*韓国語学習のための翻訳で営利目的はありません*
著者:キム・ホヨン
コンビニに入ってくる客はカウンターの店員が自分を観察していると思わないだろう。しかし、予想より多くの客が品物を盗む。意を決して、或いは何気なく。特にソンスクのように太って鈍く見える小母さんがいる時は、盗む側も油断するのだ。ソンスクは長い接客業の経験を通して、何か不純に見える客をとてもよくわかったから、直前に入ってきた客が「意を決して」三角おにぎり2個を盗むのを捕らえることができた。休みの間、午前でも中高生がいろいろコンビニを訪れることはあった。しかしその少年は休みに学校に行かない子供には見えなかった。15歳ぐらいなのか?ソンスクぐらいの背で、どこか暗い顔色と安めの身なりが、ウオンリョ路と電子商店街の付近でふらふらしている不良青少年の連中を連想させた。
少年は陳列台の間を行ったり来たりしながらソンスクをひそかに観察しては、彼女が知らないふりをするや素早く三角おにぎり2個をジャンパーの中に重ねて入れた。そして再び陳列台の間を行ったり来たりしながら、時間をつぶしてカウンターに向かって近づいた。その短い瞬間に彼女はこの少年をどう処理するかたくさん考えた。たかが三角おにぎり2個のために、ナイフでも持っているかもしれない不良青少年に立ち向かう必要があるかという考えが先立ったけれど、誰にも与しやすく見えることを嫌う彼女の頑固な性格がすぐさま噴き出てきた。
「小母さん、ここ缶ジュースのチャモンないですか?」
「チャモン、何?そんなものないから。」
ソンスクは、返事を気にもしないようにすぐ振り返った少年の腕をタイミング良く捕まえた。奴は後頭部でも叩かれたように驚いて振り返りながら捕まった腕を引っ張った。
「出せ。盗んだもの。」
ソンスクがまっすぐに少年を睨んだ。少年はどうすることもできずに固まっていた。
「あんた、私が誰だと思っているの。速く!」
「ねえ・・・さん・・・。」
少年がため息のような罵詈雑言を吐き出しながら、ジャンパーの中に空いている手を突っ込んだ。彼女はしばらく奴がナイフを抜くのではないかとびくっとして、同時に緊張を振り払うために、掴んだ腕に更に力を加えた。
少年が三角おにぎりを取り出してカウンターに置いた。しかし1個だ。ソンスクはとんでもないという表情で少年に顎で指図した。
「全部出せ。警察署に引きずって行く前に。速く!」
ソンスクが犬のカミを懲らしめる時のように低く威厳を持って言った。
その時だった。少年が再びジャンパーに手を入れたと思うと、稲妻のようにすばやく取り出した三角おにぎりを彼女の顔に投げつけた。ぱっと、飛んできた三角おにぎりがソンスク眉間を打った。彼女は目の前が暗くなったまま、奴の腕を離した。
少年が「くそ!」と叫んでそして顔面全体が凍り付いた彼女に背をむけてコンビニを出ようとする刹那、外から誰かが少年の押すガラス戸を熊のような図体で止めた。ドッコさんだった。
「やあ、チャモン。」
ドアを開けて入ってきてドッコさんが少年に向かって笑ってみせた。少年がどうしたらよいかわからず後ろにぶつかった。ドッコさんは落ち着いて入ってきて預けておいた品物を受け取るように、少年を片腕で抱いてソンスクの側に近づいた。少年はなすすべもなくドッコさんに導かれてカウンターの前に引き寄せられた。彼女もやっと気を取り直してカウンターの前に歩み出てきた。
「こいつが・・・支払いしなかった・・ですよね?」
「忘れるなんて!警察に連れて行ってください。速く!」
ソンスクはドッコさんの腕に抱えられたままうなだれた少年に聞けと言うように叫んだ。しかし、ドッコさんは少年が動けないようにぎゅっと腕で抱いたまま首をかしげるだけだった。癇癪を起したソンスクが彼に問いただすように訊ねた。
「どうして?知っている子ですか?」
「子供はチャモン・・・毎日働きもしないチャモンを探していたのです・・・・僕の勤務の時に来たので・・・今日ちょっと遅かったようですね。チャモン、お前・・・今日腹時計・・・こわれたのか?それとも朝寝坊?」
ドッコさんはまるで友達に話すように少年に言ったので、少年は何も言わずに口だけ突き出したままとぼけた。大体何だろう?そうならこいつはドッコさんがいる時に、毎日三角おにぎりを盗んだことはないのか?ない。計算はいつも正確だった。そうならあの熊が奴にやったのか?だしぬけに登場して少年を捕まえた彼をほめる気持ちはもはや消えてしまって、ソンスクは怒りがこみ上げた。
「今まで子供に盗まれたことがあるでしょう?正直に言いなさい!」
「ないですが。」
「そんなはずがない。支払いもせず逃げたから。その上私に三角おにぎりを投げつけたのですよ!!」
その時ドッコさんが体を回して少年をまっすぐに起こした。少年を見下ろしていた彼は、ソンスクの横に落ちた三角おにぎりの塊に視線を移すと、すぐうつむいてそれを持った。
「お前・・・当てた?」
「・・・しかしですね。」
「そうなら・・・駄目だ。」
「わかりました。」
ソンスクはドッコさんと少年の落ち着いた会話を聞いていたら、さらに腹の虫が収まらなかった。やられたのは自分なのに、なぜ二人が互いに打ち解けているのか。
舌打ちをするソンスクにドッコさんが振り返って三角おにぎりをさっと差し出した。何だろう?
「計算してください。」
ソンスクは鼻であしらった。しかしドッコさんが固い表情で腕を伸ばすと、なぜかわからない緊張に気づいた。彼女はためらっていた手を動かしてバーコード読み取り機で三角おにぎり2個分の計算を打ち込んだ。ドッコさんは、ポケットに手を入れるとしわくちゃになった5千ウォン札を1枚出して彼女に渡した。ソンスクは虫にでもなったように用心深くそれを受け取りレジに入れて小銭を手渡した。
ドッコさんはそれでも手に握った三角おにぎりを片付けないでソンスクの前で持っていた。
「どけてください。」
「支払い・・・済ませたじゃないですか・・・。これ投げてください。」
ドッコさんが顎で少年を指した。この人、今私を見て奴がしたことと同じことをしろというのか?ソンスクは開いた口が塞がらなかった。ドッコさんの真摯な表情もそうだったけれど、その後ろに立ったまま、まるで執行を待つ死刑囚のようなしょげた少年を見ると、二の句が継げなかった。
「早く。」
既にドッコさんが自分に催促していた。ソンスクは我に返って、彼が主導する流れを断ち切らねばならないと思った。
「放り出します!子供のように三角おにぎりを投げるよ?持って行って二人で食うなり捨てるなりしてよ!」
ソンスクが声を張り上げて言い放った。ドッコさんが笑った。笑う?めちゃくちゃ言う彼女に向かって、ドッコさんが少年の肩を掴んで振り向かせた。
「早く・・・してあげて。遅くても・・・謝まれ。」
少年はうなだれた頭を一層下げてソンスクに二つのつむじが際立っている頭のてっぺんを見せてくれた。
「すみません。」
頭を挙げて虫の羽音のように少年が言った。ソンスクはこれ以上見るのが嫌だというように手を横に振った。ドッコさんが、まるで息子と同行する家長のように少年の肩に腕を回したままコンビニを出た。二人は屋外テーブルに行って三角おにぎりの包装を仲良く剥き始めた。
ソンスクはしばらく二人が三角おにぎりを食べながら笑う姿を眺めていた。今何が繰り広げられたのか?盗みをした少年がいて、自分はそれを防いでいて三角おにぎりに眉間を殴られた。逃げる少年をちょうど登場したドッコさんが捕まえて、盗んだものを代わりに支払ってくれて、奴に謝らせた。
被害者は泥棒され三角おにぎりで顔を殴られた自分に違いなかった。しかし、ドッコさんが瞬く間にことを片づけてしまう成り行きに、ほとんど腹も立たなかった。しかし、普通こんな場合であれば、ソンスクさんは癇癪を起して周囲の人々に不満を吐露し、怒りをぶちまけたはずだったが、不思議なことに、腹がたたず一言も浮かばなかった。
ドッコさんと「チャモン」が貧しい親子のように三角形の朝食を食べるのをただ眺めた。妙な気分になった。安堵感と許し、馴染みのない興奮がソンスクさんに生き生きした感じを与えていた。自分もこの奇妙な騒動劇の三角形の一辺を占めたことが、異常に面白いと感じて、三角おにぎりの包みをはがして彼らに近づかなければならないのではないかと考えるほどだった。
ドッコさんはしばらくチャモンという奴を気遣ってやったのだろう。だから、その不良の奴が文句を言わず彼の指示に従うのだ・・・。ソンスクも眉間が重苦しいことは重苦しいけれど、めったに誰も見逃すことがない自分に生まれた変化を新鮮に感じた。
一言で言えば気分が良くなった。