大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

アメリカの大学図書館の開館時間

2013年01月27日 | 日記

 

 

 これだけインターネットが発達し、人の行き来も多くなっているのに、アメリカの大学については依然多くの誤解がある。

 先日もどこかで、アメリカでは子供のときから働いて大学の学費をかせぐのがあたりまえ(つまり自立している)という記述を見て驚いた。アメリカの私立大学の学費は年300万円以上するのが普通で、公立大学でも下宿するとなれば最低でも年150-200万円の学費・生活費は必要だ。そんな大金を、18歳までに稼ぐことなど不可能だというのは、常識でわからないものだろうか? 余裕があれば親がお金を出すし(日本と同じ)、そうでなければ学生が奨学金や学生ローンでまかなうしかない(最近は日本もかなりこうなっている)。アメリカにおける奨学金、学生ローンの実態については、「アメリカにおける大学の変化とTAの組織化」( 『労働社会学研究』9号、pp. 1-33)という論文の中で説明しているので、興味のある方は参照いただければと思う。

 大学図書館の開館時間についても若干の誤解がある。24時間開館が一般的だというのがそれだ。結論を先にいえば、たしかに有名な研究大学では24時間開館しているところが多いように思うが、小規模な大学では24時間開館はあまり多くないように思う。

 研究大学について言えば、たとえば私が今いるハーバード大学には、大小合わせて50を超える図書館がある。そのうちラモント図書館(上の写真)は、授業期間中、24時間開館している。とはいっていも夏季休暇とか冬期休暇中は5時閉館、土日休館となる(およそ4か月間)。中央図書館はワイドナー(下の写真)だが、ここを含めラモント図書館以外は10時には閉館している。ただし試験前、試験期間は、開館時間が長くなる。

 これには学生寮の存在が大きくかかわっているように思う。アメリカの4年制大学は、たいてい大学寮をそなえている。個室もあるが、ほとんどは相部屋で、夜遅くまで勉強しにくい環境にある。図書館は、遅くまで開館することで、こうした学生に良好な勉学環境を提供している。これは日本の大学にはない事情だ。

 さらに、すべての大学図書館が24時間開館かというと、かならずしもそうではない。アメリカにはたくさんの小規模私立大学(教育中心)があって、徹底した少人数教育により高い評価を受けている。こうした大学の図書館で24時間開館というのはあまり聞かない。試験前を除いて、11時ごろには閉館するところが多いようだ。大規模な大学でも、かならずしも24時間開館の図書館があるわけではない。

 他の国のことについては、現実とかけはなれた極端な一般化がされることが多い。気をつけたいところだ。

 最後に私の意見をひとこと。私は大学図書館の24時間開館にかならずしも反対ではない。ただ、実際に学生からどれだけの要望があるのか、学生の安全を確保できるのか(アメリカの大学には武装警備員が常駐しており、公共交通機関も遅くまで動いている)、 開館時間を延ばす分、しっかりとスタッフを増員できるのか、などを慎重に検討して考えるべきで、アメリカがそうだから日本もという議論の進め方には反対だ。そもそも、ここで書いたように、アメリカもかならずしも24時間開館が一般的とはいえない。私には、図書館の24時間化よりほかに、もっと優先して進めるべきこと、危惧すべきことがたくさんあるように思われる。このことについては、また後日。