現在の研究所入り口
2016年の夏にアメリカ・ワシントンの近くに出張することになった。せっかく行くのだからと初期予定の隙間を埋めるため情報を集めていると、おっというものが引っかかった。 ワシントンから少し離れているが、バージニア州のハンプトンにあるNASAのラングレー研究所の見学会を、ある団体が計画しているとのことだった。
ラングレー研究所はNASAで最も古い研究所で、航空機にかかわる大型のいろんな設備を保有しているとともに、有人宇宙計画の主力として活動している。 しばらく前に、NASAの初期の頃の黒人研究者の映画「ドリーム」があったが、その舞台となった場所である。
私は、夫婦の新婚旅行の次の海外旅行先にNASAのケープケネディを選んだほど、宇宙には興味を持っているほうなので、理由をうまくつけて業務の出張先にしようと思った。
まずは団体に接触、参加できそうかを打診した。その団体の実施目的のことに参加すれば見学会にも先着順で登録できるということで、さっそく登録。これで終わりかと思ったら、その団体経由でNASAから身分確認にかかわる面倒臭い書類が送られ、記載と写真を要求された。一応問題なしとされたようだが、アメリカに行く直前に見学会前後のホテルの情報、および米国内で連絡可能な携帯電話番号を要求された。電話がかかってきてべらべらしゃべられてYesとNoを間違えたら困るので、携帯e-mailで許してもらった。
見学会情報も詳細が入ってきた。開催理由はこの研究所が1917年設立で2017年に100周年になるための情報公開の一環とのことだった。見学時間は午後の半日、団体集合場所からチャーターのバスで移動、見学対象はその日のNASAの都合次第ということ。加えてNASAから送られてきた規則によれば、スマホやカメラは持ち込み禁止、ホテルに置いて来てほしいとのことだった。その代わり写真は付き添いのスタッフが撮り、NASA内でチェックの上、配布するとなっていた。
NASA ラングレイ設立100周年記念パネル
当日団体の集合場所にいくと、大型バス2台があり参加者らしき人が集まっている。当然ながら知っている人は誰もいない。日本人を含むアジア系もそれほどいない。
バスで約1時間の移動。着いたらNASAのスタッフが乗り込んできて点呼をとり、ゲスト用の身分証を配りだした。ニコニコしているおじさんおばさんたちで、研究者ではない。
身分証はなんと写真付き(申し込み時提出のもの)で、ジロリとチェックされ渡してもらったが、写真と本人に差があるものは、一時ペンディングとなり、ここで少し時間がかかった。
それから見学先が説明され、2チームに分かれた。見学先は以下。
1.航空機格納庫 (実験用機体が存在)
2.実際の航空機/宇宙機機体のクラッシュ試験設備
3.宇宙での居住モジュールの研究棟
以下にそれぞれの概要を示す。
1.航空機格納庫
この研究所は、全体の2/3を航空機の研究、残りを宇宙機器の研究を実施している。
航空機の研究は隣にあるラングレー空軍基地とも連携しており、この格納庫は軍のほとんどの機体を中にいれて、実験計測機器を装備することもできるほど非常に高く大きい。
この時の格納庫内には、NASA所属の飛行データ計測専用機や一部改修機があり、説明担当官は、それらについて説明した。奥のほうには軍用機があった。こちらのメンバーにとんでもなく難しいことを聞く人がいてそのちんぷんかんぷんの話に時間を費やされた。どっかにパネルと模型の展示があり、極超音速機開発へのこの研究所の貢献の説明を聞いた気がするが、ここは種々の風洞で非常に有名。特にマッハを越えた機体の設計思想はこの研究所の実験で得られた。
格納庫の一部エリアの写真 航空機への計測器整備状況
2.実際の航空機/宇宙機機体のクラッシュ試験設備
柱で組んだスカスカの非常に高い建物と計測棟で構成されている。次の写真は計測棟から、高い建物を見た状況である。全容を捉えるには、高性能ワイドレンズでないと無理と思うほど、高くひろい。
機体吊り下げによるクラッシュ試験設備
使い方は、建物の頂上付近の支持点から高強度なロープを垂らし、そこに航空機体を取り付ける。その航空機体を振り子のように、横へ引っ張ると持ち上がっていく。適度に引っ張ったところで解放すると、ブランコのように速度をあげながら支点の真下の位置へ戻っていく。その戻る経路に壁があれば衝突試験になるし、ロープの長さを地面までの高さより少し長くすれば、脚が地面にぶつかりハードランディイングの試験になる。大げさだけれど具体的でシンプルな試験である。衝突時の画像や機体各部の衝撃の値を計測している。
実験の一部のビデオを見せてもらったが、航空機のブランコはなかなか面白かった。
3.宇宙での居住モジュールの研究棟
火星等に行った時の居住モジュール(生活する家)として、外壁の柔らかい展開可能なモジュールを主として研究していた。
輸送時には折りたたまれて小さな状態になっているが、設置場所で膨らませて内側容積が広い構造にするもの。材質は防弾チョッキをより高級にした繊維材料で、しなやかであることを見せてもらった。
ここには、その他に宇宙ステーションのモジュールや、柱の展開構造などが転がっていてイメージが膨らんだ。
柔構造の宇宙居住モジュール その材質見本(ボールは比較対象)
剛構造の宇宙ステーションモジュール 宇宙破片防護壁
展開機構 など
向こうが撮った写真は一か月たっても届かず、約束は破られたものとあきらめていたら、半年後に写真データが入手可能な状態になった。ここに使われている写真は、1および2枚目を除きNASAの付き添い者が撮影した写真である。(1枚目の入口の写真は別途入手。2017年改修後のもので、私の行った時は少し違っていたように思う。2枚目は私が撮影)
この時の訪問で下記が印象に残った。
①説明する研究スタッフは、楽しそうに話し、自分の仕事を愛していることが伝わってくる。受付のスタッフも誇りを持っているが、杓子定規で非効率、ただししょうがない?
②非常に敷地は広大また建物もそれぞれ大きいが、人口密度は低かった。
②実証主義というか、眼に見える具体的な試験が好きなようだった。
③写真や見学時の行動チェック等、情報管理が厳しかった。後で聞いたら、私信が開封されることがあるほど、情報管理が厳しいとのこと。
この訪問は、奇跡に近いラッキーだった。しかし私程度の知識と興味レベルならば、その近くにあるバージニア航空宇宙センターで十分だったと思う(この研究所の成果が多く展示されているということだった。)
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