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シギルマッササウルスの反撃(6)


スピノサウルスとシギルマッササウルスの違い

Evers et al. (2015) はIbrahim et al. (2014) のネオタイプを認めていないので、シギルマッササウルスとStromer (1915) のスピノサウルスのホロタイプを比較している。
 Stromer (1915) のスピノサウルスのホロタイプには、2個の頸椎、7個の胴椎、左上顎骨の断片、部分的な下顎、いくつかの歯、肋骨、3個の部分的な仙椎、1個の尾椎が含まれていた。2個の頸椎(Wirbel a とWirbel b)は図とともにかなり詳細に記載されている。また現存する唯一の写真にも写っている。
 Stromer (1915) は暫定的に、Wirbel aは軸椎、Wirbel bは中央の頸椎と考えた。しかしEvers et al. (2015)によると、バリオニクスやイクチオヴェナトルとの比較から、Wirbel aは第3頸椎(C3)と考えられる。バリオニクスでは第3頸椎の神経棘が軸椎の神経棘とよく似ているという。Wirbel bは確かに中央の頸椎で、椎体の長さと高さの比率などから第5頸椎(C5)と考えられた。
 これらの記述、図、写真をもとに比較すると、スピノサウルスとシギルマッササウルスの頸椎にはいくつかの重要な違いがあった。まずStromerは、スピノサウルスの頸椎には腹側のキールがないと記述している。一方シギルマッササウルスでは、中央の頸椎にすでにキールがあり、後方ではさらに発達している。同様に、シギルマッササウルスの中央の頸椎で顕著に発達している三角形の台座については、Stromerは言及しておらず、Wirbel bの図にも写真にもみられない。
 またWirbel bでは、椎体の側面に余分の深い窪みdeep depressionsがあり、図と写真で観察できるが、これはシギルマッササウルスにはない。
 さらにエピポフィシスの違いがある。Wirbel a とWirbel bの両方で、エピポフィシスは強く発達し後関節突起の上にオーバーハングしている。一方シギルマッササウルスでは、最も前方の頸椎(C4)でも、それはみられない。C3とC5でエピポフィシスが強く発達し、C4とC6では発達しないという状態は考えられないので、これは重要な違いであるという。
 最後に神経棘の形態がある。スピノサウルスのC5では、「シギルマッササウルスでない方」の脊椎骨と同様に、神経棘が垂直で前後に広がり、丈も高い。シギルマッササウルスのC4の神経棘は、短く後方に傾いている。また後方の頸椎では神経棘が低くスパイク状である。
 このように、比較できる限りにおいてシギルマッササウルスの頸椎はスピノサウルスの頸椎とはかなり異なっている。





 そこでおもむろに、恐竜博2016のスピノサウルス復元骨格の頸椎を観察すると、確かにスピノサウルスらしい形をしているようだ。横突起と頸肋骨があるので椎体の腹側はさすがに見られない。しかしエピポフィシスや神経棘は観察することができる。(北九州の恐竜ファンの方は実物をご覧ください。)
 C4, C5, C6あたりをみるとエピポフィシスが強く発達してオーバーハングしているのがわかる。また神経棘も前後の幅が広いようである。シカゴ大側もシギルマッササウルスのことは当然知っているので、スピノサウルスらしい頸椎だけを用いて復元したようにもみえる。
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