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ジュラヴェナトルはメガロサウルス類の幼体かもしれない



ジュラヴェナトルについても調べてみると、面白いことがあったので簡単にメモする。
ジュラヴェナトル・スタルキJuravenator starkiは2006年に後期ジュラ紀のドイツ南部ゾルンホーフェンから報告された小型の獣脚類化石で、非常に保存の良い全身骨格である。カギ爪のケラチン質まで保存されており、最初の記載では尾椎の近くにウロコ状の痕跡があった。その後、2011年の詳細な記載論文ではUV光の照射によって、体の周囲に原羽毛と考えられる細かい繊維状構造が確認された。

私は2006年のNatureで最初にこれを見たとき、顔が「ワニ口クリップ」に似ていることと、コンプソグナトゥス類にしては妙に足が短いと思ったことを記憶している。ワニ口クリップというのは、頭骨がややつぶれて眼窩が少し下方にずれているので、クリップの支点(軸)のように見えたのと、歯列が前方に偏っているためである。歯の数が少ないのはスキピオニクスも同様で、幼体であるためとも考えられる。上顎骨歯の数はジュラヴェナトルが8、スキピオニクスが7、コンプソグナトゥスが14とある。(標徴形質のところと本文中で数が少し異なっている。)

Chiappe and Göhlich (2011)はフル記載で、系統解析はしていないが、ジュラヴェナトルはコンプソグナトゥスと最も似ておりコンプソグナトゥス類と考えている。ただし彼らも当時から「コンプソグナトゥス科」には問題があると意識していたらしい。「コンプソグナトゥス科」が単系であるかどうかは確立しておらず、徹底した系統解析が必要であると述べている。

Chiappe and Göhlich (2011)の最後の図(Fig.26)ではゾルンホーフェン産の小型獣脚類として、ジュラヴェナトルとコンプソグナトゥスの全身骨格を並べているが、そもそも体形がかなり異なっている。頭と首の比率、頭と後肢の比率も差がある。ジュラヴェナトルはかなり頭が大きく、後肢は短いのである。コンプソグナトゥスはコエルロサウルス類らしく鳥に近い体形に見えるが、ジュラヴェナトルは下手をするとポポサウルスのような二足歩行のワニ類に似ていなくもない。メガロサウルス類とすれば納得できる体形である。

この全身骨格図ではジュラヴェナトルはかなり尾が長いようにみえるが、この推定も今からみると興味深い。コンプソグナトゥス類という前提で、シノサウロプテリクスと比較しているのである。ジュラヴェナトルでは保存された尾椎は44個で、尾の後端は保存されていない。シノサウロプテリクスのホロタイプ標本には64個の尾椎があり、尾の長さは頭胴長の170%である。そこでシノサウロプテリクスと同じプロポーションと仮定して、その比率(失われた最後の20個の比率)をジュラヴェナトルに当てはめると、尾の長さは頭胴長の180%となるという。しかし、獣脚類の中でも最も尾が長いシノサウロプテリクスに合わせて、尾椎があと20個もあるとする時点で、相当尾が長いと想定しているのだから、それは胴に対しても長くなるだろう。ジュラヴェナトルがコンプソグナトゥス類でなく、メガロサウルス類の幼体とすれば、尾椎の数も長さも違っていても不思議はない。

この論文のジュラヴェナトルの特徴の中には、頭骨が大きいことや足が短いことも含まれている。また上顎骨の歯が少ないことや、前眼窩窓の長さが眼窩の長さとほぼ同じであること、肩甲骨が長いこと、中央の尾椎の関節突起が弓状であることなども記されているが、いずれも他のコンプソグナトゥス類やオルニトレステスなど基盤的コエルロサウルス類としか比較していない。他のコンプソグナトゥス類にはみられない形質を固有形質としているが、テタヌラ類全体の中でみるとどうなのかという視点はない。



ジュラヴェナトルの特徴として意味がありそうなものに、上顎のくびれがある。コエロフィシス類やスピノサウルス類、メガロサウルス類のエウストレプトスポンディルスでは、前上顎骨と上顎骨の間にくびれがある。一方ジュラヴェナトルの上顎では、上顎骨の中にくびれがある。上顎骨歯はくびれより前方に2本、後方に6本あり、くびれのすぐ後方の2本が大きい。こんな変な位置にくびれがあるのはコンプソグナトゥス類どころか、テタヌラ類の中でもユニークなのではないか。さきのCau (2021)の研究でメガロサウルス類のエウストレプトスポンディルスに近いところにきたというのは、このくびれが1つの要因なのではないか。

さらに、これは文献に書いてあることではなく筆者が気づいたことであるが、上顎骨の上行突起が屈曲しているようだ。上顎骨の上行突起が顕著に屈曲していることは、メガロサウロイドの特徴である。この点について面白いことに、産状の頭骨拡大図(Fig.8)では上顎骨の上行突起が直線が折れるようにカクッと屈曲している。この部分はシノサウロプテリクスやコンプソグナトゥスではなめらかなS字状カーブである(Fig.9)。ところが、コンプソグナトゥスなどと並べた頭骨復元図(Fig.10)では、ジュラヴェナトルのこの部分がややなめらかに描かれている。他のコンプソグナトゥス類と合わせたのではないか。
 そう思ってみると確かにCau (2021)のいうように、メガロサウルス類の幼体の可能性も大きいように思われる。


参考文献
CHIAPPE, L. M. & GÖHLICH, U. B. (2011): Anatomy of Juravenator starki (Theropoda: Coelurosauria) from the Late Jurassic of Germany. – N. Jb. Geol. Paläont. Abh., 258: 257–296; Stuttgart.

Copyright : Chiappe and Göhlich (2011)
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