大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

テスラ、ガソリン車より安価になるバッテリーを投入へ

2020年05月21日 | 経済

  テスラは今年末ないし来年初頭に、中国で生産する主力車モデル3ガソリン車より安価となる新型のバッテリーを搭載することを計画している。

 オートモティブニュースによれば、テスラは中国のAmperex Technology(CATL)と共同でコバルトをほとんど使わない画期的なバッテリーの開発に成功。

 新型バッテリーは数百万マイル(百万マイル=160万キロ)の走行耐久性があり、キロワット時60ドル以下とガソリン車(キロワット時80ドル程度)より安価に生産が可能。

 EV(電気自動車)のモーターや駆動装置はガソリン車のそれより格段に構造が簡単だが、バッテリーの価格の高さがネックとなりEVの価格は高止まりしている。低価格バッテリーは、補助金なしにEVガソリン自動車と価格競争できるようになることを意味している。

 テスラは、カリフォルニア州のギガファクトリーの30倍の生産規模の工場を、生産工程を徹底的に自動化して中国に建設する予定。

 またテスラは、こうしたバッテリーを搭載した100万台以上のEVを一般の送配電網に接続することであたらしいかたちの電力会社を設立することをめざしている。

 新型バッテリーの源流は1996年にカナダの大学ではじまった研究。テスラは同研究所と2016年から5年間のパートナー契約を締結。それが今回の新型バッテリーに結実した。

 


米連銀、ジャンク債購入進める

2020年05月19日 | 経済

 米連銀はコロナ対策のひとつとして、社債8500億ドル(93兆円:1ドル=110円)購入するプログラムをおこなっている。

 購入対象は当初、投資適格の社債とフォードなど直近に投資不適格になったいわゆる堕天使(falling angels)の社債とされた。

 以前のブログで書いたように、アメリカでは投資適格ぎりぎり(トリプルB)の企業が過去に例をみないほど多くなっており、こうした企業の格下げが金融不安につながらないようするのが堕天使債の購入理由である。

 さらに米連銀は2020年4月上旬、すでにハイイールド債市場が安定をとりもどし資金流入がおこっていたにもかかわらず、投資不適格企業が発行したハイイールド債(ジャンク債ともいわれる)をあらたにETF(上場投資信託)のかたちで購入することを決定した。

 フィナンシャルタイムズによると現在、米連銀はブラックロックが発行するハイイールド債ETF(HYG)を38億ドル(4200億円)ステート・ストリートが発行するハイイールド債ETF(JNK)を15億ドル(1600億円)購入している。

 ちなみに米連銀は、社債購入のノウハウがないといってブラックロックに社債購入を委託している。

 HYGはブラックロックが発行する世界最大規模のハイイールド債ETF。利益相反はないのかと私などは思ってしまうが、いまのところそのような声は大きくないようだ。

 それはともかく、米連銀によるハイイールド債買い入れ決定により、ハイイールド債市場への資金再流入が加速。決定後1週間で100億ドル(1.1兆円)の資金がハイイールド債市場に流入することになった。

 ただ一部からは、米連銀の介入により、リスクを利回りなどに反映する市場機能がうしなわれてしまう(破綻リスクが高い債券を高い利回りによって判断することができなくなる)という懸念がでている。

 また一度始めるとやめるのが難しいのが中銀の資産買い入れ。危機がさったあともハイイールド債の購入が続けられるなら、高リスク資産が大きく積みあがることになる。

 いまのアメリカの雰囲気は、日銀が異次元緩和でETFの買い入れをはじめたときの日本の陶酔状態に似ている気がする。正直、これから世界の金融市場がどうなるのかまったく予想できないが、その行方を注意してみていきたい。


独日、景気後退入り

2020年05月16日 | 経済

 ドイツ景気後退入りが確定した。

 2020年5月15日(金)、ドイツ統計局は2020年第1四半期のGDPが年率-8.6%になったと公表した。

 ドイツのGDPは2019年第4四半期も小さいがマイナスだったため、景気後退入りが確定した(景気後退は一般にGDPの2期連続マイナスと定義される)。

 ちなみにEU全体のGDPは-14.2%

 コロナ感染が深刻な国ほどGDP(2020年Q1)の落ち込みは大きく、フランス-21.4%イタリア-17.7%スペイン-19.4%となっている。

 なお日本の2020年第1四半期のGDPはあさって5月18日(月)に発表される。

 日本は2019年10月に消費税を8%から10%に引き上げため、2019年第4四半期のGDPは年率-7.1%

 日本の2020年第1四半期GDPもマイナスになるのは確実で(ブルームバーグが集計した予想の中央値は年率-4.5%)、ドイツとともに景気後退入りとなる見込み。

 ちなみに、2期連続GDPマイナスという基準をあてはめると、日本はリーマンショックのあと3回景気後退を経験しており、今回は4回目となる(アメリカはゼロ)。

1)2010年Q4-2011年Q2(3期マイナス)

2)2012年Q3-4(2期マイナス)

3)2015年Q3-4(2期マイナス)

4)2019年Q4-2020年Q2?

 直近の2回は日銀による超金融緩和と財政出動により短期に経済が持ち直し(景気後退という認識さえほとんどもたれず)、本格的な景気後退にはならなかったが、今回はそういうわけにはいかなそうである。

 コロナの脅威が完全にはなくならないなか、今回どのような形で景気が回復していくのか注意してみていきたい。

 

2020/5/18追記

 日本の2020年第1四半期のGDPは前期から年率換算で-3.4%(速報値)になった。消費税引き上げ前の2019年第3四半期からは年率換算で10%以上のマイナスということになる。


英、月33万円上限に給与の80%を補填

2020年05月13日 | 経済

 イギリスではコロナの影響でおよそ750万人のひとが一時休業(furlough)している。イギリスの雇用者数は約3千万人なので、雇用者の2割以上がコロナで一時的に仕事がなくなっていることになる。

 こうしたひとたちの生活を支えるため、イギリス政府は一時休業中、賃金の80%月2.5千ポンド(32.5万円:1ポンド=130円)を上限に支給している。

 日本政府も雇用調整助成金で、中小企業が一時休業中の労働者に賃金を支給した場合、その100%(通常は90%)を補償しているが、その上限の少なさ(日8330円、月20万円ほど)が問題になっていた。

 この上限がちかじか1.5万円(月30万円ほど)に引き上げられる模様。

 これを機に、雇用保険(失業手当)の上限(日8330円)についても同額への修正が進むことを期待したい。 

 

2020/5/30追記

 2020年5月29日(金)、英政府は一時休業中の賃金補填の仕組みを、(1)8月から企業が社会保険料を負担(現在は負担なし)、(2)9月から給与の10%を企業が負担、(3)10月から給与の20%を企業が負担するように変更すると発表した


経済と株価のかい離

2020年05月11日 | 経済

 コロナの影響で急速に経済が悪化する一方、多くの国で株価の上昇が続いている。

 とくに株価上昇が目立つのがアメリカ

 下の図は2020年5月7日(木)の株価が昨年末(2019年末)の株価の何%まで回復しているかをしめしたもの。

 S&P500は昨年末の9割近くまで値を戻し、ハイテク株の多いNASDAQは年末株価をわずかに超えるまでに回復していることがわかる。

  

 下の図は、インターネット関連のハイテク銘柄の株価をしめしたもの。

 テスラ、NVIDIA、アマゾン、マイクロソフト、アップル、Facebook、グーグルはすでに昨年末の株価を超えている

 とくに株価上昇が目立つのがテスラ。テスラの時価総額は、GM、フォード、FCA(フィアット・クライスラー)全部を合わせた額より大きくなっている。

 NVIDIA(エヌビディア)とアマゾンの株価も年末より3割近く高くなっている。

 株高の背景としては、景気はすでに底をうち、これから急速に景気回復が進んでいくと考える人が多いことがあげられる。

 各国中銀の無制限の資金供給により利回りが低下し、行き場をうしなった資金が株に流れ込んでいるとの指摘もある。

 しかしそれでも、このような株高に違和感を感じる人は少なくない。

 私の専門分野である雇用についていうと、アメリカの雇用者数純増に転じるのは年後半で、コロナ前と同じ雇用者数にもどるには数年かかるとみられている。

 現在の株価上昇がどこまで続くのか、株価上昇を追うかたちで経済も急回復していくのかどうか、ひきつづき注意してみていきたい。