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河村亮は真面目に勤務中だ。ゴミ袋を幾つもゴミ捨て場に捨てる。
もうとっくに日は暮れて、終業まであともう少しである。
「結構力仕事なのな」
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そう呟きながら、一人肩を回していた時だった。
店の入り口から、雪の母親の荒ぶった声が聞こえる。
その声はドア近くに佇む雪の父親に向かっているようだった。
「今頃帰って来て何です?!」
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「何よ!どうせなら肺ガンになるまで吸ったらどう?!」
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一服すると言っては度々外出し、なかなか帰って来ない旦那に苛立っているらしかった。
しかし雪の父親も顔を顰めて言い返す。
「一服が必要な時もあるんだよ!」
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いい加減にしろ、と言い捨てて彼は彼女に背を向けた。
大きな足音をたてながら、店の中へと入って行く。
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旦那を見る彼女の表情は険しかった。
悔しさを堪えて口元を結ぶ表情は、どこか雪に似ている‥。
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亮はそんな二人を窺いながら、どこか不穏な空気を感じ取っていた。
家族というものは、必ずしもいつも円満なわけじゃないー‥。
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「あれ?河村氏?」
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不意に声を掛けられ振り返ると、そこには雪が立っていた。
亮は普段通り挨拶しかけるが‥
「よぉ!ダメー‥」
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しかしふと気になって店の中を覗いた。
雪の両親がこっちを見ていないことを確認する。
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‥どうやら大丈夫そうだ。
「‥ージヘアー!」
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雪はそんな亮を見て眉を寄せるが、それ以上にその見た目にはインパクトがあった。
「わ!本当にエプロンしてる!似合ってるし!」「ユニホームは必須だろ?」
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からかうように笑う雪に対して、亮はその魅惑的な瞳で彼女に語りかける。
「エプロン姿もイケてるだろ?店の売上は全てオレが上げてると言っても過言じゃねぇな」
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そのうぬぼれ発言に、思わず雪は白目だ。
なぜ顔のいい男はこうナルシシズムが強いのだろう‥。
恥ずかしくないんですか? 恥ずかしくありませんが何か?
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二人は負けじと口喧嘩する。貼り付いたような笑顔を浮かべて。
「仕事頑張ってるんでしょ?何でそんな‥」「知るか弟に聞け」
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そして雪は弟の勤務態度を思い返し、遂に降参した。
「勝てっか?」と胸を張る亮に、「まいりました」と俯いて。
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「しっかし今帰りかよ?」
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そう言って亮は空を見上げてみた。もうとっぷりと日も暮れている。
「お嬢サンがこんな夜遅くに‥」「しょうがないですよ、学校遠いんですもん」
「だったら早く家に帰れよ」「家族皆ここにいるからつい‥」
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二人がそんな会話をしながら歩き始めると、後方から蓮が走り寄ってきた。
ニコニコと笑顔を浮かべている。
「姉ちゃん丁度良かった!亮さんが貰った超高級ハムこれから食べるんだ!一緒に行こー!」
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そろそろお客さんもいなくなるし、母さんから休憩の許可も貰ってきたと言った蓮に、亮はピースを返す。
「ああ‥(無駄に送料がかかった)あのハムね‥」
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遠藤から恩人である亮へのギフト、高級ハム‥。
雪が亮に渡す役目を担っていたが、いつ会えるか分からないと思って宅配で送ったのだ。
こうしてすぐに会えると知っていたら無駄に送料かけて送ることなかったのに‥。
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それでも高級ハムの魅力に抗えず、雪はヨダレを垂らした。
そろそろお腹のムシが鳴き出す頃である。
「嫌なら来んな」「行きましょ!」「行きます、行きますよ!」
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スタスタ歩き出す亮と蓮の後ろを、雪は小走りでついて行った。
どこへ行くのかと思っていると、二人は思いも寄らない場所に入り始めて‥。
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ジュワッと、ハムの焼ける良いにおいが辺りに立ち込める。
ここは、店の隣の細い路地である。
マットを敷いたものの地べたに座り、雪は微妙な気分であった。しかし亮も蓮も気にする素振りは無い。
「あ~いい匂い!やっぱり高級ハムは違うな~!」
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そう言って蓮は鉄板の上のハムを裏返した。亮は一人でビールなど飲み干している。
ニコニコ笑いながら蓮が亮に質問した。
「亮さんてナニゲにすごい人なの?」
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亮は蓮の質問に、誇らしそうにその高い鼻をさらに高くして答える。
「お前もオレのように真面目に生きてれば、寝ててもハムが送られてくるってもんよ」
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兄貴からの訓えに蓮は威勢よく返事をして、雪は微妙な表情で沈黙する。
笑い合う二人の間で、雪はそわそわとした気分だった。
「けどこんなとこでこんなことして大丈夫なの?しかも野外で‥」
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心配を口にする雪に、亮は「お前の親戚の敷地内だし、ゴミだけ片せば大丈夫っしょ」と余裕だ。
蓮はハムをひっきりなしに投入しながら、賞味期限が近いから早く食べてと言って各々の皿に焼けたハムを乗せて行く。
た‥食べればいいんでしょ‥
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そう言いながら雪は、ハムを口に運んだ。
柔らかなそのお肉を、モグモグと咀嚼する。
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「‥遠藤さん奮発したんだなぁ」「ね!超ウマーイ!」「クックック‥」
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超高級ハムというだけあって、それはそれは美味なお肉だった。
そのまま雪達三人は、路地裏に煙を立てながら夢中でハムをつつき合ったのだった‥。
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<エプロン姿の君>でした。
亮、エプロン似合ってますね!
しかし路地裏で焼き肉(焼きハム?)とは‥!初めて見た時衝撃でした。韓国では普通なんですかね?
次回は<路地裏の密談>です。
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さて、今回は...
「また出て行くんですか?!」
→いまごろ帰ってくるんですか?!
止めればいいんだろ
→もういい加減にしろ
です。
高級ハム私も食べたい...
ありがとうございます!
直しておきます~!
ちょっとバタバタなので今はおいとま‥!
雪ちゃんの顔がひくついていますし。
でも生真面目な雪に対して、自由奔放な蓮と亮という組み合わせでこれが描かれて
なんだかんだ仲良くなっていくという意図かと。
まあその意図もあるのでしょうが、それがあの遠藤ハム・・
本当にちょっとしたものも仕掛けとして無駄にしない作者さんだと感心いたしました。
遠藤さん、お金有り余っているタイプではないのに、かなりお高い且つ美味なるハムをちゃんと贈答するところに、律儀さと義理高さを描きだしているように思えました。
だからこそ淳のクレジット盗難事件は、もともとこんな律儀な彼に生じた心の鬼にせめられて・・というのが際立ちますね。
韓国でも普通ではありません。公園じゃあるまいしw
蓮と亮は二人とも自由すぎるから気が合うのかも。
それにしても、バイトの続きが
最短4時間、最長2日だった亮が
こんなに長く働けるなんて、
さすがに恋は人を(我慢)強くするんですね!
もしかして先回のあの両手モップ・テクニックがリハビリ・・・?
ですよね~!細かなところまで伏線を張ってくる恐ろしい子、スンキマジック!いつも感心させられます。
遠藤さんの律儀さ、胸熱ですね。
不器用で感情的な遠藤さんの株が最近急上昇ですね‥出番少なくなっちゃいましたが‥。
CitTさん
韓国でも普通じゃないことでしたか!
最初見た時は度肝を抜かされましたが、そういうことなら納得です。
亮、バイト継続記録更新中ですね~!
両手モップテクニック(笑)そうか蓮は我知らず亮にリハビリを施してたんですね 笑