがない。

ドイツの「ビール純粋令」に準ずる製法の輸入ビールや地ビールは、本質的に和食に調和しない。日本の大手ビールメーカー4社の製造するビールは、和食に合うよう工夫されている。刺身・味噌・醤油に合うビールを生んだ日本人の創意というものには感服の外はない。刺身に合うビールは、大手4社の独占状態にある。古来魚を生食しなかった中国人が、日本に観光に来るようになって刺身を覚えたというから、4社のビールの需要の先行きに不安はないだろう。

蒸留酒のウイスキーやジン、ウォッカは、発酵由来成分の含有がごく微量であるため、香草などフレイバーを用いるものが多く、飲み味は多様だ。ジンの副原料のジェニパー・ビーンズ(セイヨウネズ、杜松)の香りなどは、その元薬用であったことを窺わせる。

酒も料理も風土が産み出したものである。清酒とワインは、それぞれ洋の東西のかけ離れた異なる風土の下で、異なる人種が産み出したものだ。

数万年もの間、異なる環境の下で別個に生まれ育った牧畜肉食民のワインと稲作魚食民の和食が、融和するとはとても思えない。和食に合うワイン西洋料理に合う清酒などと聞くと、商業主義が見え透いて白けてしまう。

日本酒は魚の臭みを消すには最良の酒で、その作用があるから和食は独自の発展をし洗練されたと思う。魚の生臭みを消す効能は他のどの酒にも勝る。これと正反対に、獣肉の臭みを消す効能でワインに勝る酒はないだろう。肉食民はワインを飲み魚食民が清酒を飲むのは、自然の理というものだ。

兎にも角にも、売らんかなの商業主義に惑わされることはつまらない。酒と料理の味わいは、他人の舌に依存するのでなく、自らの舌で理解し、それぞれの絶妙な取り合わせを楽しみたいと思う。

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