道々の枝折

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専守防衛

2022年06月01日 | 随想
今回のロシアのウクライナ侵攻が私たちに与えてくれた教訓は、国を守るということが、専守防衛に尽きるという事実である。
決して敵地で軍事行動をしてはならないのだ。敵地を攻撃すれば、武器を持たない市民に死傷者が出る。それは果てしなき報復攻撃の応酬の始まりである。

何処に行くかもわからず戦場に送り込まれたロシアの兵士たちと較べると、家族・国土の防衛に団結するウクライナの兵士たちや民兵の士気は頗る高い。死ぬ覚悟をもった政治指導者の力は、不可能を可能にするものだと知った。リーダーが必死の覚悟で戦局に臨んでいることを内外に示した効果は、はかりしれない。私たちは、いったん事があった時に、自らの命を捨てる覚悟をもったリーダーを選んでいるだろうか?政権に在るものが安全な場所に居て、将兵を危険な戦線に送ることは出来ないという常識を、ゼレンスキー大統領は世界で初めて示した。

不条理な侵攻に対する国土防衛戦だからこそ、軍隊や民兵組織は国を守る気概に満ち、国民の支持も信頼も篤く、外国からの支援も大きい。国外から義勇兵が志願してもいる。侵攻軍を殲滅することは、道義的に国際世論からも承認されている。良識ある国々は結束して、ウクライナの専守防衛、自衛戦を支援している。

敵地に侵入しない、敵国の民間人を戦いの犠牲にしない防衛戦だからこそ、世界中の人々の同情と支援が集まり、想定外の善戦を継続することができる。

対するロシアは、ウクライナがNATO各国からの援助で装備した最新鋭の兵器によって反撃され、侵攻した敵地の制空権を確保できず、延びた兵站を保持するために、あらゆる不利不足に直面し、苦戦を強いられている。守りのウクライナ軍にとって、自国内の兵站の維持は、侵攻軍と比べれば格段に有利である。

民族の気質とも言える果敢な自立精神も、専守防衛のためになくてはならない要件のひとつである。一歩も譲らず軍民一体となって国を守る気構えが、リーダーの大統領をはじめ国民の隅々に至るまで横溢している。

もし戦火が拡大してウクライナ軍が優勢となり、敗勢のロシア軍を追撃してウクライナ部隊が国境を越えロシア国内に侵攻した場合を考えてみればよい。ウクライナを囲む政治情況と世界の対応は、これまでと一転するだろう。

敵基地であれ敵地の中枢であれ、1度でも国境を越え敵地に攻撃を加え、1人でも無辜のロシア人の市民を殺傷したら、ウクライナといえども世界の支持を失うのである。それこそがまさに、継戦能力を失うことである。

ロシア・ウクライナ戦で垣間見る、戦術兵器の革新的な進歩は、戦争の常識を変えた。制海・制空という言葉の意味を失わせた。兵器の進化が、戦車・装甲車・自走砲・軍艦・戦闘機・攻撃ヘリコプターというこれまでの戦場の主役を脆弱化し、歩兵の破壊力を強大にした。
ドローン携行ミサイルというものが、これほど戦場で威力を発揮するとは、軍事専門家といえども見究められなかったのではないか。侵攻当初の軍事専門家の予測は殆どがロシア軍の圧勝であり、マスコミも私たち一般人も、それを確信していた。

現実は常に蒙を啓く。現実に立脚しない空理空論は国を危うくする。軍事に無知な政治家の、世論を煽る国防論や防衛論は危険である。彼らの軍事への差し出口に、軍事の専門家たちは迷惑しているだろう。

戦争を最もやりたくないのは、戦争を知る軍事の専門家である。現実から学ばない、観念に固まった政治家が大きな口を叩くのは、混乱を招くだけである。

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2 コメント

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Unknown (tekedon638)
2022-06-02 15:55:27
@murasaki コメント有難うございます。

私は自衛の大義は、敵地を攻撃しないことだと思います。たとえ戦略的に敵地を攻撃することが有効でも、それをしたら大義を失い、国際世論の支持を失います。

侵入して来た敵を、軍民協力して国際支援を受けながら殲滅または排除するまで、戦わなくてはならないと思います。

民間人が自衛隊の指導指揮下に入るのは、制度以前の自然な心理でしょう。形式要件ばかり問題になりますが、外国の侵攻排除は国民の自然の意思だと思います。

米国の核兵器をちらつかせるのは最も拙劣で、抑止力にはならず、北朝鮮同様孤立化しかありません。
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Unknown (murasaki)
2022-06-02 14:47:16
こんにちは、
いつもありがとうございます、

専守防衛は、報道番組で軍事評論家が話しておられますが、キャスターが日本の国に置き換えてと又評論家に聞いたりすると、日本は、太平洋戦争後軍隊を持たない、自衛隊が防衛をする役目をすると当たり前の事を言います。ウクライナ等は、核兵器は無いけど
軍隊も国民も共同の意識を持って防衛する努力を
してますが、日本政府は海外の動きを
把握しているので防衛費を増やしていますが、
国民は平和な生活をし、
防衛費が増えると、税金の無駄金と見なし、
野党は、国民からの支持率を上げるため防衛費の増額を反対します、今、米国でさえ専守防衛を優先にしていて、将来、日本の島国が、有事が起こる可能性が
ある場合、ウクライナの様な軍隊や国民が協働して
心を1つに専守防衛が出来るか?と私は疑問です、
いくら、最先端のGPSドローンやその他最新鋭の
防衛装備があったとしても、一発のミサイルで
島国がなくなり、一億人の国民は、自衛隊に
協力もせず、文句ばかり言って、平和過ぎた生活が
無くなる時代が遅かれやって来ると、私は思います。
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