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肉食の系譜
ボレオニクス


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ボレオニクスは、白亜紀後期カンパニアン後期(Wapiti Formation, Unit 3)にカナダのアルバータ中西部に生息したドロマエオサウルス類で、2016年に記載された。
アルバータ中西部のWapiti Formationには、様々な恐竜を含む典型的な白亜紀後期の動物相が保存されている。しかし種類を同定できるような特徴的な骨要素が乏しいために、Wapiti Formationの化石の分類は難しく、科レベルより細かく分類された化石はわずかしかない。これまでにハドロサウルス類エドモントサウルス・レガリスEdmontosaurus regalis と角竜類パキリノサウルス・ラクスタイPachyrhinosaurus lakustai が同定されている。パキリノサウルス・ラクスタイはパイプストーン・クリークPipestone Creekという場所のボーンベッドから、27体分もの骨が発掘されている。このパキリノサウルスの骨に混じって、いくつかの小型獣脚類の骨が発見された。研究の結果、これらの化石は新種のドロマエオサウルス類と同定されたので、Bell & Currie (2016)によって記載された。
Boreonykus certekorumの属名は「北方の爪」で、古代ギリシアの北風の神Boreasが語源らしく、種小名は発掘調査をサポートしたCertek Heating Solutions(「サーテック暖房機器」会社名?)に対する献名ということである。
ホロタイプTMP 1989.055.0047は、右の前頭骨のみである。参照標本として前肢の末節骨II-3、後肢の末節骨II-3、後方の尾椎がある。さらに多数の分離した歯が暫定的に含まれている。末節骨などは、重複した骨がないことや大きさが一致することから、暫定的にホロタイプと同一個体と考えられるが、歯についてはおそらく別個体に由来するもので、同一種と考えることには注意が必要であるといっている。
ボレオニクスの固有形質は、前頭骨の上側頭稜supratemporal ridgeが、左右を合わせると他のドロマエオサウルス類よりも鋭い角度(55°)をなすことである。また次の形質の固有の組み合わせによって他のドロマエオサウルス類と識別される。長くほっそりした前頭骨;円弧をなす低い上側頭稜;上側頭稜のすぐ後方の領域がなめらかで後腹方に傾斜している。
ボレオニクスは時代の近いサウロルニトレステスとは、よりがっしりした前頭骨、上側頭稜がS字状でないこと、前頭骨の後側方面に顕著な孔がないことで区別される。またドロマエオサウルスとは、長くほっそりした前頭骨、背面が平坦なこと、前方内側が鼻骨によって広く離れていないことで区別される。
ホロタイプは完全に近い右の前頭骨であるが、側面と後眼窩骨突起は破損している。前後に長い形状はサウロルニトレステスと似ており、比較的短いドロマエオサウルスの前頭骨とは異なっている。しかし、ボレオニクスの前頭骨は同じ大きさのサウロルニトレステスの前頭骨よりもがっしりしている(骨の厚みのようなことか)。背側からみると、ボレオニクスの前頭骨では前方の鼻骨との関節面が、2つのVが連なったような形をしている。(前方の幅広いVと後方の深いVである。)この形はサウロルニトレステスと似ている。一方、ドロマエオサウルスではこの形状が誇張されている(exaggerated とは、前方のVと後方のVがよりはっきり分離しているということらしい)。この形はツァーガンやヴェロキラプトルの鼻骨/前頭骨縫合とも異なっている。
左右の前頭骨の縫合面interfrontal sutureのうち前方2/3の部分には、長くのびた溝があり、おそらく反対側の前頭骨の稜と結合していたと思われる。このようなtongue and groove構造によって、ドロマエオサウルス類の前頭骨はトロオドン類の前頭骨と区別される。トロオドン類の前頭骨では、この縫合面が全長にわたって、細かく指状に入り組んでいるfinely interdigitated 。
後眼窩骨突起よりも前方では、前頭骨の背面はサウロルニトレステスと同様に平坦である。ドロマエオサウルスでは、ここに顕著な縦の溝sulcus がある。その結果、ボレオニクスの前頭骨はドロマエオサウルスにあるような矢状稜midline crestを形成しない。
後方には上側頭窩の前内側縁をなす上側頭稜がある。この上側頭稜は正中線に向かって凹形のカーブをなす。このカーブはドロマエオサウルスとは似ているが、サウロルニトレステスのS字状のラインとは大きく異なっている。ボレオニクスでは、上側頭稜のはさむ角度が、他のすべてのドロマエオサウルス類よりも鋭い(55°)。
参照標本の後肢の末節骨II-3は、ドロマエオサウルス類に典型的な大きく発達したカギ爪である。それは薄く、強くカーブしており、外周に沿って測ると82 mmある。内側溝medial grooveと外側溝lateral grooveは非対称であり、内側溝は外側溝よりも背側を走っている。この非対称性は派生的なドロマエオサウルス類に典型的なものであり、原始的なミクロラプトル類ではより対称に近い。また、メインの溝の腹側に、より短くはっきりしない溝がみられるが、これもドロマエオサウルス、サウロルニトレステス、ヴェロキラプトルのような派生的なドロマエオサウルス類に典型的なものである。屈筋結節はバンビラプトルよりはよく発達しているが、サウロルニトレステスやヴェロキラプトルと同様である。
ホロタイプと参照標本(分離した歯も含む)すべての標本を用いて系統解析した結果では、ボレオニクスはヴェロキラプトル亜科Velociraptorinaeとされるクレードに含まれた。ここではボレオニクスは、ヴェロキラプトル、ツァーガン、アダサウルス、アケロラプトルとポリトミーをなしている。しかし今回も含めカリーらの研究ではLongrich and Currie (2009)などのデータマトリクスに基づいているため、アメリカ自然史博物館のTurner et al. (2012) などの分岐図とは内容が全く異なっている。今回の分岐図ではヴェロキラプトル亜科とドロマエオサウルス亜科を合わせたクレードよりも外側に、アトロキラプトルとデイノニクスがきており、バンビラプトルとサウロルニトレステスはさらに外側に位置している。依然としてエウドロマエオサウリアの系統関係については、なかなか意見が一致しないようである。
また、著者自身が注意が必要と述べている、分離した歯を除いて系統解析すると、ヴェロキラプトル亜科もドロマエオサウルス亜科も崩壊してしまったという。largely similar といっているが図は示していない。エウドロマエオサウリアの一種というくらいしかわからないということらしい。やはり断片的なものは難しいのだろう。
参考文献
Phil R. Bell & Philip J. Currie (2016) A high-latitude dromaeosaurid, Boreonykus certekorum, gen. et sp. nov. (Theropoda), from the upper Campanian Wapiti Formation, west-central Alberta. Journal of Vertebrate Paleontology, 36:1, e1034359, DOI: 10.1080/02724634.2015.1034359
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