つらねのため息

写真や少し長い文章を掲載していく予定。

『地図から消えた島々』

2011-08-09 00:11:00 | 日本のこと
もう結構経ってしまったが、6月に吉川弘文館から発売された
長谷川亮一著『地図から消えた島々』
という本が大変面白かった。



「中ノ鳥島」という島を知っているだろうか。この島は1908年に日本領であることが宣言されたにもかかわらず、1946年に島が実在しないとして、海図から抹消されてしまったという島である。この本は、このような存在が疑われ地図から消されてしまった、日本近海のいわば「幻の日本領」とでも言うべき「疑存島」について取り上げた一冊である。

もちろん最終的に存在が疑われたといっても、一度は海図等に記載されたものである以上、誰かが「発見(を少なくとも主張)」したわけで、そういった意味で言えば、海洋探検家たちのロマンがつまった一冊であるといえるかもしれない。

しかし、本書に通低して流れているのはそのような「探検のロマンと帝国主義的な欲望との差は紙一重(あとがきより)」であるという著者の認識である。本書は明治維新以後、一獲千金を夢見て南方に進出していった日本人たちの歴史であるわけだが、例えばそれが乱獲によるアホウドリの激減を招いたり、また、本書のテーマでもある「疑存島」を多く生み出すようなかなりアヤシイ詐欺話まがいのものを生みだして行ったことを本書は教えてくれる。一見「ロマン」にあふれているように思える、明治期の日本人達の南洋進出をテーマにしながらも、それと当時の帝国主義的な拡大が分かちがたく結びついていることを本書は示している。

また、本書では少し触れるだけにとどまっているがリアンクール列岩(独島/竹島)や尖閣諸島/釣魚台列嶼の問題についても、本書を読んだ後だと、また違った思いを抱かざるをえない。すなわち、それらの島々の日本への「編入」がいかに正しく行われたものであったとしても、本書に出てくるような島々との比較でみると、その実際の手続きはかなり怪しく、多分に帝国主義的な拡大の動機の下に行われたということは否定しがたいように思える。

なお、本書は筆者が運営しているウェブサイト「望夢楼(ぼうむろう)」の中の「幻想諸島航海記」というコーナーを書籍化したものである。本書はクロノロジカルな記述となっているが、ウェブサイトでは各島ごとにエピソードが整理されている。あわせて読むことで理解が進むと思われる。

最近の政治について思うこと

2011-02-20 16:11:00 | 日本のこと
(1)消費税

日本の政治をめぐる言説を見ていてもっとも不思議なのは増税を積極的に唱える言説が見当たらないことだ。確かに二大政党は消費税の引き上げを唱えている。しかし、それは「国庫にお金が足らないからそれを補うために税を引き上げましょう」という議論だ。いわば受け身的な増税論だ。そうではなくて「私たちはこうこうこういう政策をとりたい。しかし、すでに赤字である国家財政にそんな余裕はない。だから税を引き上げてそれによって新政策の財源を賄いたい」というような議論があってもいいではないか。

消費税は確かに法人税や所得税に比べれば庶民にとって負担となる税だ。しかしそれでも人々に遍く課税し、必要とされるところに配分するのは、国家の再分配機能に他ならない。それなのに、なぜこの国ではほぼタブーのような扱いを受けているのか。特に本来「大きな国家」を指向するはずの左派に消費税への忌避感が強いのはいただけない。「福祉国家」を担保するための財源をいかにつくるかという議論はきちんとしなければならないはずだ。

消費税に関連して思うのは「消費税を増税する際には衆議院を解散して国民に信を問う」という議論だ。一見、もっともらしく聞こえるが、二大政党がともに消費税増税を唱えている中でどのように「信を問う」のか。民主党と自民党をたした得票率が50%を超えれば消費税増税が国民の信を得たということになるのでは何の意味もない。消費税増税に反対するためには共産党政権を誕生させるしかないというのでは、いかがなものだろうか。

要するに消費税増税は「国民に信を問う」ことが重要なのではなく、各党がいかに議論して成案を得るか、それによっていかに永続的なシステムをつくり上げるかということが問われているのだと思う。「選挙で勝てば税を上げていい」ではなくて、多少政権の枠組みが変わったところで、変更する必要がないようなしっかりしたシステムをつくることができるかどうかなのだ。国会としての合意形成の能力が問題なのだ。

(2)ねじれ国会

もう一つ思うのは、いわゆる「ねじれ国会」に関する議論だ。国会の現状についての解決策として大連立や、民主党と公明党やみんなの党との連立の議論がもちあがる。しかし、それでいいのだろうか。

個人的には、政策ごとに多数派を形成する努力がしっかりとなされるべきだと思う。日本の参議院がかなり強い拒否権プレーヤーであるという議論はその通りだと思う。しかし、内閣は衆議院の多数派によって支持されていれば十分である。問題はそういう政治的支持基盤と、政策的な支持の広がりが同一視されていることだと思う。民主党政権は、自民党政権に違い自らの左右双方に野党を持つ政権である。つまり右寄りの政策をとれば自民党など右派の、左寄りの政策をとれば社民党や共産党など左派の協力を受けることができる(理論的には)。そして、それは節操のないことではなく民主党という政党の立ち位置から言えば、ごく自然なことだ。そのようにしてテーマごとに多数派をつくる努力をすることが非常に重要だと思う。そして、政策への支持はできるだけ幅広く形成されることが重要だ。それによってさらなる政権交代後にもその政策が継続される素地が生まれる。それは国民から見ればとても望ましいことだ。

なぜ、このようなことを言うかというと、現在の参議院の勢力図を考えると、自民党を中心とする側も、もちろん民主党を中心とする側も多数派を握ることができないからだ。解散のない参議院がこのような状況であることを考えると、向こう三年は「ねじれ国会」が続くことは確実である。だからこそ、国会の合意形成能力の深化が必要なのだ。

その意味でいえば、内閣総辞職や衆議院の解散では、何の解決にもならないことは明白である。次の内閣ができたところで、直面するのは「ねじれ国会」。予算をあげるために、一年に一回内閣総辞職ではあまりに国民をばかにしている。国会が議論をし、合意形成をする場となることを願う。

「暴力装置」をめぐるつぶやきのまとめ

2010-11-23 00:32:00 | 日本のこと
「暴力装置」についての自分のつぶやきをまとめておこう。ただそれだけの記事。

まず、最初の反応。以下、時系列に沿って、別の方との会話になっている部分はのぞいてあります。

暴力装置じゃないの?最近の国会議員はウェーバーも読んでいないのか…。故大平元総理が聞いたらなんとおっしゃるか…RT @47news: 仙谷官房長官、抗議受け謝罪 「自衛隊は暴力装置」 http://bit.ly/9RPw6k
11月18日 Seesmic Webから

まったくです。RT @zakkan: 「暴力装置」の何がいけないのか。社会科学の基礎概念なのに。抗議する方の学のなさ、撤回する方の日和見主義と。嗚呼。
11月18日 Seesmic Webから

これからは学会でも暴力といわずに実力といわないといけなくなるんでしょうか。
11月18日 Seesmic Webから

「暴力装置」問題、突っ込んでいる議員のレベルの低さにもあきれざるを得ないけど、「失言」として報じているメディアは同レベルではないのだろうか?
11月18日 Seesmic Webから

結局「暴力装置」を理解している自民党の議員は何人いるのか。どうやら石破茂さんはさすがにわかっているらしいけど。さすがに総裁はわかっているのかな。残念ながら河野太郎も理解していなかったらしい。確か比較政治で修士号か何かを持っていた気がするんだけど。
11月18日 Seesmic Webから

ってか、「暴力装置」発言を批判している議員で社会科学系の学位を持っている人は、学位返すべきなんじゃないか?
11月18日 Seesmic Webから

しかし、自民党のレベルはこんなに低いとは。再度の政権交代が不安になってきた。
11月18日 Seesmic Webから

んで、誰が官房長官に「なぜ撤回しちゃったんですか?」ってせまってくれるんでしょうか?
11月18日 Seesmic Webから

これだけ多くの国会議員が知らないことを恥じてすらいないという現状は、学会の怠慢の結果ともいえるわけで。「政治学者の常識は世間の非常識」というままではさすがにまずいですね。
11月18日 Seesmic Webから

まったくです。RT @zakkan: 少なくとも正確な意味も知らないまま「自衛隊員に失礼」って言う論理展開はやめてほしい。この議論はこれで終わりにしますが。
11月19日 Seesmic Webから

知識がないことは問題ではない。世の中には色々な人がいるし、その代表である議会に様々な背景を持つ人がいるのはむしろ好ましいことだ。問題なのは知識のない人達が、さも専門家であるかのように装って議論をしていることだ。自分が「学位」に言及したのはそんな「表示偽装」を指摘したかったから。
11月19日 Seesmic Webから

だからなんだというわけでもないですが、ひとまず、メモ代わりに残しておきます。

流出が正しいわけはないだろう

2010-11-10 22:14:00 | 日本のこと
テレビを見てもネットを見ても、「国民の多数」がビデオ流出を支持しているかのような報道ばかりなので、そうじゃない人間もいるんだということを微力ながらも書いておきたい。

私は、ビデオの流出は絶対に間違いだと思う。

今回の尖閣の問題には色々な見方があるだろう。確かに、中国の漁船がとった行動が正しい行動だとは思えない。日本政府がとった対応も万全だったとは言い難い。でも、だからといって「流出」という行為が正当化されていいはずがない。

どんなに、考えが違っていても政府の方針に従うのが本来の海上保安官の立場であるはず。前線で兵士が勝手に判断して好き勝手な行動をしたら戦争なんてできないのと同様に、政府の指揮系統の中で行動するのが海上保安官じゃないのか。だからこそ、日本の海の安全は守られているのだし、中国漁船に対しても海保は対応できたのではないのか。各巡視艇が好き勝手に行動していたら、中国船の船長だって逮捕できないはず。

こんな騒ぎになって一番喜んでいるのは「海保がバラバラで情報管理もできないだめだめな組織だ」と認識した中国政府ではないか。

「思想」と「組織」は別のものだし、海上保安庁は後者であるべきものだ。前者を決めるのは政治の場で、それを「組織」として実行するのが官僚制度。

現政権に不満があるのなら、海保の末端ばかり賞賛しないでデモでもストライキでもして政権を追い込めばいい。政治や思想の争いを厳格であるべき組織の現場と混同してはいけない。

『密使 若泉敬 沖縄返還の代償』

2010-07-31 17:11:00 | 日本のこと
NHKスペシャル『密使 若泉敬 沖縄返還の代償』の再放送を見た。

こういう番組が「政府・与党」からの干渉を受けることなく放送できるようになったのは、政権交代の最大の成果かもしれない。NHKには今後も良質な番組をぜひ期待したい。

番組を見て最も感じたのは、沖縄の問題が「日本」という「国」の問題であるということだ。とかくこの問題については左翼が論陣を張り、保守派は日米同盟の重要性を主張するという形になりがちだ。

しかし、沖縄の声にもっとも耳を傾けるべきは「日本」という国の「国のかたち」にこだわる人たちではないのだろうか。

そういう人たちこそ、平和を享受しながらも沖縄に目を向けない本土を「愚者の楽園」と呼ぶ若泉の言葉に応答するべきな気がする。

もちろん、この問題に右も左も関係なく、だれもが真剣に「自分たち」の問題として受け止めることが何よりも必要なことであるが。

しかし、沖縄問題に対する「右翼」の反応はすこぶる悪い気がする。産経新聞あたりが大々的なキャンペーンを張ってもいいような問題であると思うのだが。