風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ふたたび冬の森で生きている

2015年02月10日 | 「詩集2015」

森の声なき声が、冬の森をさまよっている。
風のとおる道は、枯れた落葉の匂いで満たされ、空があらわになった裸木の森は、隙間だらけでかえって明るい。
細い枝々の先が、何かをつかもうとして競っているようにみえる。そこには吹き抜ける風と白い雲しかないけれど、ふわふわの雲にもうすこしで手が届きそうで、枝々の細い指先はもう、季節の温もりをさわっているのかもしれない。

*

だれか森の奥で
山桃の実を食べている
指のさきから尻尾のさきまで
あかく染まり
鳥のように生きている
虫のように生きている

ひと粒はひと粒のために
いっぴきはいっぴきのために
あつい唇から唇へ
ときには土から土へ

葉のいちまいの
葉脈の川に
うち震える嵐はあるかしら
飢えた水はあるかしら
落葉に埋まった団栗の実に
地球の種子は宿っているかしら

ふたたび
生まれかわる夜は
だれかとだれか
あかい目をした生きものになる
周回する森の星座になる

そして夜明け
かがやき放って落ちたら
あかい実になるという





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