クリの左後肢の膝の内側にやはり腫瘍ができている。その下の飛節辺りが腫れぼったくなっていたので、今日、通院時に酒井先生に聞いてみた。何か悪性のものというのではなく、膝関節内側の腫瘍のせいでむくんでいるだけのようだった。
いくら高栄養の流動食を与えても、それで体力がまかなえるわけではなく、量を増やせば下痢をすたり吐いたりするので、調整しながら与えている。
今のところ、クリのどこかがひどく痛んだり、苦しんだりしている様子は見受けられず、起きぬけには自力で立ち上がるのが難儀そうだけど、私が上着を羽織れば散歩に行けると思い、勢い立つ。ただ歩けるのはエントランスまで。
数日前からは先に車をエントランス前に回しておき、クリをエントランスまで歩かせて、スロープで立ち止まって歩かないようなら、抱きあげて車に乗せるようにしている。
公園や河川敷に行っても歩く距離はしれているけれど、それでも出たがるうちは抱いてでも外に出してやるつもりでいる。
年齢も年齢なので、癌の進行が遅くなることはあっても、自然寛解や完治は考えにくい。本当にあちこちにしこりができているのだもの。
少しでも楽になることを願ってステロイドや血栓予防薬を与え、少しでも食べてくれるなら食べられる物を与え、残りの日々を安らかに過ごさせてあげるしかない。先生が「今はもうホスピタルでの治療ではなく、ホスピスでの……」と言いかけたので、それを受けて私が「ターミナルケアの段階だと思っています」と言うと、静かに「そうですね」とおっしゃった。
少し前に先生がどのような状況になったら安楽死を勧めるかということを話してくれた。呼吸不全に陥り、その苦しみに手の打ちようがない場合と激しい痛みをどうにも回避させてあげられない場合。クリの場合、どちらも可能性があるといえばある。
かつて動物を安楽死をさせる場合、筋弛緩剤のような、意識はあるのに体は動かなくなると言う、とても「安楽」とは言えない薬を使っていたことを知っていたので、どんな薬を使うのか念の為、聞いてみた。現在ではさすがに筋弛緩薬や逝くまでに時間のかかる麻酔用注射液ではないと教えてくれた。
そんなことはあまり考えたくないけれど、クリのために最善を尽くしてあげるためには、冷静に「善き死」も考えておかなければならないだろうと思っている。死は決して敗北ではないのだから。