風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

サインは、さよならとまたね

2015年03月28日 | 「詩集2015」

前田くんはピッチャーで
ぼくはキャッチャー
サインは
ストレートとカーブしかなかったけれど
あの小学校も中学校も
いまはもうない

前田くんはいつも
甘いパンの匂いがした
彼の家がパン屋だったから
だがベーカリーマエダも
いまはもうない

最後のサインは
さよならだった
さよならだけでは足りなくて
もういちど
さよならと言った
それでも足りなくて
またねと言った
あれから春はいくども来たけれど
またねは来なかった

いつもの朝がある
さよならともまたねとも言わないで
朝だけが朝としてやってくる
冷蔵庫のパンとマーガリンには賞味期限がある
前田くんが焼いたパンではないけれど
食卓にはパンとヨーグルトとサラダ
左の掌をポンポンとたたく
今朝のサインは
さよならとまたねでいく








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