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河村亮は肩で息をしながら、両脇に縋り付いた柳楓と佐藤広隆の手を振り解こうともがいていた。
焦れる亮達の向こう側には、地面に倒れ込んだ雪と淳、そしてその目の前に立ち尽くす柳瀬健太が居る。
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駐車場に停まった淳の車は、運転席側のドアが開けっ放しになっていた。
現状を理解した亮は、いつしか彼らの元へ向かう足を止め、その場で成り行きをじっと見つめる。
「‥‥‥‥」
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「怪我は無いよね?」
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淳はそう言って雪の髪に手を伸ばした。
雪は混乱と動揺の中で、彼に向かって口を開く。
「先輩?!どうして‥」「ん?怪我は無いんだよね?」
「いやいや、問題は私の方じゃなくて‥!」
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「ケガ、無いですか?!頭は?!」
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雪は彼の頭に手を伸ばし、そこにケガが無いかどうかを確認した。
雪を庇うようにして、自分もろとも地面に倒れ込んだのだ。流血していても不思議じゃない。
けれど今のところ、どうやら頭は大丈夫そうだった。
「他には‥」
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そう言って、雪が彼の手に視線を移したときだった。
思わずサッと雪の顔が青ざめる。
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「先輩!先輩、手が‥!」
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自身の肩に添えられた彼の手の甲は、痛々しく擦り切れ血が滲んでいた。
雪は真っ青になりながら、バッと彼の顔を見上げる。
「先‥!」「先輩‥」
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しかし彼の視線の先は、心配そうに彼を見上げる彼女の方ではなかった。
瞬きもしないままただじっと、目の前に居るその相手を見つめている。
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雪の視線もまた、彼の視線の先を追った。
そこには、呆然として立ち尽くす加害者の姿がある。
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「え‥え‥?」
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二人から凝視され続ける柳瀬健太は、汗をダラダラと流しながら狼狽した。
そんな健太に向かって、淳が静かに口を開く。
「雪に何するんです」
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彼女の肩を抱く、その傷ついた手に力がこもる。
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「ねぇ」
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「限度というものがあるでしょう。どうして、」
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雪は彼の顔から、目を逸らすことが出来なかった。
見据えられている健太は、「いや‥その‥」と口ごもる。
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だんだんと彼の瞳から、光という光が消えて行く。
そしてそこに残ったのは、何もかもが剥ぎ取られた後の、彼の核心だった。
「どうして線を越えるんだ‥」
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ーAcross the lineー
その線を越える者には、それなりの報復が必要だ。
今目の前に居るこの男にも、等しく罪を償わせる必要がーーー‥。
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瞬間、目の前が真っ暗になった。
雪は咄嗟に彼に向かって手を伸ばし、その瞳を柔らかな手で覆う。
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ふと時の狭間に入り込んだような、静寂が三人を包み込んだ。
雪はその手を外さぬままゆっくりと、柳瀬健太の方を振り返る。
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雪の脳裏に、あの夏の終わりに目にした、彼の闇が蘇った。
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恐る恐る覗き込んだ路地裏で見た、彼の姿。
普段からは想像もつかないその姿に、思わず背筋が凍った。
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泥棒を執拗に蹴り上げる彼の瞳には、暗い闇だけが写り込んでいた。
何の感情も読み取れないような、憐憫一つも赦さないような‥。
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足が痛むからではなく、雪はその彼の姿が恐ろしくて、足が竦んで、その場から動けなかった。
ああこれが「青田淳の本性」なのだと悟った、あの暗い夜ーーーー‥。
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雪は彼の瞳を手で覆い続けながら、再び目にしたその闇が去るのを待っていた。
淳は何も口にせず、ただその場でじっとしている。
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その沈黙を破ったのは健太だった。真っ青な顔で動揺している。
「あ、あおあおあお‥青田、大丈夫か?てかどうしていきなり‥!うう‥!」
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「ス‥スマンかった。大した怪我じゃないんだろ‥?」
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目を閉じた淳の耳に、健太がたたらを踏む足音が聞こえた。
適当に言葉を濁しこのまま去るつもりなのかもしれない、
そう思った淳は、ピクリと身体を動かし、雪に向かって口を開く。
「雪ちゃん、これちょっと‥外して。雪ちゃん」「!」
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そう言いながら、淳は雪の腕を解こうと身を捩った。
瞳からは手が外されたが、身体はまだ押さえられていた。淳は俯いたままこう繰り返す。
「ちょっと雪ちゃん、ね?ちょっと‥」
「先輩」
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雪は彼の瞳を見つめながら、ゆっくりとその首を横に振った。
彼の目には、まだ微かに闇が揺れているのだ。
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ふぅ、ふぅ、と小さく喘ぐように息をする淳。
しかし静かに彼を見つめる彼女を見ている内に、いつしか淳の呼吸は落ち着いて行った。
「‥‥‥‥」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<二度目の闇>でした。
今回ここの淳の台詞、意訳しました。
直訳だとこういう感じです。
「どうしてほどほど(適当)に出来ない‥」
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ですね。本気で怒ってんな~先輩‥。
「ほどほどに」というと、この辺りを思い出しますね。
高校時代、岡村泰士と亮の喧嘩の辺りです。
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この時も「ほどほどに出来なかった」=「線を超えた」岡村に対して、同じような目をしていました。
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そして今回、その目を手で覆った雪ちゃんの存在がなんと大きいこと!!
以前下着泥棒を蹴り飛ばしていた先輩を見た時は、恐ろしくて震えていた子が‥。
雪ちゃんが先輩の人間性を受け入れた今だからこそ、出来ることですよね。
しかし今までのストーリー展開が「健太直美健太直美過去問健太直美‥
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尚の事心に迫る感じがします‥!笑
次回は<滲>です。しん、と読みます。
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雪ちゃんが手で覆わなかったらどうなってたか見たかった!(笑)
もう健太はやられてもしゃーないと思うんですけどね。
先輩と雪ちゃんは真っ先にお互いを心配してて、癒されました。いいなあ。
先輩はもしかすると、こうするべきだ、という考えから心配してたのかもしれないけど、雪ちゃんは真心からなんだよなあ。
素敵な女の子だ、雪ちゃん。
先輩も大好きだけど、雪ちゃんもほんっと好き。何もかも大切に大切に生きてる。
無条件で応援したくなる…。
佐藤先輩も柳先輩も健太やっちまえ(笑)
被害者意識も他人に対する共感性が乏しいのも、ずっと誰も自分の気持ちを分かってくれなかったからに起因していると思うし。
雪ちゃんはしょせん先輩の本当の闇を見たら逃げ出すと思っていたけど、ちょっと希望が見えてきたかもです。
怖いもの見たさで黒淳にもしびれるので、見れなくなったらつまんないかもですが。
それだけ、淳が雪ちゃんのことが好きだからなのでしょうね。
他からの支配や干渉を嫌っていた淳なのに、変わりましたね。
(言い方だけは)礼儀正しい先輩。
でもキレてる。絶対キレてますよ、これは。
健太だけは「線を超える」ことなく、ギリギリ耐える程のウザさで最後までズルズル続き、夜神淳の休学ノートに名前を書かれることなく、なーにも失くさず卒業するだろうと思ってましたのに。
黒淳も雪ちゃんのおかげで変われるのかな?手に負えないほどの闇じゃないといいけど、、、
1000日おめでとうございます!
昔こめしたのですが、どんなハンネだっか忘れました笑
1日ごとに、1時を過ぎたらここを見るのが楽しみです!
動画も楽しませて頂きました♪(まとめてこちらでコメ失礼します!)
いつも一生懸命な雪はやっぱり主人公だなあとしみじみ感じますね~(*^^*)
私ははじめYahooの漫画アプリからちーとらに入ったクチなんですが、最早アプリもやめ本家も見ずyukkanen様の翻訳のみで楽しませて頂いています♪ 翻訳される方のフィルターってとても大事で、作品への愛が読みやすさに直結している気がします。。毎度ながらありがとうございます、どうぞ無理せずの範囲でこれからもよろしくお願いします(^人^)
そしてそして、やはりダークサイド出ちゃいましたね(笑)押さえられている淳がなんだか可愛らしい。。でも亮の方が遠目に見ている立ち位置だけに、(そして亮寄りな私は)次の展開が気になります、、!
長々失礼しましたf(^^;
「雪ちゃん、命、助けたよね~(・ω・)ノ人間の形にしたゴミなんだけど・・・」
「そうだよね~」
こんな感じでした。止めなかったら、本気で、人殺しが起こったかもしれないです。今も十分に、立派なデッードフラグ 達成と思いますが・・本当にやばいことは雪ちゃんが止めてくれたので、他はスライムが負えるものでしょ。自業自得。
その期間にいろんな事を乗り越えて今があるんですね~
この場面の黒淳のセリフが知りたかった~
ドラマの中での雪ちゃん泣きながら先輩に飛び込んでましたね、、、あの執拗なまでの泣いてる?~指で涙をが無いんだね、、、そして横山撃退後の自身の献上もナシ、、、秋夜のキスも2回、、、3回にして欲しかった、、、何よりもパーソナルスペースに入って萌え顔がドラマには組み込まれてなかった!これが一番好きなのに~
ってドラマはドラマ何でしょうけどね、、、