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アリオラムスの頭骨を観察しよう(9)


Brusatte et al. (2012) は、アリオラムスの長い頭骨がどのように生じたかについてDiscussionで考察している。アリオラムスの特徴的な長い頭骨は、個体発生の過程で起きた2つの変化によって生じただろうとしている。
 まず一つは、個体発生の過程で頭骨の丈が高くなるような成長が抑制され、成長しても幼体のような丈の低い頭骨と下顎を保つようになった。これはプロケラトサウルス、グァンロン、ディロングのような基盤的ティラノサウロイドにみられる原始状態への逆戻りかもしれない。派生的なティラノサウルス類では幼体に比べてはるかに頭骨の丈が高くなる。このことは上顎骨の本体の丈や眼窩の形など多くの形質に表れる。
 次にもう一つ別の要因によって、眼窩から側頭部の部分orbitotemporal regionはそのままで、吻の部分だけが長くなるような変化が起こった。アリオラムスの頭骨では、涙骨の前方突起や鼻骨の前頭骨突起が他のティラノサウルス類に比べて長くなっている。つまり、前眼窩窓の周辺の骨が特に長くなっているのである。この部分は、頭骨のより前方部分(吻の前端)や後方部分(眼窩から側頭部)に比べて、骨も少なく複雑な軟組織構造(脳、感覚器、気嚢)もあまりない。よって機能をそこなうことなく、変化が生じることができた。基盤的なティラノサウロイドであるシオングァンロンも、同様にして長い頭骨を発達させたのかもしれない。
 アリオラムスでは前眼窩窓の領域が単純に引き延ばされるようにして吻が延長しているので、主要な軟組織構造としては気道に影響するくらいであったと思われる。この変化は口蓋骨にも及んでおり、口蓋骨の鋤骨翼状骨突起vomeropterygoid process は涙骨から離れて前方に位置している。より吻が短いゴルゴサウルスやティラノサウルスでは、鋤骨翼状骨突起はもっと涙骨と近い位置にある。またアリオラムスでは前眼窩窓の前縁は口蓋骨よりもかなり前方にある。一方、吻が短いティラノサウルス類では、口蓋骨の鋤骨翼状骨突起の先端が前眼窩窓の前縁に近づいている。
 アリオラムスでは上顎骨と歯骨の歯列の最後の歯が、前眼窩窓の前半部の下にあり、頬骨のずっと前方にある。このことも前眼窩窓の部分が長くなっているという考えと一致する。それに対して吻が短いティラノサウルス類では、最後の歯は前眼窩窓の中央の下にあり、頬骨と非常に近いという。

派生的なティラノサウルス類の形態は比較的保守的であるが、変わらないわけではない。アリオラムスとシオングァンロンの頭骨は、機能に悪影響を与えることなく、大きな形態変化を達成することができることを示している。同様に白亜紀後期のテラトフォネウスは、派生的なティラノサウルス類が吻を短くすることもできることを示した。ティラノサウルス類の頭骨の形態は、従来考えられていたよりも多様であることがわかってきた、としている。

Brusatte et al. (2012) はアリオラムスをティラノサウルス科の中と考えているので(系統解析は2010の総説)、このような考察になる。リスロナクスの論文のようにもう少し基盤的でティラノサウルス科の外と考えると、多少違う論じ方になるだろう。当然ながらこのモノグラフを読んでいると、やはりティラノサウルス科の中のような気がしてくる。もう少し原始的な種類がどういう形態かがわかってくると、真実が解明されてくるだろう。
 ホッキョクグマは分子系統上はヒグマと非常に近縁だが、短期間に大きく形態が変化したという話があった(現在どうなっているか知らないが)。派生的なティラノサウルス類が幼形進化などで大きく形態変化した場合に、形態情報のみの解析でうまく扱えるのだろうか。かなり進化した種類で吻が伸びた場合と、やや原始的な種類で吻が長かった場合とで区別できるのだろうか。その場合、吻の長さ以外の形質が重要なのだろう。
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