goo blog サービス終了のお知らせ 

陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

井上尚美詩集『蒲の穂わたに』

2023-11-17 | 詩関係・その他

       

 静岡県島田市住の詩人、井上尚美さんから第5詩集『蒲の穂わたに』をご恵投いただいた。

 井上さんの詩に初めて出会ったのは丁度一年前、詩誌『穂』第43号掲載の「わたしの庭」(当詩集所収)
であった。次号の43号に発表された「叩く」を当ブログで紹介させてもらったが、その時の
印象は構成力
が際立っている作品だということ。

 この度の詩集は5章にまとめ上げた全25編の作品が収録されている。

 「さみしい癖」
 引いていく闇の中に残光を放つ星
 を 見つけると少し嬉しい
 切っ先の鋭い残月がひとつ
 という朝 それも少しだけ嬉しい
 目覚めて直ぐ窓を開け今日の気運を占う
 それが日常になってしまった さみしい癖
 夜明けの匂いが静かに寄せてくる

 午前五時 今日は雨
 痩せた木々の黒い影がぬらっと立っている
 寄り合って何かを密談しているらしい
 夜のまんまの庭
 訳のわからない腹立たしさが押し寄せてくる
 濡れしょぼれた心で台所へ
 その時 男の部屋から力の抜けた声がかかる
 雨だね しとしと冷たい雨だね
 男は女より先にあの影を見ていたのだ

 おいしい朝ごはんつくるから 待っていてね
 芝居じみた明るい声で おいしいごはんだなんて
 今までそんなこと一度も言ったことないのに
 小細工はとっくに見破られているだろう
 男の切なさを女が透視しているように

 五日後男は抗がん剤治療を始める
 放っておけば三ヶ月の命
 医師が見積もる男の余命

 雨脚が強まる
 ——さあ かかっておいで
 腕まくりをして
 切れあじ抜群の包丁を握りしめて
 今日の前に 立つ

 当詩集の冒頭に配された作品。物事を捉える、本質を捉えて表現するということはこういうことか、と思
った。「切れあじ抜群の包丁を握りしめて/今日の前に 立つ」「女」。抗がん剤治療を始める五日前
の朝、
何もしなければ余命三ヶ月と宣告されている「男」との心的な交感が短い会話の中で成立している。「ぬめ
らっと立っている」「
痩せた木々の黒い影」に気付いているが、口に出すことはない。男が気付いているは
ずだと思うことで今日が始まるのだから。「目覚めて直ぐ窓を開け今日の運気を占う」「日常になってしま
った」「さみしい癖」は、男ががんと診断されてからの癖なのであろうか。
 第3連と4連は「女」、つまり妻の心理が見事に活写されている。しめった感情ではなく、からりとした
気丈を表出している。だからこそ逆に、妻の心の揺れが読み手に伝わってくる。独白的な流れを少し距離感
を入れての心情
表現。巧さを感じた。
 
 この作品を、そんな勝手な読み方をした。最初に読んだ時の箇条書きのメモは「男、女という書き方をす
ることでの冷静な位置づけ」「ガツンと来る本質表現の巧さ」「物事を直截にではなく全体で表現すること
の構成」「言葉遣いの緩急」「第2連一行目”午後五時”は”午前五時”の誤植か?詩集通りでいいとなると、
時間の隔たりがありすぎて、うまく伝わってこない気がするが」など・・・・。
※第2連一行目”午後五時”は”午前五時”の誤植とご本人から連絡あったので、引用作品も午前に変更した。
 
 代表して「さみしい癖」に触れてみたが、その他では「温泉」「日記」「夢の中で」「窓」「また あし
た」「葉桜の頃」などに心揺らされた。

 

発 行  2023年10月31日
著 者  井上尚美(いのうえ なおみ)静岡県島田市
               日本現代詩人会、静岡県詩人会、静岡県文学連盟の各会員。詩誌『穂』発行人。
             第22回白鳥省吾賞最優秀賞受賞
発行所  土曜美術社出版販売
定 価  2,200円(税込み)  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『花美術館』・若狭麻都佳さんの作品を紹介

2023-11-12 | 詩関係・その他

       「花美術館」Vol 82より

 専門誌「花美術館」Vol.82と83に若狭麻都佳さんが紹介されている。
 VoL.82では「マルチ作家 若狭麻都佳の軌跡」として8ページにわたってパフォーマンスを演じる
写真とともに、既刊詩集からの
詩作品。VoL.83では同じく既刊詩集から2編の詩が掲載されている。

 文を寄せている”評者”の捉え方に頷きつつ何度か戻りながら詩を読み返したりしていると当り前のこ
とだが、読み取り方の違いがあったりするから、これはこれでどこか合評会のような感じがあって面白
いものだと思った。

 若狭さんの詩からは離れるが、処女詩集『それは白い雲の色をしていた~亡き兄に捧げる~』の序詩、
兄克行氏15
歳の時の詩を紹介したい。

 
 「空白の時」     若狭克行
 
 ペンを持つ
 重く沈むぼくの手
 しだいに空白がぼくの心を流れる
 ぼくは暗黒の世界へ運ばれる
 空虚がぼくに広がり
 ぼくを包む
 何も見えない闇の中
 「Do+S+V・・・?」
 「y=ax²のグラフ」
 「接続の型・・・」
 文字や記号が
 かすかな光に
 「チラッ」
 と浮かぶ
 すべてがぼくの周囲にあり
 すべてがぼくから遠のく


 「花美術館」では既刊詩集からの作品をテーマに沿って?評者が選択し紹介している?のだと思うが、
時には現在の作品についての紹介も欲しいところ。
 なお、「日欧宮殿芸術祭2023inマルタ」において、若狭さんの美術文芸作品「年老いていく人形」が
ゴールドメダル受賞との報告が添えられてあった。
おめでとうございます!


・Vol 82 掲載作品 「木もれ日」「卵のきもち」「片目に棲む鳩」
          「あまらしさ—Metamorphose」
・Vol 82 掲載作品 「花物語」「夜咲く花の子」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

秋 亜綺羅さんの講演 ・「秋田の詩祭2023」

2023-11-08 | 詩関係・その他

                     

                                             講演する秋 亜綺羅さん            ( 画像提供:横山 仁さん)                            

  

               懇親会で秋 亜綺羅さんを囲んで   (画像提供:黒沢せいこさん)
                          

 10月28日(土)13時から、秋田県現代詩人協会主催の「秋田の詩祭2023」が秋田市内で開催された。
 講師に月刊「ココア共和国」主宰の秋亜綺羅さんをお招きし、自作詩の迫力ある朗読「詩ってなんだろう」
と題する講演が行われた。

 会場には高校生や詩の愛好者、会員など約60名が参加した。

 詩祭は高校生による詩の朗読、朗読グループ「KOEの会」による群読、会員の詩の読と続いた。

 秋さんの講演では、はじめに寺山修司との出会いや筆名の由来などについてユーモアを交えながら紹介。
「詩作は、想像を働かせて書くもの。”視”えないものに”触れる”こと」だという。また、「哲学を壊すのが
詩人の仕事だと思う」「壊すことのレトリックを発見するのが詩人」
「しかし、比喩とか暗喩と言ったレトリ
ックは日常的な会話やテレビCMなどで使われて
いる」「矛盾にナンセンスを入れることで難解詩ではなくな
る」等々、実に興味深い詩論、詩世界
が披歴された。
(以上の引用は私のメモによるもので、講演内容とはズレているかも知れない・・)

 講演の前に行われた秋さんの詩の朗読は、音楽をバックにしながら時に叫び、時につぶやきながら熱の入っ
た表現。強烈なインパクトであったと感じたのは私だけではなかっ
たであろう。

 秋亜綺羅さん、佐々木貴子さん(『ココア共和国』編集者)、横手高校、大曲農業高校太田分校、秋田南高校
各校の生徒の皆さんと顧問の先生、『KOEの会』の皆さん、参加して下さった詩の愛好者の皆さん、そして
会員とスタッフの皆さんありがとうございました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

詩人・秋 亜綺羅氏の講演「秋田の詩祭2023」開催します

2023-09-16 | 詩関係・その他

               

 秋田県現代詩人協会主催の『秋田の詩祭2023』が10月28日(土)秋田市内の協働大町ビル
で午後1時から
開催されます。
 今年は詩人秋亜綺羅(あき・あきら)さんをお招きし、「詩って何だろう」という演題で詩につい
て講演していただきます。
 
秋亜綺羅さんは月刊詩誌『ココア共和国』を主宰し、今、全国の幅広い年代から注目を浴びている
エネルギッシュな詩人です。

 詩を書いている人は勿論、詩とは無縁だという方も、詩を書きたいと思っている方も、一切制限は
ありません。秋の午後のひと時を詩の世界で
ご一緒しませんか?
 入場無料です。是非ぜひ、お
気軽においでください。お待ちしております。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

矢代レイ 詩展

2023-09-03 | 詩関係・その他

      

 

 矢代レイさんの詩展が9月1日から秋田銀行本店ロビーで始まった。
 今年のサブタイトルは「詩に導かれて」。ボードに掲示されている挨拶文には次のように書かれていた。

   未完の詩がパソコンの中にいっぱい眠っています。
   言葉の海はとてつもなく深く、一瞬姿を現わしても、活きのよい言葉をつかまえることが出来
  ないでいます。

   もし、詩を書くことが容易だったら、ここまで夢中にはなれなかったろうと考えます。つまり
  は、詩に導かれて今日に至っていると言えます。 


 矢代さんの詩との向き合い方の一部が見える一文だ。
 展示されているのは個人誌『ピッタインダウン』に発表された作品と、作品を組み入れた写真、これま
でに刊行された詩集や『ピッタインダウン』のバックナンバーなど。ロビーながら、立ち止まってじっく
りと読むことができるのがいい。
 会期は9月29日まで。9時から15時・土日祭日は休み。無料。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

菅沼美代子詩集『乳甕』

2023-08-14 | 詩関係・その他

      

 静岡市住の詩人、菅沼美代子さんから第6詩集『乳甕』をご恵投いただいた。

 菅沼さんは日本現代詩人会、静岡県詩人会、静岡県文学連盟の各会員、
詩誌「穂」同人。
 
表紙は、第5詩集『手』と同じ造形作家、内藤淳氏の作品。私的には菅沼詩のイメージと結びついて
いて
印象的な装幀だ。

 情
感の多様な表現に出会うたびに思うことだが、「何を」よりは少しでも「いかに」という修辞的な
力量が上回ることが出来れば、「何を」を、より効果的に表出し得る、ということ。それを読む時に感
じることもまた新しい発見になったりする。
 
菅沼さんの詩には無駄な言葉が無い。少ない、ように感じた。表出しようとする段階で、多面的にか
自身の感性をより広角的に見据えることが出来ているからであろうか。読み進めていると、区切りの
良さ、センテンスの短さ、小気味よいリズム感。また予想外のコトバの出現に
驚いたりした。
「(略)そのうえで眠るなんて/なんたる精神」(沐浴)、「(略)旨いビールをカーッとやる」(温度)、
ドヤ顔でにやりとするから」(初めの一歩)。
(あたりまえだが?いや、いや、穏やかな詩行が続いている中に突然と出て来るから・・・。とても新
 鮮だ。)

 詩集のタイトルとなった『乳甕」は、新生児が母の母乳を飲む姿を表している。作者のやさしい目線
と、乳児の生への力強さが描かれている。

「乳甕」
甕のようにゆたかで/迸る液体が/いのちそのもの/生きてのみ/飲み干すことが/糧になる/なだら
かな丘陵が/弾力のある
溌溂に/ぱんぱんに膨れあがり/生きるということに前向きで/たわわな実り
が/ぎちぎちと詰まっている/きみはふれたくなる//ちいさな掌でつかむように/甕に埋もれて吸い
尽す/無目的の愛のような/輝きに満ちていて/音楽が聴こえてくる/ごくごくと飲み込む/力強い 
リズム/勢いよく盲目的に/尽きない泉を汲もうとする/真摯さにただただ呆れる/永遠に続けばいい
/やさしい風が吹いてきて/平和であることの/証のように眼を瞑る//人が近寄れば/乳の甕を確か
めて/いちどは放し/ぼくのものだと言いたげな/ぼくだけのものだと/自信に満ちた顔をする/それ
なくして/甕の存在は無いかのような/主張をする

 当詩集にはお孫さん(と思われる)について書かれている作品が多いが、決して「孫自慢」の詩では
ない。こどもを通した生や世界観をきっちりと描いていて好感。 

後半は、故新藤凉子氏(前日本現代詩人会会長)への詩、散文が収録されている。

 

著 者  菅沼美代子
発行所  思潮社
発行日  2023年7月22日
定 価  2,500円(+税)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

松下美和子詩集『ら行の悲しみ』

2023-08-08 | 詩関係・その他

      

 静岡県菊川市住の松下美和子さんから第一詩集『ら行の悲しみ』が届けられた。深謝。
 詩集のタイトルとなった詩、「ら行の悲しみ」は次のように始まる。
 
 時々透明人間になる/彼女の持ち物を調べると/ある部分に/ら行の悲しみがきちんと佇んでい
 た//工場の煙突から真っすぐに煙が立つ/それを見ながら/多分明日は透明人間になれそうだ
 なと/密かに目論む//そしてどうもその必然性がある//誰にも全く同じ形で分かってもらえ
 ない/至福の悲しみが彼女の中に存在したのだ/だからその悲しみを迎えるように/少しだけ今
 という時間軸から/泡のように消える//ららら/りりり/るるる/れれれ/ろろろ/メレンゲ
 の様な呪文を説き消えてみる//この術を使い彼女は時々/ら行の悲しみを深い海に沈め/真珠
 になんぞしてしまうらしいと/華やかなフリルの波たちが/物語を語るように教えてくれたのだ
 った//そして/ら行の悲しみは/彼女のとても大切な持ち物だ/ということを/誰もがよく知
 っていた/

 ときどき透明人間になるという”彼女”に巣食っている「ら行の悲しみ」が、少しだけ今・現実の
時間軸から消えてしまう。どうもこれは”彼女”が習得していた”術”のようでもあり、悲しみを海に
沈めると真珠にしてしまうというから、これまたすごい。”彼女”の本源か。

 読んでいてその語り切れない行間に残っている奇抜さ?や、ある意味読み取れない?ことも混交
していながら、それがまた雰囲気をつくっていて、思わずふふっと笑みながら楽しい世界観を感じ
ることが出来る。作者の感性の鋭さ
が成す世界が溢れている詩集だ。

 

著 者  松下美和子
発 行  2023年4月8日
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

佐藤光江詩集『菜の花の海の』

2023-08-07 | 詩関係・その他

     

 静岡市住の詩人佐藤光江(さとう・みつえ)さんから第5詩集『菜の花の海の』を拝受。
 佐藤さんは日本詩人クラブ、日本現代詩人会各会員。詩誌「楷の木」同人。

 この詩集に収められている「戸口」と言う作品を読んでいるとき、不意に若い頃に私淑してい
た画家のことが思い出された。<自分らしさとは何だろうか。自分らしさという言葉を出すこと
はすでに自分らしさの「らしさ」を知っていることだよな>と語り、<自分のことを知ろうとし
ても、なぜかいつまでたってもその先へ到達できないのは不思議なんだよね。勿論、一般論だけ
ど>・・・とも言っていた。半世紀も前のことだが。
 それはさておき、佐藤さんの「戸口」は次。

 「戸口」
 
息をきって/たどり着いた/此処/戸口はピシャリと閉ざされ/気配ひとつない//何を追い
 かけてきたか/何に駆りたてられてきたか//
自分らしく/生きることを/願いながら/履き
 間違えたか/それとも/選んだか/
ようやく気づいた/誰かの靴を履くことの/心地悪さ//
 いつも/腰の辺りにぶら提げていた/不格好に膨れた堪忍袋/捉われの紐を解こうと/手をか
 ければ/思いがけず/たわいなく緩んだ//
待っていたのだろうか/戸口は軋みながら/ゆっ
 くりと開いた/其処に/朝の陽をまとう/
ひとがた

 佐藤さんの詩世界の底流にあるのは、ご自身の在り方を希求する姿勢であろうか。ずっと走り
続けてきて、ふと止まっては置き去りにしてきた自分を確認しようとする。さりげなく自身を見
つめながら振り返ってみるのだが、その後も前も霞だっている。そのような詩世界を描いている
ように
感じた。当然ながら、詩の世界であってそれらが作者個人のこととは限らない。
 <あとがき>から、印象的な佐藤さんの詩との繋がりを引用しておきたい。

 ~(略)詩と歩んだ長い時間を振り返れば、越し方のせいだろうか自己肯定感に乏しい性分は、
 今さら変えようもなく、私にとっての詩は一歩踏み出すために生まれるものだ。/
~(略)何よ
 りも自分に一番正直に向き合えるのが詩作り。/手放してはならない存在。/生き抜くための
 杖。/鉛筆を握ることは必然なのだ。

 

発 行  2023年5月10日
著 者  佐藤光江(静岡市)
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮本苑生詩集『あかね雲』

2023-08-07 | 詩関係・その他

     

 宮本苑生(みやもと・そのえ)さんから詩集『あかね雲』をご恵投いただいた。
 宮本さんは東京都住。日本現代詩人会、日本詩人クラブ、日本ペンクラブの
各会員。

 いつもは<あとがき>に触れてから読み出すのだが、たまたま、あとがきを目にしないまま読み
進めて
いたところ、なにか全体が”死者”との語り、あるいは関わり合いを描いていることに気付い
た。
あとがきを開いてみて、なるほどと頷く。
 
  『Ⅰの「ひかり」は、東日本大震災のその年のうちに編んだ個人詩誌「ひかり」に、
   作品「水底の骨」を加え、他は、ほとんどそのままの形で掲載しました。あとがきに
   「震災の犠牲となられた方々にこの小さな作品集「ひかり」を捧げます。」と記しまし
        た。』

 とある。大震災の時、詩を書く者には何ができるのかとか、詩を(あるいは詩らしきものを)
こぞって直截的な事象として書くだけ・・そんなものか?と問われていた。詩を書く人がそう思っ
てそのように問う姿が多かったということは、ある意味での限界とか無力さを感じていたからに違
いない。詩はどうあるべきか、などと私はとても言い得る素養を持ち合わせていないが、宮本さん
のこの詩集に収められている作品群を読み進
めて行くと、亡くなられた人の側とこの世の側の人と
の交感が実に
現実的な感じさえして、こういう表現の仕方に感動した。詩は何をすることが出来る
のかという問いへの、より近接した<コタエ>の一つかも知れない。 

 

    見つけたかしら

  この川は あの川と同じですか
  渦巻き 逆巻いた
  あの川と同じですか

  この私は あの時の私と同じですか
  こんなに儚くなったけど
  同じですか

  随分遠くまで探しにきました
  哀しみだけが点る
  ここは いったい どこですか

  わたしの胸は張り裂けて
  もはや記憶も曖昧です

  私はあなたを探しています
  水の匂いたよりに 探しています

  あなたは 私を見つけたかしら

  蛍になった あなた
  蛍になった 私を
  見つけたかしら

 

発 行  2023年5月10日
著 者  宮本苑生
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『自選 成田豊人詩集』刊行

2023-07-09 | 詩関係・その他

         

 成田豊人さんの『自選 成田豊人詩集』が刊行された。
 成田さんは北秋田市住、秋田県現代詩人協会会員、日本現代詩人会会員、詩誌「Komayumi」編集発行人。

 成田さんは26歳の時に処女詩集『北の旋律』を刊行してから、2年前の2021年『夜明けのラビリン
ス』まで実に8冊の
詩集を刊行しているが、このたびは、その8冊の詩集から41編を”自選”した文庫本サ
イズで刊行。巻末には、
2014年に詩集『夕顔』で三好達治賞を受賞された青森県詩人連盟会長の、藤田
晴央氏が26ペ
ジにも及ぶ「解説」を寄せている。これだけでも、成田さんと藤田さんとの交流の深さを
推しはかることが出来る。素晴らしいことだ。

 手に取った時に思ったのは、率直に言えば「なぜ今、自選集なのだろうか」ということであった。
 そういえば・・・という仮定は適当ではないが、数年
も前から「Komayumi」の編集後記だったか、それ
とも何かの会の時であったか、「詩は青春の文学という思
いがある。詩をやめ俳句を書きたいと思う」とい
うようなニュアンスの発言があったのを記憶
している。その事だろうか?あるいは、同誌第38号のあとが
きで、「最近、なぜ詩を書いている
のだろう、とか、詩を書いて何になる、と思うことがある」と吐露し、
「高校生の頃から書いているのだか
ら、作品の数と質はともかく50年は書いている。(略)詩集は7冊ある
が、ほとんど評価される事もなか
った。かなりのエネルギーと金を消費しながら、どう見ても自満足そのも
のに過ぎない、と自分に呆れてい
る」と述懐している。冷静に立ち位置を自己分析していると感じたが、
その事だろ
うか・・・。
 同世代の一人として詩を
書いてきた私にも、実は同じような感慨がある。が、さて、さてさて・・・。
 いずれにしても、成田さんは詩に関するイベントがあれば県内外を問わず出掛けることも朗読することも
講演することも積極的な人。その線状の活動と受け止めた。
 既刊詩集の自選集につき、作品への感想を控え紹介だけとした(成田さんには叱られるが)。

 

発行日  2023年6月18日
著 者  成田豊人(なりた・とよんど)
出 版  書肆えん  
     秋田市新屋松美町5-6
頒 価  1,800円(税込み1,980円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「詩の小径 ~文学散歩」・世界文化遺産『伊勢堂岱遺跡』(北秋田市)へ

2023-07-05 | 詩関係・その他

 6月25日(日)、秋田県現代詩人協会主催の「詩の小径 ~文学散歩」が北秋田市を会場に行われた。
 今年は、何回か候補にあがっていた世界文化遺産(北海道・北東北の縄文遺跡群)「伊勢堂岱遺跡」とその展示館。
 参加者は23名、これまでで最高の人員であった。

 特別参加の元秋田県埋蔵文化財センター所長、小林 克(こばやし・まさる)氏から遺跡発掘時の状況を含めた説明・
案内をしてもらいながら約一時間、縄文の世界へ思いを馳せた。
 この遺跡は1992年(平成4年)、大館能代空港へのアクセス道路建設工事中に発見されたもので、環状列石、配石
遺構、掘立柱建物跡などが発掘されたという。2021年7月に「北海道・
北東北の縄文遺跡群」17ヶ所のうちの一つ
として「世界文化遺産」に登録された。
 
 市内鷹巣へ移動し遅い昼食をとった後、参加者による詩の朗読、スピーチが行われた。自作詩は勿論、縄文に関連した
ものとして、著名詩人の詩・自作詩・現地をみての即興詩などなど
。ここ
数年、新型コロナウイルスの感染拡大により、
なかなか集まることが難しい
状況が続いただけに、参加者の思いが集約された濃いひと時であった。

                 

   

 
(画像提供 横山 仁氏)
               

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

駒木 田鶴子詩集『雪の吐息』

2023-07-03 | 詩関係・その他

       

 駒木田鶴子(こまき たづこ)さんの第4詩集『雪の吐息』が刊行された。
 駒木さんは秋田県横手市住。秋田県現代詩人協会会員、日本詩人クラブ会員、詩誌「舟」同人。
 
 あとがきで、「六十歳で第一詩集を上梓してから第二、第三と、なぜか7年周期で出版してきた」が、
今回の詩集は13年ぶりになると記す。

 また、所属誌詩「舟」(岩手県滝沢市。レアリテの会)とのかかわり方や自身の詩の在り方を「私の
詩はレアリスムが基調になっている」と述懐しながら、
「亡くなった人の生きられなかった時間を含め
八十八年を生きてきた自分の証となる詩を残したい」と、その意図を明言する。第三者へと言うより
は、自身へ向けて”付託”するかのように。

 描かれた情景は、時として少女の目であり、地域性であり、そしてまた不意にコケティッシュな”女人”
の目であり、それらをさりげなく表出している。

「レアリスム」と語る言葉の持つ意味合いが、その手法としていわゆる”現実”や”生”であるならば、これ
またそうあることを意識しながらも、固定されない視点
を持った、詩人の全方向性を示している作品集
であると思った。


    雪の吐息

  風が止まるとき
  雪は 本音を漏らすのでしょうか
   シンシンと?

   ひひとして?
  いいえ 様子ではありません
  雪そのものの吐息です

  それは
  眠りかけた屋根を伝い
  しめ切った二階の窓から
  木綿のパジャマのようにヒンヤリと
  ひとり寝の素肌に触れるのです

  昔「雪喰い」した銃後の少女は
  年を重ねても
  雪の音やにおいに敏感です
  ジョリッ ジョリッ と
  雪玉をかじる勇ましい響き
  今も舌の上に残る
  燃えさしの 移り香まで

  人知れず
  真綿色した雪の華が
   咲いて
    散り敷いて
     消えてゆく

  ほらっ 聞こえるでしょ
  風がブレスするつかの間の
  雪の吐息が
  夜のとばり越しに鼓膜をふるわせる
  小さな命のしたたりです

 

 

著 者  駒木 田鶴子(こまき たづこ)
出 版  書肆えん(しょし えん) 
     〒-010-1604 秋田市新屋松美朝5-6
     ℡・Fax 018-863-2681
発行日  2023年6月25日 
定 価  本体2,500円(税込2,750円)  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『本を造る、詩を創る』あきた文学資料館新収蔵資料展Ⅱ

2023-06-01 | 詩関係・その他

あきた文学資料館の”新収蔵資料展Ⅱ”『本を造る、詩を創る』が本日6月1日から同文学資料館で始まった。
展示されているのは、秋田の文化を広範に取り上げてきた詩人であり出版社主であった故吉田朗さんの遺品や出版物、
そして戦後秋田の詩運動を代表する「北方詩人集団 処女地帯」の第二次「処女地帯」の冊子や同人の生原稿などなど。
特筆すべきは、1990年代前後?の秋田の詩人(及び名だたる俳人、歌人)の色紙の展示。その時代の社会性や文学の
薫りが溢れていて、まさに先人の文化を創るという情熱が滲み出ている。(撮影禁止だったのでUP出来ず)
貴重な資料展。是非とも系譜=財産を知るうえで見ておきたい!!

◆開催期間など
 ・6月1日~7月9日(10:00~16:00・月曜休館・入館無料)
 ・秋田市中通6-6-10 ☎018-884-7760

■お知らせ
 同文学資料館の関連講座として下記開催されます。
 ・「秋田現代詩の流れ」
 ・講師:佐々木久春氏(秋田大学名誉教授)
 ・6月11日(日)13:30~ あきた文学資料館
 ・定員30名。上記連絡先へ申し込み要

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

3年ぶりに対面総会開催・秋田県現代詩人協会

2023-04-27 | 詩関係・その他

4月23日、秋田県現代詩人協会の2023年度総会と詩人賞表彰式が秋田市内で行われた。
コロナ禍に埋もれてここ数年、止むを得ず書面総会となっていたこともあり、会員の皆さんの喜びは
今年に咲いた桜と共に満開~🌸!!であった。

ありがとうございました。

  

 

   

 ①総会の様子                    ②同左
 ③秋田県現代詩人賞(詩集賞)受賞・船木俱子さん   ④同(作品賞)受賞・見上 司さん
 ⑤同(奨励賞)受賞・北村瑠美さん          ⑥祝賀会兼懇親会出席の皆さん

  (画像提供:横山 仁 氏)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

詩誌『穂』・静岡からの波紋

2023-03-13 | 詩関係・その他

                     

 静岡の詩人、菅沼美代子さんから詩誌『穂』第44号を寄贈頂いた。同誌の同人は静岡県内
在住の女性9人。

 先号の第43号を初めて寄贈頂いた時ふと、6年前に第114号で廃刊となった秋田の詩誌
『海図』が思い起こさ
れた。『海図』もまた女性だけの同人詩誌であった。

 さて、『穂』第44号は同人の詩作品と追悼文、そして「Essay 詩の周辺」と位置付けられ
た全員のエッセイが掲載されて
いる。

   「叩く」  

  幼児の涙の中に街路樹の深緑が まだ 残っている/小さな手が見送りの父親を引き寄せ
    て/手の届くありったけ
を叩いている/戦争に巻き込まれた国で/国に残る父親と幼児の
    ために隣国へ避難する母親/父と母の間で架け橋
の形で揺れながら/手は父の肩や頬を叩
    き続けている/

 井上尚美さんの詩「叩く」の第一連を抜粋。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった頃、何
度かテレビニュースでみ
たことのあるシーンに”違いない”。戦況を伝えるアナウンサーの声
に関連した映像として流れていたはずで、その映
像への説明アナウンスはなかったと記憶する。
音声のない映像から感受した詩人の表現は見事に「叩く」姿を描写している。幼児の哀しみ
が、
兵士として国に残る若い父の苦悶が、子の手を止めない若い母の苦しみが伝わってくる。
  幼児は、戦禍の理不尽さよりも父との別れを、
もう知っているのだ。あんなにも小さいのに。
「叩く」ことでしか伝えられない・・・。それがどういうことかをこの詩は言おうとしている
ようだ。
 第2連では、先輩が語った終戦後の記憶を散文調で表し、先輩の「僕」は牛より貧しい自分
に腹が立って、畑を耕している母の
背を「叩いた」が、母は間を置かずその倍のビンタを返し
てきた・・・と述懐させる。「母は僕を通して、僕ではない何者かを叩いていた
のだ」とする
「僕」のこの吐露は、井上さんの本質的な声でもあると感じた。重い数行の詩世界だ。

 追悼文では、先の日本現代詩人会会長である新藤凉子氏への想いを菅沼美代子さんが綴る。
その関わり方が羨ましい。私の知る秋田の「歴程」会員の方からも新藤氏のことや連詩のこと
を伺っていたので、氏のお人柄や面倒見の良さなどを更に知る事ができた。

 

発行日  2023.03.01
発行人  井上尚美
発 行  穂の会 静岡県島田市
頒 価  500円

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする