腹がくちると、僕は猛烈な眠気に襲われていた。
椅子に背を当て
僕は目をつぶりそうになる。
「いやじゃ、なかったら・・・」
女は僕に女達の戯れの後の
布団で、眠らないかと
言葉をそえた。
「うん」
畳の上。
屋根の下の布団。
空腹の無い眠り。
その条件は魅惑的だった。
女は台所の横のふすまを開けた。
そこには、夜具がしきのべられ、
乱れた布団はさっきまでの
ハローと女の狂態をにおわせた。
だけど、僕はただ、ひたすら、
眠りの中に落ち込みたかった。
女は布団の乱れを取り繕い、
僕がそこで
安息を得る手続きをしてくれた。
僕は遠慮なく・・・。
と、いうより、
寄せてくる睡魔に
抗う事も出来ず、
布団の中にもぐりこんだ。
久しぶりの安住。
それが僕の体の疲れを思い切り
とびださせて。
着ている服のまま、布団の中に飛び込んだ。
女は斜めに入り込む夕暮れの光を
さえぎる術も無いと窓のカーテンを
ひきなおした。
それでも、まだ明るい部屋の中。
女は僕を残すと
台所に戻っていった。
僕は女の布団にもぐりこんだ。
「・・・・・」
女の布団には洗いざらしの敷布が敷かれている。
何度となく
洗濯された敷布。
だけど、そこには、
度重なる売春の後が残っている。
ハローに抱かれた名残だろうか?
洗っても洗っても落ちないしみが敷布に染み付いていた。
いまさらに・・・。
女がここで、この場所で、この布団で。
命をつむいでゆく糧を得る作業をしていると教える。
しみついて、どうしても落ちないしみをつけて、
女は春をひさぐしかない。
僕も・・・・。
分かっていながら、
うまい言いぬけの気持を底にひめたまま、
罪悪というしみをつくっていきてゆくしかない。
女も僕も
どんなに「こだわり」をもってみたって、
けっきょく、
しみを作って生きてゆくだけなんだ。
売春というしみ。
盗人というしみ。
そのしみを魂にまでしみつけておきたくない僕と女は
チョコレートを食べずに置く。
でも、そのチョコレートは
捨てる事も出来ず、僕の心にしのびよってくる。
僕は・・・・
女は・・・・。
ぬぐいきれないしみを作りながら
いきてゆくしかできないんだろう。
そんな悲しみにさえ
蓋をして・・・。
僕も女も
僕らも・・・・・。
いきぬいてゆくだけ。
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