彼女の飼い犬であるゴールデンが亡くなる前は、散歩のときなどにちょくちょく立ち話もしたのだが、近所であるにもかかわらず、今では数カ月に1回程度しか顔を合わせることがなくなった。
その彼女に久しぶりに会った際、彼女が「また犬を飼いたいのだけど、どこかで手に入らないかしら。でも小型犬はイヤよ、バカだから」と言うのだ。何でも彼女の娘が飼っているミニチュア・ダックスがよく吠えて、バカなのだと言う。
彼女は以前にも似たようなことを言っていたけれど、小型犬がバカだなんて聞き捨てならない発言である。
犬種の好みはあろうと思う。私だって、飼うなら小型犬より大型犬を飼いたいと思っていたのだから、好みがあるのは分かる。分かるが、小型犬をバカ扱いするのはいかがなものかと思う。
確かによく吠える小型犬を多く見かける。
うちのマンションにも人を見れば吠えるダックスがいる。人を見ても吠えるのだから、うちの犬は出会えばいつも吠えられている。その飼い主さんは飼い犬が吠えれば抱き上げ、散歩にも抱いて歩いたりしている。それじゃあ、散歩にならんだろうと思う。
小型犬はすぐに抱き上げられるし、引きも強くないので、飼うのが楽なのは分かる。だからといって、何か問題行動があれば、すぐに抱き上げたり、キャリアカーに乗せたり、ハウスに入れたりして、その場をやり過ごすのはよろしくないと思っている。
なぜなら吠えたり、ガウガウしたりするたびに抱かれたり、キャリアカーに乗せられることは、犬にとって自分の身が守られる場所に置かれるという“ご褒美”をもらうことと同じだから。
そんな道理が通れば、気に入らなければいきなり噛みついたり、ガオガオしたり、シュンとしてみたり、人が予測できない行動にでることもありましょう。予測したり、理解していないのは人間のほうで、犬にとっては当たり前の行動なのではないだろうか。
小型犬だろうが大型犬だろうが、犬は犬です。大地を踏みしめる四肢をもった動物です。対人だろうが対犬だろうが、吠えたり、ガウガウやったりしたつど、四肢をしっかり踏ん張らせ、していいこと、して欲しくないことを理解させる努力を飼い主さんがしなくて誰がするのか。
吠えたり、攻撃的になったり、粗相を繰り返したりするには、それなりの理由があるはずだ。しつけの手を抜けば、小型犬だろうが、中・大型犬だろうが共同生活に支障をきたす問題は出てくるものだ。犬がバカなのでは決してない。飼い主さんが真剣にしつけに取り組んでいないだけだ。
今のマンションに引っ越す前は戸建てだったので、編集プロダクションを運営する傍ら、幼犬の預かり保育やパピーレッスンをやっていたことがある。
預かり保育の相談の内容は、室内での頻繁なかけションをどうにかしたいとか、おもちゃを返さないとかさまざまだったけれど、基本的には飼い主さんの姿勢を変えるだけで、改善されることが多かった。もちろん飼い主さんにとっては根気も必要で、大変だったかもしれないけれど、当たり前です、いくら小さくても小型犬だって人間のおもちゃじゃないんだから。
犬の性格にも個体差があるから、臆病な犬もいれば、そうでない犬もいるけれど、まずは犬としての自律心を養う手助けをしてあげることが大切だと思う。
飼い主さんのちょっとした勘違いが増幅されて、問題行動とされる行為が助長されていくのだけど、大切なことは飼い主がそれに気づき、犬について、その誤りの軌道修正をするだけの意識をもつということなのではないかしら。
私は小型犬でも必ず脚側歩行の練習をさせていた。小型犬は引きも強くないから、その必要性を感じず、勝手にあちこち歩かせている飼い主さんも多いけれど、私が重視したのは脚側歩行を完璧にさせることではなく、そういった練習をともにすることによって築かれる犬との関係だった。だから、私に預けてくれた飼い主さんにもそう伝えてきた。
子犬は社会化が大切だとよく言われるけれど、兄弟犬や親犬との交わりの次に、ほかの人間、ほかの犬との社会化より先に、飼い主がその子を犬として扱い(擬人化せずに)、快適に共生するルールを構築することが、まず犬を迎え入れてからしなくてはいけない、お互いの社会化だと思っている。
大型犬は引きも強く、破壊力も半端じゃないので、飼い主はそれなりにしつけを入れようとします。その飼い主の意識や過程が大切なのだと思うのだ。もちろん取り立ててしつけは入れないという人もいるけれど、まず大切なのはしつけなどを通して犬に教え、逆に教えられるというやり取りの過程で、犬と信頼関係が築かれるのだということを飼い主が理解することだ。
私はむしろ小型犬のしつけや訓練のほうが大変だと思ってしまう。目線が低いし、誉めるときも触れてやるときも飼い主は腰をかがめなくてはならないし、引きは強くないけれど、注意事項はいっぱいだ。
犬だって命ある生き物だもの。「飽きた」とか「言うことを聞かない」などと言われて犬たちが保健所行きにされる現状を考えたら、犬を飼うことをもっと重く受け止めて欲しいと思ってしまう。
「小型犬はバカだ」「小型犬じゃなければ何でもいいから、どこかで手に入らないかしら」などという彼女には、「バカなのは犬ではなく、バカに見えるようにさせてしまった飼い主さんが多いというだけだよ」と言い、犬の仲介は絶対しないもんね~。