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肉食の系譜
ユルゴヴキアとドロマエオサウルス類の尾椎の進化

Copyright 2012 Senter et al.
最新ユタラプトルの骨格に驚いてはいけないという話である。恐竜ファンなら思うだろう。ユタラプトルといえば巨大なデイノニクスのようなイメージだけど、尾椎はこれでいいのかと。
恐竜くん情報によると尾椎はそれなりに見つかっているが、今のところドロマエオ型ではないらしいということであった。BYUの最新情報は知らないので何ともいえないが、参考になる情報はある。
結論からいうと、ユタラプトルはもともと、デイノニクスのような尾ではないようだ。ではドロマエオサウルス類の中で原始的な系統かというとそうではなく、二次的に突起が短縮したと考えられている。そのことについては、聞いたこともないようなドロマエオサウルス類ユルゴヴキアの論文で研究されている。
ブイトレラプトルの尾椎は突起が短いことは知っていたが、ドロマエオサウルス類全体でどうなっているのか知らなかったので、調べてみた。
皆さんご存知のように、多くのドロマエオサウルス類では、尾椎の前関節突起と血道弓の前方突起が非常に細長く伸びて、互いに重なって尾椎を包んでいる。1個の尾椎の前関節突起は、尾椎数個分の長さに伸びている。このように尾椎を取り囲む細長い突起の束を、caudotheca (尾椎鞘)という。
しかしドロマエオサウルス類の中にも例外があり、原始的なウネンラギア類にはこの構造が発達していない。また大型ドロマエオサウルス類のユタラプトルとアキロバトルでは、中間的な形態がみられる。これらの尾椎では前関節突起が伸びているが、その長さは尾椎1個分を大きく超えることはない。つまり多少は重なるとしても、デイノニクスやヴェロキラプトルのような突起でがんじがらめの外観ではないわけである。このような状態をhemicaudotheca (半尾椎鞘)という。
Senter et al. (2012) は多くのコエルロサウルス類の尾椎を研究して、まとめた尾椎の進化シナリオを描いている。この図には多くの情報が書き込まれているが、まずは星印だけを見ていただきたい。
caudothecaはドロマエオサウルス科の中でウネンラギア類にはみられず、ミクロラプトル類以上にみられる(黒星印)。Eudromaeosauria はおなじみのヴェロキラプトル、デイノニクス、ドロマエオサウルスなどを含む進化したドロマエオサウルス類である。その中で、アキロバトル、ユタラプトル、ユルゴヴキアでは突起が短くなってhemicaudothecaになっている(白星印)。アキロバトルとユタラプトルは最も大型のドロマエオサウルス類であり、地上で方向転換などする際には尾椎がより柔軟に曲がる方が適しているのではないかと考察されている。つまり大型化にともなって尾椎の状態が祖先のコエルロサウルス類のように逆戻りreversal したといっている。
ここでは説明しきれないが、この研究にはパラヴェス類におけるtransition pointの獲得や、ミクロラプトル類とEudromaeosauriaではtransition pointの位置が異なることなど、多くの内容が含まれているので参照されたい。ドロマエオサウルス類の進化傾向の中には、多くの逆戻りreversalが含まれていることがわかる。
ユルゴヴキア自体は、ユタラプトルと同様に白亜紀前期のユタ州に生息した小型のドロマエオサウルス類である。2 m 程度の小型の種類で、属名は現地語のコヨーテに基づく。シダーマウンテン層のYellow Cat Member の下層なので、ユタラプトルより少し古い時代である。小型だが成体なので、ユタラプトルの幼体ではない。ホロタイプは頸椎、胴椎、尾椎と恥骨の一部からなる断片的なものである。尾椎のうち6個は連続しており、その中にtransition pointが含まれているので、その後方の尾椎が保存されている。前関節突起が伸びているが、中間的な状態ということである。
参考文献
Senter P, Kirkland JI, DeBlieux DD, Madsen S, Toth N (2012) New Dromaeosaurids (Dinosauria: Theropoda) from the Lower Cretaceous of Utah, and the Evolution of the Dromaeosaurid Tail. PLoS ONE 7(5): e36790. doi:10.1371/journal.pone.0036790
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