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チャナレスクス (プロテロチャンプサ類)



プロテロチャンプサ類は南アメリカに固有の主竜形類のグループで、主竜類へとつながる系統の途中で、おそらくプロテロスクス類やエリスロスクス類の後あたりで分岐したグループと考えられている。プロテロチャンプサ類は三畳紀後期カルニアンのアルゼンチンとブラジルからのみ知られている。一見、ワニに似ているが、ワニではない。恐竜、翼竜、ワニ類は主竜類の中であり、ポストスクスのようなラウイスクス類も主竜類の中でワニ類の系統であるが、プロテロチャンプサ類は主竜類の外側なので、ワニとはかなりかけ離れた動物である。現生ワニから見ると、恐竜や翼竜よりも遠縁の系統である。
 そうはいっても、ワニではないがワニみたいな「槽歯類」だろ、と言われればその通りであるが、ぱっと見て違和感のある奇妙な動物なので、その奇妙さを表現したくて取り上げた。

プロテロチャンプサ類はワニのように扁平な頭骨をもつことから、多くの研究者により水生または半水生の生活を送っていたと考えられてきた。しかしこの仮説は厳密に検証されたものではなく、骨格全体を見ると必ずしも水中生活に適していない。この点について、Arcucci et al. (2019) は形態から生活様式を推定するecomorphologyという観点から、プロテロチャンプサ類の生態について再検討している。

 頭骨はワニのように三角形で吻は細長く、後頭部は幅広く上下に扁平になっている。眼窩や鼻孔などの孔は、おおよそ背側を向いている。二次口蓋が発達している。頭蓋の背側面には装飾ornamentationがあるが、これは伝統的に水生を示すと解釈されてきた。歯は円錐形とあるが側扁していて鋸歯があるという。つまり魚食性と考えられてきたが肉食性ともみえるようだ。
 二次口蓋があって食物を飲み込む際にも呼吸ができることは、水生の四肢動物にとって有利であるが、陸生のワニ類にもあり、哺乳類にも水生とは関係なく進化しているので、二次口蓋の存在自体は必ずしも水生を示すものではないという。
 またプロテロチャンプサ類には口蓋歯が発達しており、そのパターンは水生のドスウェリアやヴァンクレアヴィアとも似ているが、陸生で植物食のアゼンドーサウルスとも似ており、特定の生活様式と結びつけるのは難しい。

ワニやモササウルスなどの水中生活者と異なり、尾は縦に扁平ではない。プロテロチャンプサ類の尾椎は神経棘が短く、横突起が長いので、付け根から中央までむしろ上下に扁平で、後方は円筒形という、トカゲのような尾をしている。形がよく似ている南米のイグアナ類は、完全に陸生である。
プロテロチャンプサ類の四肢は原始的な主竜形類の一般的なパターンを保っていて、特に縮小したり拡大したりした部分はないという。後肢は前肢よりも1/3ほど長い。大腿骨は上腕骨よりも20%長く、よく発達した第四転子がある。足はチャナレスクス、プロテロチャンプサ、トロピドスクスで保存されているが、手は断片的にしか知られていない。プロテロチャンプサ類の足は非対称で、第1,第2指が太短く、第4指が最も長く、第5指は中足骨だけになっている。この第5指の退化は、陸生のラウイスクス類やワニ形類にもみられる。
 ワニのような皮甲の発達は水生動物によくみられるが、プロテロチャンプサ類では皮甲は退化的で、背中の正中に1列だけみられる。このような皮甲はエウパルケリア、ラウイスクス類、スフェノスクス類にみられるが、これらはすべて陸生である。一方全身に皮甲が発達したドスウェリアやヴァンクレアヴィアは水生と考えられている。

Arcucci et al. (2019) はまた、チャナレ層から発見されたプロテロチャンプサ類の骨の横断切片を作製し、組織像を観察している。これらはプロテロチャンプサ類の特徴を示すが、種類までは特定できない大腿骨、脛骨、腓骨である。骨の微細構造と生活様式の関連については、現生の四肢動物でよく研究されている。一般に、陸生動物の長骨は骨髄腔が大きく、中程度に密度の高い緻密骨をもつ。一方、水生動物の長骨は骨髄腔がより小さく、より重く密度が高まるか、あるいはより軽く海綿状になるか(カメ類)のいずれかである。プロテロチャンプサ類の骨組織像からは、陸生または半水生の生活様式が示唆されると著者らは結論している。

チャナレスクスの頭骨は真横から見ると細長いが、スピノサウルス類のように幅が狭いのではなく、実際ワニのように幅が広く上下に扁平な形である。ただしチャナレスクスの頭骨はプロテロチャンプサほど扁平ではなく、やや立体的で眼窩は斜め側面を向いているという。このワニ顔はいかにも水中で獲物を待ち伏せしていそうであるが、胴体は特に水中生活に適しておらず、四肢は細長くイヌのような直立姿勢で復元されている。ただし今回用いた資料の骨格復元図では、後肢は完全に指行性のように描いてあるが、これは確定ではないらしい。チャナレスクスでは足とくに足根部が知られているが、恐竜型とワニ型の中間で、しょ行性とも指行性とも決められないという。そのあたりは少し割り引いて見たとしても、奇妙な動物である。


参考文献
Arcucci, A., Previtera, E., and Mancuso, A.C. (2019). Ecomorphology and bone microstructure of Proterochampsia from the Chañares Formation. Acta Palaeontologica Polonica 64 (1): 157–170.
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