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肉食の系譜
プウィアンヴェナトルの森
プウィアンヴェナトルは、前期白亜紀バレミアン(Sao Khua Formation)にタイ東北部に生息した最も原始的なメガラプトル類である。推定全長6 m で骨格はアウストラロヴェナトルと似ている。
プウィアンヴェナトルは嘆いた。腹が減った。そろそろ虫でもカエルでも食べないと。昨日はせっかく手頃な竜脚類の幼体を見つけたのに、カルカロ族の若者に目の前で横取りされた。このあたりには昔はメトリア族がいたが、最近は北西の乾燥地帯からやってきたカルカロ族が幅をきかせている。カルカロ族は竜脚類を狩るのにたけており、卵、孵化したての幼体からかなり大きい亜成体、老齢の個体まで無駄なく食物資源として活用する。カルカロ族の幼体は小型の獲物を消費するので、彼らが分布する地域では我々中型のハンターは商売あがったりで、数が減ってきていた。
昆虫くらいはそこらにいるが、栄養価が低くて割に合わない。常に大集団で暮らすシロアリのような昆虫が、一定の場所に巣を作っていればいいのだが。昆虫食に適応した者たちは体のサイズが小型化し、発達した聴覚と視覚で虫を探索する夜行性のハンターになっていった。また植物食に走った者たちは、歯がギザギザになるか退化傾向を示し、長い首と大きなカギ爪のある手で枝を手繰り寄せて、もしゃもしゃと食べている。やはり大量に食べる必要があり、消化に時間がかかるのででっぷりメタボな腹部をしている。ああはなりたくないなあ。しかしあの巨大なカギ爪は、強力な武器にもなりそうだ。
プウィアンヴェナトルは肉が食べたかった。大型の獲物を狙うなら、カルカロ族のように大きな顎とナイフのような歯で肉片を切り取るのがいいだろう。彼らは前足はあまり使わないので、小さくなっていた。しかし自由度の高い前足で、小型の獲物を捕らえるのは三畳紀以来、獣脚類の本分ではないか。プウィアンヴェナトルは小型の獲物を捕らえる腕前には自信があった。なんとか肉食のポリシーを貫きながら、カルカロ族とは違った方向性の戦略はないものか。
カルカロ族の圧迫を受けるこの地域から、移住も考えていた。はるか北の中国北部には、豊かな森があると聞く。そこでは小型の獲物がふんだんに得られるが、ドロマエオ族、コンプソ族、ティラノ族など競合するハンターも多く、しのぎを削っている。すでに競争が激しい地域に参入するのは難しい。一方、ここから南に向かうと半島や多数の島々がある。そのさらに南には、大きな陸地があるという。そこにはたくさんの竜脚類が繁栄しており、ハンターはほとんどいないと聞いていた。獲物を探しながら、少し南方に移動してみようかな。
(注)プウィアンヴェナトルの気持ちを考えたフィクションです。
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