ミズダコは40日間冷蔵庫の棚にそのまま置かれていた。表面が赤い色から少し黒紫色に変化しただけで新鮮度は大きく落ちなかった。タンクが通り過ぎる音、黒い雹が落ちる音の正体は3日目に明らかになった。私が家を空けた間アパート入居10周年記念で大々的なペンキ塗り工事が断行されていた。最初塗料で外壁の亀裂部分が白く目印にされた。どうやってミズダコをおいしく料理するか考えて立っていると、あちこちの窓にペンキ工の体の一部が見えたり見えなかったりした。彼らがはぎとっていったアパートの外壁は、すべて白い幼虫がくねくねと動いた。1週間後に棟の端までペンキ作業がすべて終わると、一層快適で美しい団地になるはずだという案内放送があった。年月が経って私がこの家この都市を離れるようになれば、初めてフアンの家を離れた3年5か月前よりももっと深く罪責感を感じるようになるかもしれなかった。風の音だけではなくアパートの湿気とかびと亀裂状態を誰よりもよく調べている人はフアンであったであろう。時々風の音で居間に出てくるとヤドカリもそっと出て私に見つかった。ヤドカリはサザエの中に隠れても、私がヤドカリを発見するとすぐ違うフリ、小石のフリをした。ヤドカリを拾い上げ風が吹く窓の外に投げると、家に残ったヤドカリは今や1,2匹だけ。私はヤドカリをはっきり眺めていたけれども、わざと何も見えないフリをしてとぼけた。ヤドカリはこせこせしていても騙され、足の指をちらっと出して急ぎの用事でもあるように、すばしっこく長寿カナブンが寝ている子供のベッドの下にそっと入って行った。子供はヤドカリを忘れてから久しかった。それは村上の存在を忘れて過ごした期間に匹敵した。長寿カナブンは成虫になろうとするとやはり百日も残存した。子供は眠りから覚めるとすぐに長寿カナブンを探すだろうけれども、本当にそのそばでは習慣のようにとても退屈だっただろう。私は翌日も時間があればミズダコをどう料理するか考えただろう。ミズダコがある限り、私はこの家から一歩も動くことができなかっただろう。ヤドカリよりも速く消えるフアンは毎晩私が作るミズダコ料理を一気に食べてしまっただろう。あまりにも深く隠れて出てくる道を見失ってしまったのか、フアンは夜が更けるにつれて声がしなくなった。
-完ー