昨年、MMT(現代貨幣理論、Modern Monetary Theory)なる耳慣れない経済理論が現われて、「自国通貨を発行する政府は、財政赤字を懸念しなくてもよい」という議論を展開し、日本でも一大旋風を巻き起こした。現在、そのような財政政策が、日本でもとられている。
自分は経済学者ではないので、MMTのことはよく分からないが、今年3月末現在の国債残高はGDPの約2倍で、先進国の中ではずば抜けて比率が高い。
その理由は分からないが、国債の主要運用でもある株価が企業の業績低迷にもかかわらずなんとか維持されているのは救いである。
国の借金である国債残高は増えるばかりで、どのように減らすのだろう。家計や企業に置き換えてみると借金が増えるばかりで、借金の返済を借入で賄っている状態である。いつかは自己破産せざるを得ないかもしれないのかもしれない。
今月17日付けの内閣府の発表によれば、4-6期の日本のGDPは、年率換算マイナス27.8%で、アメリカはマイナス32.9%、EU諸国平均は40.3%であった。
MMT(現代金融理論)は、アメリカのようなインフレの国には有効であるが、日本のような少子高齢化によるデフレの国では、その効果より後遺症の方が大きいのではないだろうか。
今のような不況が長引けば、日本のマイナス成長は避けることができず、人口減少により税収は落ち込み、基礎的財政収支の黒字化は遠のき、そのつけを後世に回すばかりである。
社会福祉の負担増、コロナ禍の克服は国の喫緊課題であるが、不自由を乗り越えての共生や後世のための我慢も必要ではなかろうか。
「十勝の活性化を考える会」会長
注) 財政再建
(朝日新聞社説)財政再建目標 現実を直視すべきだ
いつまで夢のような想定をもとに、できないことを「できる」と強弁し続けるのか。政府が公表した中長期の財政試算である。
内閣府は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年度の実質経済成長率の見通しをプラス1・4%からマイナス4・5%に大幅に下方修正した。これに伴い、国と地方の基礎的財政収支が黒字化する時期は、1月の試算よりも2年遅い2029年度になるという。
安倍政権が掲げる財政健全化目標は「25年度に黒字化」だ。達成はいっそう遠のいたことになる。ところが目標は変更せず、そのまま維持するという。西村康稔経済再生相は「決して無理ではない」と述べた。この試算には、これまでに行ってきた歳出削減の取り組みの効果は織り込んでいない。同じような努力を続ければ、試算よりも3年程度早く黒字化を実現できるという理屈だ。あまりに無責任ではないか。
試算は、政権が目指す「実質2%、名目3%程度」の成長を来年度以降ずっと続けることが前提になっている。だが、政権発足の翌年から昨年までの7年間の平均は、実質1・0%、名目1・6%と、想定の半分にとどまる。戦後2番目の長さの景気拡大の期間とほぼ重なるにもかかわらずだ。
政府は「政策効果が発現すれば、想定する成長が実現する」と説明してきた。だが、今回のコロナ禍で、目標とする成長率の達成はさらに難しくなる。現実的な成長率のもとで、財政再建に向けた道筋を描き直さなければならない。
内閣府の推計によると、日本経済の実力を示す潜在成長率は0・9%でしかない。このペースで成長した場合、基礎的財政収支は29年度でもまだ10兆円超の赤字が残る。税収は高齢化などによる歳出増とほぼ同じ金額しか伸びないため、時期を先送りしても黒字化できない。歳出や歳入の抜本改革が避けられないことになる。
コロナ禍に直面する国民の命や暮らしを守るために、国の借金が当面膨れるのはやむを得ないだろう。ただ、第2次世界大戦時並みに悪化している財政を、どうやって持続可能にするのか。その考え方は速やかに示す必要がある。
「成長はすべての矛盾を覆い隠す」。チャーチル元英首相の言葉としてよく語られる。確かに高成長すれば、不人気な厳しい決断をせずに済む。しかし当てが外れれば、膨らんだ矛盾が後になって表面化するだけだ。
これ以上、逃げ続けることは許されない。厳しい現実を直視すべきだ。
(情報元:朝日新聞デジタル版、2020年8月3日付け)