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ヒグラシの声を久しく聞いていない。
また蜩(ヒグラシ)のなく頃となった
かな かな
かな かな
どこかに
いい国があるんだ
(山村暮鳥『ある時』)
ぼくの住んでいるあたりでも、かつては車で1時間ほども走ると、里山ではヒグラシが盛んに鳴いていた。
谷あいを細い川が流れ、瀬音に混じってカジカの鳴き声も聞くことができた。
清流の石ころに巣食っている川虫をとり、釣り針の先に刺して岩陰の落ち込みめがけて竿を振ると、ぐぐっと竿先が引き込まれる。回りの木や雑草を気にしながら竿を引き寄せると、美しいヤマメが宙を舞って手元に飛び込んでくる。冷たくてぬめっとした手触りと、揃えて並べたような青い側斑が美しかった。
ヤマメとの出会いに鼓動を早くしながら、瀬から瀬を上ってゆくうちに疲れて、流れのそばに開けた砂地で寝ころがっていると、両側に迫った山には、早くも薄暮のかげが深く落ち始めている。
その頃には、ヒグラシの声が山肌を突き抜けて降ってくるのだった。
ヒグラシがかなかなと鳴いている、そんないい国にいながら、ほかにも、どこかにいい国があるように思えるひとときだった。
それから後に、里山の入口には広い駐車場ができ、川原は水遊びやバーベキューで賑わうようになった。そして、ヒグラシの声もしだいに山奥へ追いやられていった。
いい国は、だんだん遠くなってゆくのだった。
その日は夏休みの最後の日だったかもしれない。
すこしずつ暗くなってゆく山あいの空に、ひとつふたつと点を打つように星が輝き始める。それらの星を縫うように、小さな星がゆっくりと流れていった。銀色に光る人工衛星だった。
ひとの手は星にまで届いていたのだ。
静止した星々の中で、ひとつだけ音もなく遠ざかってゆく星は、美しい星座の神話を、宇宙に新しく書き加えているようだった。ひとが作った小さな星が、どこかのいい国を目指して飛行しているようにみえた。
いま、どこかにいい国があるだろうか、と考える。
地球上のいたるところで、いきなり爆弾がどかんと炸裂する。地上から離れた高層ビルだろうと、アフリカ大地溝帯のど真ん中だろうと、選ばれた神のメッカだろうと、どこであろうと、一瞬にして廃墟になってしまう現実がある。
本当にいい国は、どこかにあるのだろうか。
人と人との、国と国との争いは幾千年も続いて、いまだに終りそうもない。
いい国はどこにあるのか。とほうもない光の世紀を超えて、はるか冥王星の彼方ほどの遠くに、その国はあるのだろうか。
記憶の中のヒグラシの声が、ときに首をかしげて鳴いているように聞こえる。
どこかにいい国があるかな? かな? かな? かな? と。
読んでいただき、ありがとうございます。
いい国、ひとそれぞれに
きっとどこかにあるんでしょうね。
とりあえず今は、どこか涼しい国に行きたいです。
やっと その村に 出会えた 思った矢先の 原発事故でした
その美しい村 飯館村は 原発に頼らず 自分たちで 質素な 美しい村を 作っていたところで
山村暮鳥さんの 名前も 詩も しばらくぶりで 耳にしました
おーい雲よ… など スケールの大きい 詩が大好きでした🙋ありがとうございました👼
美しい村はどうなりましたか。
どこかにいい国があり、美しい村がある、
そんなところがどこにあるのか、
おーい雲よ
と、雲にたずねてみますか。