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シギルマッササウルスの反撃(5)


”Spinosaurus B” とシギルマッササウルス

1934年にStromerは、スピノサウルスと似ているが異なる特徴をもつ獣脚類の部分骨格を記載した。これらの標本には、いくつかの長骨、脊椎骨、歯が含まれていた。Stromerは、腸骨と後肢の骨は他の骨と比べて小さすぎることから、別の個体のものと考えた。一方、歯、脊椎骨、腹肋骨と、後肢の骨はそれぞれ同一個体(つまり2個体)と考えた。
 脊椎骨としては5個の頸椎ないし胴椎(Wirbel a からWirbel e)と、7個の尾椎(Wirbel f からWirbel m)があった。Stromerはスピノサウルスの新種と考えたが、彼は当時すでに、非常に断片的な化石に基づいて新種を命名する慣習に嫌気がさしていた。そのため、あえて正式な命名をせずに”Spinosaurus B”とよんだ。
 Wirbel a とWirbel dは比較的よく図示されていた。Russell (1996) はWirbel aとシギルマッササウルスのホロタイプがよく似ていることに気づき、同じ種類と考えた。これらに共通の特徴としては、短く非常に幅広い椎体、前方の関節面によく発達した正中の結節があること、非常に強く発達し腹方に突出したキールなどがある。Stromerは、椎体のパラポフィシスが低い位置にあることからWirbel aを前方の頸椎と考えた。しかしEvers et al (2015) によると、獣脚類では頸椎の最後までパラポフィシスは低く保たれており、イクチオヴェナトルのようなスピノサウルス類では最前方の胴椎まで低い位置にある。このパラポフィシスや腹側のキールの形などから、Evers et al (2015)はWirbel aを最前方の胴椎としている。
 Evers et al (2015)は、Wirbel aとシギルマッササウルスのホロタイプの類似から、”Spinosaurus B”とシギルマッササウルスは、現在のところ同種とまでは言い切れないとしても、少なくとも同属だろうとしている。また、今回シギルマッササウルスの前方の胴椎とされた標本と、Stromer (1934) の中央の胴椎はよく似ていることから、Stromer (1934)の標本は胴椎までは同一個体であることを支持するかもしれないという。一方、Stromer (1934)の尾椎は、頸椎や胴椎に比べて小さく、特殊な形態をしている。尾椎も同一個体かもしれないが、現在のところ断定はできないといっている。
”Spinosaurus B”もやはり産出状態の記録がなく、脊椎骨についても厳密には同一個体と断定できないので、このように慎重な言い方をしているわけである。
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