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アリオラムスの頭骨を観察しよう(4)




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涙骨は左右とも見つかっているが、左の涙骨がより完全に保存されている。涙骨は、主に前方突起anterior ramusと腹方突起ventral ramusからなる。アリオラムス・アルタイでは前方突起と腹方突起が鋭角をなし、涙骨は数字の7の形をしている。これはダスプレトサウルス、タルボサウルス、ティラノサウルスの成体と同様である。一方、アルバートサウルス、アパラチオサウルス、ビスタヒエヴェルソル、ゴルゴサウルス、ラプトレックス、およびダスプレトサウルス、タルボサウルス、ティラノサウルスの幼体では、前方突起と腹方突起が直角をなし、逆L字形に近い。
 アリオラムス・アルタイでは前方突起が特に長い。前方突起/腹方突起の比率はアリオラムス・アルタイが1.40、ティラノサウルスが0.90である。

前方突起も腹方突起も、外側板lateral laminaと内側板medial laminaという2枚の板が重なった形をしている。前方突起の外側板と内側板の間には、いくつかの含気孔がある。アリオラムス・アルタイのホロタイプでは、アルバートサウルスなどの幼体と同様に、外側板はあまり発達していない。
 腹方突起の外側板の表面は粗面になっている。外側板の前縁の方が後縁よりも盛り上がっていて、その間に眼窩窩orbital fossaという凹みがある。また腹方突起を横切るように前後に走る、数本の弧状の線条arcuate striationがある。

涙骨で最も顕著な隆起が、前方突起と腹方突起が交わる部分の背側にある角状突起である。アリオラムス・アルタイの角状突起は、はっきりした円錐形に近い突起で、その根元には一連のいぼ状突起ovoid excresences (骨乳頭bone papillae)があって境界をなしている。
 (Gaston社のレプリカの涙骨は、大体正確にできているが、精度の問題はある。線条arcuate striationはホロタイプではもっと多く腹側にもあるのだが、レプリカでは写真の2、3本しかはっきりとは見えない。角状突起の境界にあるといういぼ状突起は、心眼でしか見えない。しかしまあ頭骨全体のレプリカだから、このくらいは精度的に仕方ないかもしれない。ただ前方突起の外側板は、ホロタイプに比べて垂れ下がりすぎている。ここは「成体化」されている。)

Brusatte et al. (2012) は、角状突起について1ページ以上費やして詳述している。ティラノサウルス類の角状突起は、その形、大きさ、位置などが種類によっても成長過程によっても変化する。
 アリオラムス・アルタイの角状突起は、涙骨の背側縁の残りの部分からはっきりと突出した構造であるといっている。涙骨の背側縁のうち、いぼ状突起の境界で囲まれた内側だけが角状突起という意味だろう。成体のアルバートサウルス、ビスタヒエヴェルソル、ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルス、テラトフォネウスはいずれも顕著な角状突起をもつが、これらはより大きく、前後に広く、涙骨の背側縁になめらかにつながっているという。しかし、アルバートサウルスをはじめダスプレトサウルス、タルボサウルス、ティラノサウルスなどの幼体には共通して、小さくはっきりした角錐状の角があるとも述べているので、このあたりは種の特徴と成長段階の特徴(亜成体であるがゆえの)がうまく区別されていないように思える。
 それでも著者らは、円錐形の角状突起が涙骨の背側縁から急に立ち上がった形をしていることをアリオラムス・アルタイの固有の形質と考えている。一方、ゴルゴサウルスなどの亜成体では、角状突起の前方は急に突出しているが、後方は涙骨の背側縁になめらかにつながっているという。要するに特徴は角状突起の後方のカーブということらしい。

角状突起の位置にも種類による違いがある。アリオラムス・アルタイの角状突起は、腹方突起の背側(真上)に位置している。これはタルボサウルス、ティラノサウルス、大部分のダスプレトサウルスの成体、テラトフォネウスなどと同様である。それに対してアルバートサウルス、アパラチオサウルス、ビスタヒエヴェルソル、ゴルゴサウルス亜成体、ダスプレトサウルス幼体などでは、角状突起の頂点が腹方突起よりも前方にある。

アリオラムス・アルタイでは角状突起の頂点が1つで、真上を向いている。これはテラトフォネウスと同じである。一方、アルバートサウルス、ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルスの亜成体では、頂点が2つか3つあり前背方を向いている。


ゴルゴサウルス亜成体


ダスプレトサウルス亜成体?


テラトフォネウス幼体
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