こんやも窓ガラスを
こつこつと叩くやつがいる
カブトムシだ
息子よ
きょうの収穫はいっぴき
絵葉書はいくども読んだよ
熱帯夜には流氷の夢に包まれたいものだ
あつい川に足首を浸しながら山を越えて
熊の肉と行者ニンニクをかじる
そんな半島の夏は
昆虫も飛べないほど短いのだろう
カブトムシよ
おまえのことは手紙に書いておこう
かたい角と角を闘わせる
そんな遊びと賭けを覚えているか
栄光のしるしは背中にしかなくて
ときには空をつかもうと足掻いたり
短いいのちが重すぎるのか
ぶきように滑空して飛びたったり
息子よ
夏が終ればもう
おまえを息子よなんて呼ぶのも恥ずかしい
私の机の上の
2ひきのカブトムシ
まるい翅にかたく
冷めきらぬ夏の空をとじ込めたまま
季節の距離のさきへと
やがて
通信も途絶えるだろう
(2005)