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肉食の系譜
エリスロスクス
エリスロスクスは、三畳紀前期に南アフリカに生息したエリスロスクス類Erythrosuchidae の代表格で、最大種である。全長5 mのうち、頭骨が1 mという体形で、エリスロスクス類は不釣り合いに頭が大きいとされるが、逃げ足の速い獲物が存在しない世界では、これが最強ということだろう。恐竜展では大体、恐竜が出現する以前の不格好な爬虫類くらいの位置づけで、私もあまり注目したことはなかったが、肉食動物の頭骨としてなかなかの迫力があるので若干資料を集めてみた。
かつては初期の主竜形類Archosauriformesのうち、プロテロスクス類Proterosuchidaeとエリスロスクス類Erythrosuchidaeは近縁で、両者をあわせて単系のプロテロスキアProterosuchiaを構成すると考えられていたが、近年、これら2つのグループは単系ではなく多系群と考えられるようになった(Ezcurra et al. 2013)。プロテロスクス類は頭骨が長く丈が低く、より爬虫類的な姿勢で這う動物であるのに対して、エリスロスクス類は頭骨の丈が高く、半直立姿勢で歩行する強力な捕食者だったと考えられている。エリスロスクス類は、ペルム紀末にゴルゴノプス類など大型の肉食性単弓類が絶滅した後、大型捕食者のニッチを占めた最初の主竜形類だったようだ。
プロテロスクス類と異なり、エリスロスクス類以上の主竜形類(エウパルケリア、プロテロチャンプサ類、主竜類)では大腿骨に第四転子が発達している。つまりエリスロスクス類は第四転子を発達させた最初のグループである。
エリスロスクス類に含まれるメンバーは、完全には確定していない。かつてはParrish (1992) の解説がわかりやすかったが、その後の研究でメンバーは入れ替わっている。Parrish (1992)の論文では、中国のフグスクス、ロシアのガルジャイニア、南アフリカのエリスロスクス、中国のシャンシスクス、2種のウジュスコヴィア(ロシアのVjushkovia triplicostataと中国のVjushkovia sinensis)が含まれていた。その後、ウジュスコヴィアは消滅した。ロシアでの研究が進展した結果、Vjushkovia triplicostataは少なくともガルジャイニアと同属として、Garjainia triplicostata とされ、さらには最近、最初のガルジャイニアGarjainia primaと同種となった。また、中国のVjushkovia sinensisは、1985年にロシアの研究者が提唱したように、最近の系統解析ではエリスロスクス類ではなくラウイスクス類であるとしてYoungosuchusと呼ばれるようになった。ロシアとは別に南アフリカではガルジャイニアの新種が発見され、Garjainia madibaが加わった。また中国ではグチェンゴスクスがエリスロスクス類に加わっている。
Ezcurra et al. (2013) ではプロテロスクス類とエリスロスクス類の形態について、両者の比較に重点をおきながら記述している。それを読むと、歯に関連した形質の違いがわかりやすい。
1)プロテロスクス類では同種内で歯の数の変異が大きく、小型の個体では歯の数が少なく大型の個体ほど多い。エリスロスクス類では一定しており、エリスロスクスでは前上顎骨歯5、上顎骨歯12、歯骨歯13である。
2)プロテロスクス類では歯根が歯槽に収まっているが、歯根の一部が歯槽の骨と結合しているankylothecodont (subthecodont) という状態である。エリスロスクス類では完全にthecodont 歯槽性である。
3)プロテロスクス類では鋤骨、口蓋骨、翼状骨に口蓋歯がある。エリスロスクス類では基本的に口蓋歯はない。ただしガルジャイニアの口蓋骨には口蓋歯がある。
エリスロスクス類はがっしりした大型の動物で、異様に大きい頭をもつ。プロテロスクス類もエリスロスクス類も前上顎骨と上顎骨の間はくびれているが、エリスロスクス類では前上顎骨が、プロテロスクス類ほど下方に傾いていない。ただしガルジャイニアでは前上顎骨がかなり傾いている。前眼窩窓はよく発達しているが、下側頭窓よりはずっと小さい点は、プロテロスクス類と同様である。松果体孔pineal foramenはないが松果体窩pineal fossaというくぼみがある。
また仙前椎とくに頸椎が前後に強く短縮している、肩甲骨の前縁が凹形で遠位端が前後に拡がっている、上腕骨の三角筋稜が強く発達している、腰帯の各骨の形状、足根部の構造などがプロテロスクス類とは異なっている。
Parrish (1992)の論文ではエリスロスクス類の共有派生形質として、頸椎と胴椎の椎体の側面が深く陥入している;口蓋歯がない;上顎骨の腹側縁が凸型である;前上顎骨の水平な腹側縁と上顎骨の凸型の腹側縁の間に段差stepがある;後眼窩骨が鱗状骨と、頬骨が方形頬骨と、深いV字形の切れ込みにはまって結合している(tongue-and-groove)など、8つの形質をあげている。
他のエリスロスクス類と異なるエリスロスクスの固有形質は、鱗状骨の後縁がなめらかな凸型であることである。他のエリスロスクス類では鱗状骨の後縁に、鉤状hook-likeの突起がある。エリスロスクスにはこれがない。
頭骨を並べて比較してみると、それぞれ個性があって良いのだが、エリスロスクスが最も威厳があるような気がする。頭骨の丈が高くなると眼窩が縦長になる点も、獣脚類やラウイスクス類だけではなくて、もっとずっと古い起源があることがわかる。
参考文献
J. Michael Parrish (1992) Phylogeny of the Erythrosuchidae (Reptilia: Archosauriformes), Journal of Vertebrate Paleontology, 12:1, 93-102, DOI: 10.1080/02724634.1992.10011434
Martín D. Ezcurra, Richard J. Butler and David J. Gower (2013) ‘Proterosuchia’: the origin and early history of Archosauriformes. Geological Society, London, Special Publications 2013, v.379; p9-33. doi: 10.1144/SP379.11
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