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肉食の系譜
ダスプレトサウルス・ウィルソニ
ダスプレトサウルス・ウィルソニは、後期白亜紀カンパニアン(Judith River Formation)に米国モンタナ州に生息した大型のティラノサウルス類で、2022年に記載された。
ホロタイプBDM 107 は分離した部分的な頭骨と胴体の骨で、左右の前上顎骨、右の上顎骨、頰骨、涙骨、方形骨、方形頰骨、歯骨、夾板骨、左の後眼窩骨、鱗状骨がある。その他に部分的な頚椎、仙椎、尾椎、1個の肋骨、1個の血道弓、1個の中足骨がある。頸椎と仙椎はまだクリーニング中であるという。
ダスプレトサウルス・ウィルソニの生息年代はおそらく約76.5 Ma で、ダスプレトサウルス・トロスス(upper Oldman Formation, 77.0 Ma )とダスプレトサウルス・ホルネリ(Two Medicine Formation, 75.0 Ma )の中間の時代と考えられた。
この標本は以下のような形質からダスプレトサウルスと同定された。上顎骨の表面が非常に粗く、盛り上がった稜や窪みはない(ティラノサウルスやタルボサウルスとは異なる);後眼窩骨の角状突起が外側側頭窓に近づいている;鱗状骨の後眼窩骨突起が外側側頭窓の前縁よりも後方で終わっている;歯骨の下顎結合面symphyseal surface が極めて粗い、である。
ダスプレトサウルス・ウィルソニの固有派生形質は、夾板骨のmylohyoid foramen という孔が細長いことであるが、その他にダスプレトサウルスとして祖先的な形質と派生的な形質の組み合わせを多数示す。つまりダスプレトサウルス・トロススとダスプレトサウルス・ホルネリのちょうど中間的な形態を表す。これはかなり細かいのでいくつかの骨について書き留める。
ダスプレトサウルス・ウィルソニの前上顎骨の歯列は、ダスプレトサウルス・ホルネリ、タルボサウルス、ティラノサウルスと同様に、ほぼ真横(内側外側)に並んでいるので、側面から見ると最も外側の1本だけがはっきり見えると考えられる(ウィルソニでは歯は1本しか保存されていないが、歯槽の配列から)。一方、ダスプレトサウルス・トロススやより基盤的なティラノサウルス類では、前上顎骨の歯列は前内側方向に並んでいる。トロススのホロタイプでは側面から見ると2、3本の歯が見える。つまりこの点ではウィルソニはトロススよりも進化的で、ホルネリなどと似ている。
涙骨の角状突起は、ダスプレトサウルス・ホルネリ、タルボサウルス、ティラノサウルス以外のティラノサウルス科と同様に、はっきりした頂点をもって背側に突出している。この頂点の位置は他のティラノサウルス亜科と同様に、涙骨の腹側突起の真上にある。ウィルソニの角状突起の高さは、トロススとホルネリの中間である。
Carr et al. (2017) は、涙骨に余分の角状突起accessory cornual process があることが、ダスプレトサウルスの共有派生形質としている。しかし、この突起は他の種類にもみられる涙骨の眼窩上突起supraorbital process と区別できないものであるという。著者らがティラノサウルス、タルボサウルス、テラトフォネウスの涙骨の眼窩上突起を観察したところ、ダスプレトサウルスのものと同一と考えられた。よってこの余分の角状突起という形質は、定量的に示されない限り用いるべきではないといっている。
ウィルソニでは前前頭骨は保存されていないが、涙骨の前前頭骨との関節面から、その方向を知ることができる。それによるとウィルソニとトロススでは、前前頭骨は前後方向を向いている。これはゴルゴサウルス、テラトフォネウス、チアンジョウサウルスにもみられる。一方、ダスプレトサウルス・ホルネリ、タルボサウルス、ティラノサウルスでは、前前頭骨は前内側あるいは内側を向いている。つまりこの点ではウィルソニは、トロススと近く、ホルネリ以上とは異なる。
ウィルソニの後眼窩骨は、トロススと最も似ており、大きな角状突起が後方で外側側頭窓の前縁に近づいている。Carr et al. (2017) は、後眼窩骨の角状突起が外側側頭窓に近づいていることをダスプレトサウルスの共有派生形質とした。しかし、ホルネリのホロタイプでは後眼窩骨の角状突起は外側側頭窓に近づいておらず、むしろティラノサウルスやタルボサウルスのように離れている。
同様にウィルソニとトロススで共有している形質は、後眼窩骨の角状突起が2つの突起に分かれていることである。眼窩の背側のsupraorbital shelf と、より後腹側にあるcaudodorsal tuberosity である。ホルネリでは角状突起が2つに分かれておらず、ひとかたまりになっている。
後眼窩骨の腹側突起は他のダスプレトサウルスと同様に先細りになっている。ティラノサウルス、タルボサウルス、ゴルゴサウルス、テラトフォネウス、アルバートサウルスでは大きな後眼窩骨の眼窩下突起が前方に突き出しているが、それはみられない。ダスプレトサウルスでも眼窩下突起が全くないわけではないが、他のティラノサウルス科に比べて非常に小さい。
新種といっても既に有名な属だし、ホルネリとトロススの中間ということで、それほど新鮮味はないのかなと思っていたが、これはダスプレトサウルスのとらえ方が変わるかもしれない、重要な研究だろう。今回の系統解析の結果では、ダスプレトサウルスがクレードにならず、多系群になっている。トロスス、ウィルソニ、ホルネリは最も進化したティラノサウルス類(タルボサウルスやティラノサウルスなど)を生みだすための「段階」のようになっている。このことについては、別の論文を投稿中なのでここでは触れないといっている。これらのダスプレトサウルスの各種類はアナジェネシスにより進化したというCarr et al. (2017) の仮説を支持しているが、アナジェネシスの過程が含まれた場合、分岐分析はどうなるのだろうか。分岐しないものに分岐分析を適用できるのだろうか。
もし今後もこの分岐図が支持されるならば、ウィルソニとホルネリはそれぞれ、ダスプレトサウルスではなく別の属名を与えなければならなくなるとも述べている。いずれにしても今後の研究が楽しみである。
参考文献
Warshaw EA, Fowler DW. 2022. A transitional species of Daspletosaurus Russell, 1970 from the Judith River Formation of eastern Montana. PeerJ 10:e14461 DOI 10.7717/peerj.14461
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