風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ヘロイン

2010年04月19日 | 「特選詩集」
Senro2


とつぜん夜中におなかを痛くする
私はそんな子供だった
そのたびに
父の大きな手が
私のおなかを温めてくれた


ときには私の頬をぶった
太い血管がうきでた手
ぶ厚いふとんよりもしっかりと
私の痛みを押さえてくれた


今でも私は
夜中におなかを痛くすることがある
そんなときは
おなかに自分の手を当てたまま
しばらく痛みに耐えている
私の体には
ときどき毒がたまるのだろう


もう温かい父の手はない
私の手は
きょう娘の頬をぶった手だ
マーマ ごめんなさい
マーマ ごめんなさい
私の手はまだ濡れたままで


痛むおなかの上に
自分の手をのせていると
あたたまった毒が
じわじわと体じゅうに溶けて
私はまた
おさない夢の始めにおちてゆく


(2004)



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