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肉食の系譜
テラトフォネウス
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テラトフォネウスは、白亜紀後期カンパニア期に米国ユタ州に生息した大型のティラノサウルス類で、2011年に記載された。頭骨と胴体の部分骨格(上顎骨、涙骨、前頭骨、頬骨、鱗状骨、方形骨、脳函、歯骨、頸椎、肩甲骨、烏口骨、上腕骨、尺骨、大腿骨など)が発見されている。
頭骨が短いティラノサウルス類として紹介されているが、完全な頭骨が見つかっているわけではなく、それぞれの骨が前後に短縮した形態を示すので、全体としても短いと考えられている。
他のティラノサウルス類と異なる固有の形質は、上顎骨の前背方縁の傾斜が急である、maxillary fenestraが前眼窩窩の前縁からずっと後方にある、頬骨の方形頬骨との関節面の前方に突起knobがある、頬骨の後眼窩骨突起の後縁が顕著に屈曲している、paroccipital processが後側方でなくほとんど側方を向いている、など多数挙げられている。
上顎骨の前背方縁の傾斜が急であることと、上顎骨歯の数が12本と少ない(ティラノサウルスの亜成体では13本のものがある)ことは、他のティラノサウルス類に比べて上顎骨が前後に短いことを示している。頬骨の後眼窩骨突起の後縁が少しだけ垂直に伸びた後、急に前背方に曲がっていることも、短縮傾向と一致するという。前後の短縮は脳函にもみられ、基底蝶形骨の腹側縁の傾斜も急であるという。また歯骨歯の数も14本と少ない。
頭骨の骨の特徴から、テラトフォネウスの模式標本は亜成体と考えられた。ティラノサウルス類では一般に、成体よりも亜成体の方が吻が細長いので、テラトフォネウスでは亜成体で吻が短いことは特徴的である。つまりティラノサウルス類の一般的な成長様式が当てはまるならば、テラトフォネウスの成体ではさらに吻が短い可能性もあるという。
時代も地域も近いユタ州のテラトフォネウスとニューメキシコ州のビスタヒエヴェルソルの発見により、カンパニア期後期の北アメリカ南西部にも、北方のロッキー山脈地域(ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルス)と同じくらい多様なティラノサウルス類が存在していたことがわかったとしている。
系統解析の結果、テラトフォネウスはティラノサウルス科ティラノサウルス亜科の中でダスプレトサウルスの外側に位置した。するとティラノサウルス亜科には顔が細長いアリオラムスと顔が短いテラトフォネウスが含まれることになり、この仲間の頭骨の形態はより多様であったことになる。
顔が短いといってもアベリサウルス類ほどではなく、ティラノサウルス類として短いという感じである。ゴルゴサウルスの亜成体と比べるとかなり差があるが、ティラノサウルスの成体と比べると少し短く丈が高いくらいだろうか。また、論文の図では復元頭骨のシルエットが描かれているが、後頭部(側頭窓あたり)に対して吻が短いように描かれている。しかし本文で後頭部や脳函も短縮していると述べていることとの関係はどうなのだろう。側頭窓あたりはもう少し詰めてもいいような気もする。さらにネット上には顔が短く首が長めの、アベリサウルス類風の絵もあるが、首の長さも問題である。吻が短いが後頭部も短く、首も短いのならば全体としてティラノサウルスの成体を小さくしたような印象となり、それほど違和感のある顔ではないのかもしれない。首に対して顔が短いのなら、変わった容貌にみえるだろう。
参考文献
Carr, T. D., Williamson, T. E., Britt, B. B. and Stadtman, K. (2011) Evidence for high taxonomic and morphologic tyrannosauroid diversity in the Late Cretaceous (Late Campanian) of the American Southwest and a new short-skulled tyrannosaurid from the Kaiparowits formation of Utah. Naturwissenschaften 98: 241-246.
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