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アレクトロサウルス1


 アレクトロサウルスは、白亜紀後期のモンゴルに生息した中型のティラノサウルス類である。アメリカ自然史博物館のアジア発掘調査で、1923年に内モンゴル自治区のイレン・ダバス層から獣脚類のほとんど完全な右後肢の化石(AMNH 6554)が発見された。その後さらに30m離れた地点から、大きなカギ爪を含む前肢の骨(AMNH 6368)が見つかった。1933年にGilmoreは、後肢と前肢は同じ種類のものと考え、細長い後肢と大きな前肢をもつ新種のティラノサウルス類としてアレクトロサウルス・オルセニと命名した。しかし後にPerle (1977)とMader and Bradley (1989)により、大きな前肢はセグノサウルス類のものであることがわかった。よってアレクトロサウルスの模式標本は右後肢(AMNH 6554)である。
 Mader and Bradley (1989)はこの後肢について再記載している。それによるとアレクトロサウルスでは大腿骨と脛骨とがほぼ同じ長さで(ティラノサウルス類では通常脛骨が長い)、中足骨が比較的長い。また他のティラノサウルス類と比べて中足骨が細長く、相対的に指(指骨)が短めであるということで、この後肢の骨の比率をアレクトロサウルスの特徴の一つに挙げている。このような比率(プロポーション)は成長段階で変化するので、系統解析上の意義を認めるにはもっと詳細な研究が必要と断った上で、主にゴルゴサウルスの後肢と比較している。第3中足骨の長さに対する第3指の長さの比率をとると、ゴルゴサウルス(アルバートサウルス・リブラトゥス)の様々な大きさの4つの個体では0.71-0.80であり、特にアレクトロサウルスとほぼ同じ大きさのゴルゴサウルスの幼体では0.73であるのに対して、アレクトロサウルスでは0.62であった。またタルボサウルス・エフレーモフィでは0.70または0.72であった。しかし、より小さいアルバートサウルス・ノボジロヴィ(タルボサウルス幼体)では0.60で、数値だけではアレクトロサウルスと区別できないとしている。しかもこのアレクトロサウルスの模式標本は、成体か幼体かわからないという。その他に足の末節骨の屈筋結節flexor tubercleがゴルゴサウルスより大きいなどの細かい特徴も記載している。
 モンゴルのバイシン・ツァフから頭骨や肩帯を含む新たな標本が発見され、後肢の特徴からPerle (1977)によってアレクトロサウルスと同定された。カリーの総説(Currie, 2000)によると、このアレクトロサウルスの頭骨では前上顎骨歯に鋸歯がなく、上顎骨歯は17本、歯骨歯は19本で、歯は進化したティラノサウルス類よりも細長いナイフ状である。頭骨は長く、丈が低いが、これはある程度成長段階に依存する特徴である。他のティラノサウルス類では鼻骨の表面に粗面があるが、アレクトロサウルスでは鼻骨の表面がなめらかであるという。他のティラノサウルス類よりも前肢が大きいとされたが、カリーによるとゴルゴサウルスと大差ないようである。このアレクトロサウルスの頭骨は、丈が低いだけでなく全体の輪郭がなめらかで、眼窩も丸く大きいなど、なんとなく幼体的な印象を受けるが、原始的だからなのだろうか。カリーの総説では同じ縮尺でアリオラムスの頭骨と並べてあるが、大体同じかアレクトロサウルスの方がやや大きいくらいである。
 ところが、このPerle (1977)の「アレクトロサウルス」の標本は、本当にアレクトロサウルスであるかどうか確かではなく、むしろ疑問視されている。これらの標本は、頭骨を含むものと模式標本と比較できる後肢を含むものとで別々の標本番号がつけられており、同一個体とする根拠は弱いらしい。後肢についてもプロポーション以外に確実な根拠は記されていないという(Mader and Bradley, 1989)。これらはまだ研究が必要らしいので、将来アレクトロサウルスではなく、別のティラノサウルス類とされるのかもしれない。その後さらに新しい標本がモンゴルと内モンゴル自治区の両方から発見されており、現在研究中ということなので、どんなイメージが描かれるのか期待される。

参考文献
Mader, B.J., and Bradley, R.L. (1989). A redescription and revised diagnosis of the syntypes of the Mongolian tyrannosaur Alectrosaurus olseni. Journal of Vertebrate Paleontology 9 (1): 41-55.

Currie, P. J. (2000). Theropods from the Cretaceous of Mongolia. In The Age of Dinosaurs in Russia and Mongolia, edited by M. J. Benton, M. A. Shishkin, D. M. Unwin and E. N. Kurochkin. Cambridge University Press, Cambridge. Pages 434-455.

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