2019-0915-man3360
万葉短歌3360 伊豆の海に3105
伊豆の海に 立つ白波の ありつつも
継ぎなむものを 乱れしめめや 〇
3105 万葉短歌3360 ShuG294 2019-0915-man3360
□いづのうみに たつしらなみの ありつつも
つぎなむものを みだれしめめや
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第8首。女。左注(読下し)に、或本の歌として、「白雲の 絶えつつも 継がむと思へや 乱れそめけむ」。続けて、「右一首伊豆国歌」。
【訓注】伊豆の海(いづのうみ=伊豆乃宇美)。
2019-0914-man3359
万葉短歌3359 駿河の海3104
駿河の海 磯辺に生ふる 浜つづら
汝を頼み 母に違ひぬ 〇
3104 万葉短歌3359 ShuG291 2019-0914-man3359
□するがのうみ おしへにおふる はまつづら
いましをたのみ ははにたがひぬ
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第7首。女。脚注(読下し)に、「一には<親に違ひぬ>といふ」。左注に、「右五首駿河国歌」。
【訓注】駿河(するが)[駿河国(するがのくに)。静岡県中部]。磯辺(おしへ=於思敝)[「オシヘはイソヘの訛り」]。浜つづら(はまつづら=波麻都豆良)[はまつづら→つづら。以下は『万葉集事典』抜粋。落葉つる植物。茎が伸びて他の物に巻き付く。夏、淡緑色の細花。「はまつづら」は海岸に生える種類。蔓で編んだ篭が葛篭(つづら)]。汝(いまし)[伊麻思]。
2019-0913-man3358
万葉短歌3358 さ寝らくは3103
さ寝らくは 玉の緒ばかり 恋ふらくは
富士の高嶺の 鳴沢のごと 〇
3103 万葉短歌3358 ShuG290 2019-0913-man3358
□さぬらくは たまのをばかり こふらくは
ふじのたかねの なるさはのごと
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第6首。男。左注(読下し)に、「或本の歌に曰(い)はく ま愛(かな)しみ 寝(ぬ)らく及(し)けらく さ鳴(な)らくは 伊豆の高嶺の 鳴沢なすよ 一本の歌に曰はく 逢へらくは 玉の緒及けや 恋ふらくは 富士の高嶺に 降る雪なすも」。
【訓注】さ寝(さぬ=佐奴)。玉の緒(たまのを=多麻乃緒)。恋ふ(こふ=古布)。富士の高嶺(ふじのたかね=布自能多可祢)。鳴沢(なるさは=奈流佐波)[激しい恋情を富士山の岩石崩落音に譬える。富士山北麓(山梨県)に、南都留郡鳴沢村の地名]。ま愛しみ(まかなしみ=麻可奈思美)。伊豆の高嶺(いづのたかね=伊豆能多可祢)[「伊豆の天城山か」。伊豆国は静岡県東部]。
2019-0912-man3357
万葉短歌3357 霞居る3102
霞居る 富士の山びに 我が来なば
いづち向きてか 妹が嘆かむ 〇
3102 万葉短歌3357 ShuG287 2019-0912-man3357
□かすみゐる ふじのやまびに わがきなば
いづちむきてか いもがなげかむ
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第5首。男。
【訓注】霞居る(かすみゐる=可須美為流)[14-3388可須美為(かすみゐ)]。富士(ふじ=布時)。山び(やまび=夜麻備)[下記注]。
【編者注-び】「傍・回。(接尾辞。上代語。山・川・岡・浜などの名詞に付いて)ほとり、そのまわり(の意を添える)」。(『詳説古語辞典』抜粋) 05-0838知利麻我比多流 乎加肥尓波(ちりまがひたる をかびには)、-0894(長歌)大伴 御津浜備尓(おほともの みつのはまびに)、17-3973(長歌)夜麻備尓波 佐久良婆奈知利(やまびには さくらばなちり)、20-4309秋風尓 奈妣久可波備能(あきかぜに なびくかはびの)。
2019-0911-man3356
万葉短歌3356 富士の嶺の3101
富士の嶺の いや遠長き 山道をも
妹がりとへば けによはず来ぬ 〇
3101 万葉短歌3356 ShuG287 2019-0911-man3356
□ふじのねの いやとほながき やまぢをも
いもがりとへば けによはずきぬ
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第4首。男。
【訓注】富士の嶺(ふじのね=不尽能祢)。いや(伊夜)。山道(やまぢ=夜麻治)。妹がり(いもかり=伊母我理)[「<がり>は許(もと)」]。けによはず(気尓余波受)[「心軽々、すいすいと」。「結句<けによはず来ぬ>が難解」]。
2019-0910-man3355
万葉短歌3355 天の原3100
天の原 富士の柴山 木の暗の
時ゆつりなば 逢はずかもあらむ 〇
3100 万葉短歌3355 ShuG287 2019-0910-man3355
□あまのはら ふじのしばやま このくれの
ときゆつりなば あはずかもあらむ
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第3首。男。
【訓注】富士(ふじ=不自)[富士山。下記注]。木の暗(このくれ=己能久礼)[「<此の暮>を懸け」る]。ゆつりなば(由都利奈波)[「<ゆつる>は<い移る>の約」。04-0623月者由移去(つきはゆつりぬ)、11-2670清月夜之 湯徙去者(きよきつくよの) ゆつりなば)、-2673夜渡月之 湯移去者(よわたるつきの ゆつりなば)]。
【編者注-ふじ】「富士山」を表わす「ふじ」の集中での用字は、出現順に次のとおり。03-0317布士能高嶺、不尽能高嶺、-0318不尽能高嶺、-0319不尽能高嶺、不尽能高峯、-0320不尽嶺、-0321布士能嶺、11-2695不尽乃高嶺、-2697布仕能高嶺、不尽乃高山、14-3355不自、-3356不尽能祢、-3357布時能夜麻、-3358布自能多可祢、布自乃多可祢。
2019-0909-man3354
万葉短歌3354 伎倍人の3099
伎倍人の まだら衾に 綿さはだ
入りなましもの 妹が小床に 〇
3099 万葉短歌3354 ShuG282 2019-0909-man3354
□きへひとの まだらぶすまに わたさはだ
いりなましもの いもがをどこに
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第2首。男。左注に、「右二首遠江国(とほつあふみのくにの)歌」。
【訓注】伎倍人(きへひと=伎倍比等)。まだら衾(まだらぶすま=万太良夫須麻)[「まだらに染めた掛布団」。07-1255綵色衣(まだらのころも)、-1260斑衣(まだらのころも)、02-0212衾道乎(ふすまぢを)、など]。さはだ(佐波太)[「多く、多量、の意の副詞」]。小床(をどこ=杼許)[14-3484伊射西乎騰許尓(いざせをどこに)、集中2か所だけ]。遠江国(とほつあふみのくに)[静岡県西部]。
*** 万葉集 巻14 相聞(3353-3428、76首) 始 ***
2019-0908-man3353
万葉短歌3353 麁玉の3098
麁玉の 伎倍の林に 汝を立てて
行きかつましじ 寐を先立たね 〇
3098 万葉短歌3353 ShuG282 2019-0908-man3353
□あらたまの きへのはやしに なをたてて
ゆきかつましじ いをさきだたね
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第1首。男。
【訓注】麁玉(あらたま)[「静岡県浜松市浜北区の一部。天竜浜名湖鉄道宮口駅周辺を中心とした浜北区の北西部分の地域」(Wikipedia)]。伎倍(きへ)[「麁玉の小地名だが、所在不明」。11-2530璞之 寸戸我竹垣(あらたまの きへがたけがき)]。
2019-0907-man3352
万葉短歌3352 信濃なる3097
信濃なる 須我の荒野に ほととぎす
鳴く声聞けば 時過ぎにけり 〇
3097 万葉短歌3352 ShuG278 2019-0907-man3352
□しなのなる すがのあらのに ほととぎす
なくこゑきけば ときすぎにけり
〇=出典未詳。
【編者注】東歌(3348-3352、5首)の第5首。男。左注に、「右一首信濃国(しなののくにの)歌」。
【訓注】信濃(しなの)[信濃国。長野県]。須我(すが)[長野県上田市菅平高原辺]。ほととぎす(保登等芸須)。
*** 万葉集 巻14 東歌(3348-3352、5首) 終 ***
2019-0906-man3351
万葉短歌3351 筑波嶺に3096
筑波嶺に 雪かも降らる いなをかも
愛しき子ろが 布乾さるかも 〇
3096 万葉短歌3351 ShuG274 2019-0906-man3351
□つくはねに ゆきかもふらる いなをかも
かなしきころが ぬのほさるかも
〇=出典未詳。
【編者注】東歌(3348-3352、5首)の第4首。男。左注に、「右二首常陸国(ひたちのくにの)歌」。
【訓注】雪(ゆき=由伎)[「東歌に三例」。ただし、11-3423布路与伎能(ふろよきの=降る雪の)]。降らる、乾さる(ふらる、ほさる=布良留、保佐流)[下記注]。いなを(伊奈乎)[「<否>と<諾(を)>」]。愛しき子ろ(かなしきころ=加奈思吉児呂)[下記注]。常陸国(ひたちのくに)[茨城県]。
【依拠本注-降らる、乾さる】「降らる」は「降れる」の東国形。東国語には中央語の e が a に交替するのが目立つ。結句に「乾さる」ともある。
【依拠本注-愛し】「愛(かな)し」はせつないまでにいとしい、の意。「悲し」と同源だが、性愛を表わすのが習いで、大部分東国の歌に現われる。〔編者注保留〕
【依拠本注-子ろ】女への愛称。東歌に限られる。20例。「ろ」は親愛を示す東国特有の接尾語。
2019-0905-man3350
万葉短歌3350 筑波嶺の3095
筑波嶺の 新桑繭の 衣はあれど
君が御衣し あやに着欲しも 〇
3095 万葉短歌3350 ShuG274 2019-0905-man3350
□つくはねの にひぐはまよの きぬはあれど
きみがみけしし あやにきほしも
〇=出典未詳。
【編者注】東歌(3348-3352、5首)の第3首。女。左注(要旨)に、或本歌には「たらちねの」、また「あまた着欲しも」と。
【訓注】筑波嶺(つくはね=筑波祢)[茨城県筑波山]。新桑繭(にひぐはまよ)[「その年に新しく芽生えた桑の葉によって飼った、春蚕(はるご)の繭」]。君(きみ=伎美)。御衣(みけし=美家思)[10-2065公之御衣尓(きみがみけしに)。下記注]。あやに(安夜尓)。
【依拠本注-衣(けし)】「着る」の敬語「着(け)す」の名詞形。記歌謡四に「ぬばたまの黒き美祁斯(ミケシ)を」とある。
2019-0904-man3349
万葉短歌3349 葛飾の3094
葛飾の 真間の浦みを 漕ぐ舟の
舟人騒く 波立つらしも 〇
3094 万葉短歌3349 ShuG272 2019-0904-man3349
□かづしかの ままのうらみを こぐふねの
ふなびとさわく なみたつらしも
〇=出典未詳。
【編者注】東歌(3348-3352、5首)の第2首。男。左注に、「右一首下総国(しもつふさのくにの)歌」。
【訓注】葛飾(かづしか=可豆思加)[「下総の郡名。千葉県・東京都・埼玉県などにまたがる江戸川下流一帯。」 03-0431(題詞)可豆思賀(かづしか、以下同訓)、14-3349、-3384可都思加、-3385可豆思賀、-3386可豆思加、-3387可豆思加]。真間(まま)[千葉県市川市真間辺]。下総国(しもつふさのくに)[「千葉県北部から茨城県南部」]。
***** 万葉集 巻14(3348~3577、二百三十首) 始 *****
東歌(3348-3352、5首)
相聞(3353-3428、76首) 3417=柿本人麻呂歌集
譬喩歌(3429-3437、9首)
雑歌(3438-3454、17首)
相聞(3455-3566、112首) 3470、3481、3490=柿本人麻呂歌集
防人歌(3567-3571、5首)
譬喩歌(3572-3576、5首)
挽歌(3577、1首)
*** 万葉集 巻14 東歌(3348-3352、5首) 始 ***
2019-0903-man3348
万葉短歌3348 夏麻引く3093
夏麻引く 海上潟の 沖つ洲に
舟は留めむ さ夜更けにけり 〇
3093 万葉短歌3348 ShuG266 2019-0903-man3348
□なつそびく うなかみがたの おきつすに
ふねはとどめむ さよふけにけり
〇=出典未詳。
【編者注】東歌(3348-3352、5首)の第1首。男。左注に、「右一首上総国(かみつふさのくにの)歌」。
【訓注】東歌(あづまうた)[大和朝廷所在圏(と意識される)のヤマトウタに対応する、朝廷辺縁圏(同)のアヅマウタであり、ただちに東方を意味しない。下記注]。夏麻引く(なつそびく=奈都素妣久)[07-1176夏麻引、13-3255夏麻引、14-3381奈都蘇妣久]。海上潟(うなかみがた=宇奈加美我多)[千葉県市原市辺の東京湾岸干潟]。上総国(かみつふさのくに)[千葉県中部。南隣の安房は上総と離合する]。
【依拠本注-東歌】(要旨抜粋)万葉集は本来「都(みやこ)」の歌謡集であったが、成長形成の過程で「鄙(ひな)」の歌謡集として、巻14が置かれた。命名としては、『文選』の南音・東歌が関わるか。
2019-0902-man3347 万葉短歌3347 草枕3092
草枕 この旅の日に 妻離り
家道思ふに 生くるすべなし 〇
3092 万葉短歌3347 ShuG260 2019-0902-man3347
□くさまくら このたびのけに つまさかり
いへぢおもふに いくるすべなし
〇=出典未詳。
【編者注】挽歌(3324-3347、24首)の第24首。男。3346番歌(長歌)への反歌。左注(読下し)に、「或本の歌には<旅の日(け)にして>といふ」と。続けて、「右二首」。
【原文】13-3347 草枕 此羈之気尓 妻放 家道思 生為便無 或本歌曰 羈乃気二為而 作者未詳
*** 万葉集 巻13 挽歌(3324-3347、24首) 終 ***
***** 万葉集 巻13(3221~3347、百二十七首) 終 *****
2019-0901-man3345
万葉短歌3345 葦辺行く3091
葦辺行く 雁の翼を 見るごとに
君が帯ばしし 投矢し思ほゆ 〇
3091 万葉短歌3345 ShuG256 2019-0901-man3345
□あしへゆく かりのつばさを みるごとに
きみがおばしし なげやしおもほゆ
〇=出典未詳。
【編者注】挽歌(3324-3347、24首)の第22首。女。3344番歌(長歌)への反歌。左注に、「右二首」、続けて但し書き(要旨)に、或いはこの長短歌は防人の妻の作か。
【訓注】葦辺行く(あしへゆく=葦辺徃)。雁の翼(かりのつばさ=鴈之翅)。君が帯ばしし(きみがおばしし=公之佩具之)[「<帯ぶ>の尊敬態」]。投矢(なげや=投箭)。
【2010年11月01日開設から】3225日
【アクセス数】トータル閲覧数 834684PV トータル訪問数 233040UU