早い時間に河川敷に行くと会うヨークシャーテリアのダン吉君。本名は車ダン吉、10歳のオスのヨーキーです。いつも飼い主さんの自転車の後のカゴに乗せられて、河川敷の土手にやってきます。被毛をほとんど刈り込んでいるので、一見ヨーキーには見えず、未熟児の小鹿のようです。寒い日には手編みのボレロを着せられて、とても可愛い。
飼い主さんは虫や野の草に詳しく、「ただ者ではない」と私は思っているのだけど、およそヨーキーを飼う雰囲気の人ではないのですが、ダン吉くんを自分の目の届く範囲に放し、散歩をさせています。
ある日の会話でダン吉君が不自由な体であることを知りました。「コイツは三重苦なんだよ。目も見えなくて、耳も聞こえない。おまけにアトピー性皮膚炎だから」と飼い主さん。そのお話から被毛を刈り込んでいる理由や、ダン吉君があまり飼い主さんから離れない理由が分かりました。
目が見えず、耳が聞こえなくても、それほど不自由そうに見えないのは、犬の嗅覚が人間よりはるかに優れているからでしょう。
犬は鼻腔内の嗅上皮(きゅうじょうひ)という匂いを感じる細胞の表面積が人間より広いため、匂いを嗅ぎ分ける能力が(嗅ぎ分ける匂いによって違いますが)、人間の5,000から1億倍もあるといわれています。人間の嗅上皮がおよそ5平方cmなのに対して、犬は18~150平方cm。その上、匂いを識別する神経も優れているため、匂いによる個体識別が的確にできるわけです。
ダン吉も衰えていない嗅覚で飼い主さんをはじめ、周囲のさまざまな匂いで識別をしているのですね。
ダン吉君は糖尿病で、1日2回のインシュリン投与が欠かせないそうです。獣医さんでインシュリン注射をしてもらうと1回2,000円かかるそうです。1日2回必要なら、1日に4,000円もかかってしまう。
そこで飼い主さんは自分で1日2回、ダン吉君にインシュリンの注射を打ってあげているとのこと。「治療で毎月10万円かかってるよ」とこともなげにおっしゃる。スゴイ…。
それだけでもやんなっちゃうのに、それでも飼い主さんは毎朝ダン吉君を自転車に乗せて河川敷にやってきて、ダン吉君を遊ばせています。そして、夏には草ボウボウになって通りにくい土手道の草を刈ったりしてくれるし、虫や野の草を和んだりしているのです。
飼うのに飽きたから、思いのほか世話が面倒だからといって、簡単に保健所にやってしまう飼い主たちにぜひとも聞かせたい話です。