読書感想228 キルギスの雪豹―永遠の花嫁
著者 チンギス・アイトマートフ
生没年 1928年~2008年
出身国 ソ連→キルギス共和国
出版年 2006年
邦訳出版年 2008年
訳者 阿部昇吉
邦訳出版社 (株)潮出版社
☆☆感想☆☆
アイトマートフの小説を手に取るのは本書が初めてである。ソ連がペレストロイカを経て崩壊し、キルギスも共和国として独立した国家になり、社会主義的なシステムに取ってかわって経済優先の資本主義化が進行している時代の中で、人々もキルギスの自然も変化を強いられる。キルギスの自然を象徴するのが天山山脈に住む雪豹。ここに登場する雪豹は年老いた雄の雪豹。死に場所と決めた高地に向かっているが、若い時に登れた山が登れずにいる。その雪豹狩りを企画したのが元コルホーズ議長で現在は狩猟会社を経営するベクトウル。ベクトウルはアラブの大富豪ハッサンとミシェルに雪豹狩りを売り込むことに成功。通訳として甥のアルセンに手伝わせることにする。アルセンはジャーナリストでキルギスの民話「永遠の花嫁」に基づいたオペラを作りたいを思っている。「永遠の花嫁」は失われた花婿を山の中で捜し続ける話。アルセンは叔父の求めに応じて故郷の村へ帰ってくる。村はアラブの大富豪の落とす財力への期待で沸き立っている。貧しい村が天山山脈の狩猟ツアー、つまり貴重な動物を獲って天山山脈の自然を破壊することに手を貸して生き抜こうとしている。故郷でアルセンは同級生のアフガニスタン帰還兵で狩猟会社に勢子として雇われているタシュタンベックに呼び出される。もっと大金が稼げる話があると。
ソ連が崩壊して20年以上、貧しいキルギスの観光の目玉が狩猟ツアーというのは、キルギスの人々にとっても苦渋の決断だったろう。そういう思いが伝わってくる小説である。