goo

ナトヴェナトル



ナトヴェナトル・ポリドントゥスNatovenator polydontusは、後期白亜紀(Baruungoyot Formation)にモンゴルのゴビ砂漠(Hermiin Tsav)に生息したドロマエオサウルス類(ハルシュカラプトル亜科)で、2022年に記載された。ホロタイプ標本は、ほとんど完全な頭骨を含む、大部分が関節した骨格である。ハルシュカラプトルと似ており、同様に半水生の生活をしていたと考えられた。

この発見により改訂されたハルシュカラプトル亜科の特徴は、背腹に扁平な前上顎骨、前上顎骨に多数の神経血管孔がある、前上顎骨歯が大きく密集し、遅延した置換パターンをもつ、前方の上顎骨歯が縮小している、外鼻孔が後退し背外側にある、非常に長く伸びた頸椎、前方の頸椎の後関節突起が癒合して葉状になっている、尺骨が扁平となり鋭い後縁をもつ、第2と第3中手骨が同じ太さである、などである。

ハルシュカラプトルとも異なるナトヴェナトルの固有派生形質は、前上顎骨の前端近くに幅広い溝がある;前上顎骨の鼻孔間突起internarial processが長く、鼻骨を覆い外鼻孔の後方まで伸びている;大きく切歯形の13本の前上顎骨歯;最前方の3本の上顎骨歯が縮小し密集している;外鼻孔が前後に長い(眼窩の前方部の30%);軸椎の側面に後側方を向いた突起がある;頸椎にプレウロシールがない;肋骨の基部が後側方を向き、また水平に近い;第2中手骨の中央がくびれているhourglass-shapedなどである。

前上顎骨には多数の歯があり、歯槽が骨の隔壁で仕切られることなく密集している。歯冠はハルシュカラプトルと同様に高く切歯形である。置換歯が大きいことから、前上顎骨歯の置換はハルシュカラプトルと同様に遅いと考えられた。ただしナトヴェナトルでは前上顎骨歯は13本で、ハルシュカラプトルの11本より多い。上顎骨では、最も前方の3本の歯が、前上顎骨歯や後方の上顎骨歯よりも顕著に小さい。このパターンはハルシュカラプトルにもみられるが、ハルシュカラプトルでは縮小した歯は2本である。上顎骨と歯骨の歯は鋭い牙状で鋸歯がなく、それぞれ23本以上と考えられた。

頸椎は10個だが一個一個が長く伸びている。そのためほとんどのドロマエオサウルス類よりも首が長く、頸椎全体は胴椎全体よりも長い。しかしハルシュカラプトルよりは短い(ハルシュカラプトルでは頸椎全体が胴椎+仙椎と同じ)。頸椎にはプレウロシールがない。一方ハルシュカラプトルでは、第7から第9頸椎にプレウロシールがある。


ナトヴェナトルの胴椎の肋骨は、かなり後側方を向いている。これは地上性の獣脚類と異なり、ウミスズメ、ウミガラス、アビ、ヘビウのような多くの潜水性の鳥類と似ている。これらの潜水性の鳥類では、後方を向いた肋骨は体を流線形にすることで、遊泳を助けている。この後方を向いた肋骨は鳥類のほか、半水生のカモノハシやタニストロフェウスにもみられる。一方、モササウルスやクジラ類のような完全に水生の四肢動物では、胸椎全体が傾いたり、胸郭が前方に集中することで全体として流線形を作り出すのに役立っている。つまりナトヴェナトルの肋骨は、半水生の動物の傾向を表している。

ナトヴェナトルの肋骨のもう一つの特徴は、基部が水平に近く幅広いアーチをなすことで、これは背腹に圧縮された樽状のbarrel-shaped胸郭を表す。これも半水生と推定されるスピノサウルス類やコリストデラ類にみられるという。このようにナトヴェナトルの肋骨はいずれも半水生の生態を支持する。

論文の生体復元図(Fig.5)にはアヒルのように水面に浮いた姿と、潜水して魚を追いかける姿の両方が描かれている。やはり潜水して泳いでいる姿勢の方が良いと思ったので、イラストはそうした。このアヒルのように浮いた姿は、羽毛の性質による。ガンカモ類は防水性の羽毛で空気を含むので、このように浮いていられるが、ウやヘビウの羽毛は防水性ではないため濡れてしまい、長時間水面に浮いていることはできないという。


参考文献
Sungjin Lee, Yuong-Nam Lee, Philip J. Currie, Robin Sissons, Jin-Young Park, Su-Hwan Kim, Rinchen Barsbold & Khishigjav Tsogtbaatar. (2022) A non-avian dinosaur with a streamlined body exhibits potential adaptations for swimming.
COMMUNICATIONS BIOLOGY | (2022) 5:1185 | https://doi.org/10.1038/s42003-022-04119-9 | www.nature.com/commsbio
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )