結局、半数以下の学生しか残らなかった。
その中には雪の姿もある。
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特に仲の良い子も居ない為、雪は一人でそこに佇んでいた。
そんな雪に気づいた柳が、明るく声を掛ける。
「お、赤山ちゃん残ってんだ。サクッと終わらして帰ろうなー?」
「ハイ」
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雪はそう返事をして、チラと周りを窺ってみる。
「‥‥‥‥」
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やはり親しい人は居ない。
気まずい思いをしながらも、雪はこう思った。
私も帰りゃ良かったのに‥なぜか残ってしまった‥セルフお人好しバカ?
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まぁ、私に出来ること全部やっちゃった方が気が楽だわ
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去年居酒屋を借りて店をやったのは、このメンバーの中で自分だけだ。
その責任感が、雪をここにとどまらせたのだ。
「赤山先輩、一緒にやりましょ。何をやればいいですか?」「うーんと‥」
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感じの良い後輩が雪に声を掛けて来た。
先程のキノコ頭始め、騒がしいメンバーがいなくなってむしろ気が楽になった、と雪は思う。
雪はその後輩と共に、早速仕事に取り掛かることにした。
まずはナプキンを折っておくか‥
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前もってナプキンを折っておけば、客が来た時にサッと出せて重宝だ。
雪はナプキンが積まれてある机に向かって一歩踏み出す。
「私が持ってくるね」
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そう言ってその箱に手を伸ばした時だった。
雪の手に、同時に伸びてきた大きな手が触れる。
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ハタ、と目を見開いたまま身体が固まった。
隣に居る青田淳も、全く同じ表情で固まる。

そして二人は同時に、ビクッと弾かれたように身体を離した。
雪も淳も、驚きを隠せない。
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雪は苦々しい表情のまま、彼をじっと見た。心の中は気まずい思いでいっぱいだ。
「‥‥‥」

淳も雪のことをじっと見ながらも、何も言わない。
雪はその沈黙に耐え切れず、自ら口を開いた。
「あ‥」
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「これは私が‥」
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そう言ってナプキンの入った箱を後輩の元に持って行く。
淳は何も言わずに、そのまま彼女に背を向けて歩いて行った。
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なんだか変な気分だ。
モヤモヤとした気持ちを持て余しながら、暫し後輩と共にナプキンを畳む。
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すると、とあることに気がついた。
「あ」
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あのガラス棚‥
バーのお酒が入ってるから、開かないようにしなくっちゃ
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学祭で使うものと、この店所有のものをきちんと分けないとトラブルの元になる。
雪はキョロキョロと周りを見回した。
それでもアレは見栄えが良いから隠さずに‥
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そして目当ての物を見つけた雪は、真っ直ぐにそこへ歩いて行って手を伸ばした。
ビニールを‥
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すると再び、トン、と手が触れた。
二人は顔を上げて、二度目のシチュエーションに目を見開く。
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驚く二人。
すると次第に、淳の表情が曇って行った。
雪はそんな彼の顔を見て、あんぐりと口を開ける。
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淳は雪の手からビニールを取り去ると、くるりと背を向けてぶっきらぼうにこう言った。
「俺がやるよ」
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そっけない態度。
そんな彼に、ムカムカと怒りを覚える雪。
何なの?何で行動被るのよ?!
私がやろうとしてること知った上でのコレ?
そんでもってなんでアンタがムカついてんのよ?
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ただの偶然なのに、なぜムカつかれなきゃいけないんだろう。
憤るあまり、彼の後ろ姿をつい目で追ってしまう。
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それでも以前のように、悪感情ばかりを向けられている感じはしなかった。
雪は彼の背中を眺めながら、モヤモヤと一人考え出す。
アイツ、今日なんか‥全体的に謎なんですけど
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なんか悪いモンでも食べたのか?
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雪はナプキンを畳みながら、自分に対する彼の態度を思い返した。
ここ数日というもの‥なんか‥態度が曖昧というかなんというか‥
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浮かんで来るのは、つい先日のことだ。
鞄の中身をぶち撒けた時、彼がペンを拾ってくれた。
何を考えているのかは、相変わらず分かんないけど
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以前、書類を蹴られたことがある手前、どうして親切にもペンを拾ってくれたのか‥
さっぱり分からないのだ。
気まぐれ?私にムカついてたのが‥ほとぼり冷めたってこと?
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ダランと垂れるだけのナプキンが、折ればキッチリと形を成すように、
雪に対する彼の気持ちも、折り合いがついてきたということなのか‥?
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あの青田淳が‥?
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あのプライドの高い俺様野郎が、果たしてそんなに簡単に折れるだろうか。
ちっとも進まないナプキンを折る作業を前にして、雪は一人首を傾げる。
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淳はガラス棚にビニールを貼る作業の間中、胸中がモヤモヤしてしょうがなかった。
要らぬことを考え過ぎて、なんだか頭痛までしてくる始末だ。
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ずっと赤山雪のことを考えていた。
自分自身のことながら、わけが分からない。
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なぜ彼女と行動が被ってしまうのか、どうしてそんな彼女のことを考えて自分は頭を悩ましているのか。
ダメだダメだと自身に言い聞かせながら、淳は頭を横に振った。
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ふと気になって、彼女の方をチラと見た。
するとそこには、自分と全く同じ動きをしている雪が居る。
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「アイツに限って‥んなわけない」と言いながら、雪もまた頭をフリフリしているのであった。
そんなまさかのシンクロに、淳は呆れて口を開ける。
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「は!」
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バカバカしいと言わんばかりに、そう言い捨てて背を向けた。
世界で一番遠いと思っていた彼女と、なぜだか一番近いと思える現状を前にして‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>シンクロ でした。
互いのことが嫌いだと思ってはいても、なぜだか考えていることがシンクロしてしまう、という二人。
淳がどうして雪のことを「同族」と思うようになるのか、そこへの過程が描かれているのかな?と思います。
次回は<雪と淳>平行線 です。
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その中には雪の姿もある。
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特に仲の良い子も居ない為、雪は一人でそこに佇んでいた。
そんな雪に気づいた柳が、明るく声を掛ける。
「お、赤山ちゃん残ってんだ。サクッと終わらして帰ろうなー?」
「ハイ」
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雪はそう返事をして、チラと周りを窺ってみる。
「‥‥‥‥」
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やはり親しい人は居ない。
気まずい思いをしながらも、雪はこう思った。
私も帰りゃ良かったのに‥なぜか残ってしまった‥セルフお人好しバカ?
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まぁ、私に出来ること全部やっちゃった方が気が楽だわ
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去年居酒屋を借りて店をやったのは、このメンバーの中で自分だけだ。
その責任感が、雪をここにとどまらせたのだ。
「赤山先輩、一緒にやりましょ。何をやればいいですか?」「うーんと‥」
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感じの良い後輩が雪に声を掛けて来た。
先程のキノコ頭始め、騒がしいメンバーがいなくなってむしろ気が楽になった、と雪は思う。
雪はその後輩と共に、早速仕事に取り掛かることにした。
まずはナプキンを折っておくか‥
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前もってナプキンを折っておけば、客が来た時にサッと出せて重宝だ。
雪はナプキンが積まれてある机に向かって一歩踏み出す。
「私が持ってくるね」
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そう言ってその箱に手を伸ばした時だった。
雪の手に、同時に伸びてきた大きな手が触れる。
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ハタ、と目を見開いたまま身体が固まった。
隣に居る青田淳も、全く同じ表情で固まる。
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そして二人は同時に、ビクッと弾かれたように身体を離した。
雪も淳も、驚きを隠せない。
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雪は苦々しい表情のまま、彼をじっと見た。心の中は気まずい思いでいっぱいだ。
「‥‥‥」
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淳も雪のことをじっと見ながらも、何も言わない。
雪はその沈黙に耐え切れず、自ら口を開いた。
「あ‥」
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そう言ってナプキンの入った箱を後輩の元に持って行く。
淳は何も言わずに、そのまま彼女に背を向けて歩いて行った。
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なんだか変な気分だ。
モヤモヤとした気持ちを持て余しながら、暫し後輩と共にナプキンを畳む。
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すると、とあることに気がついた。
「あ」
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あのガラス棚‥
バーのお酒が入ってるから、開かないようにしなくっちゃ
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雪はキョロキョロと周りを見回した。
それでもアレは見栄えが良いから隠さずに‥
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そして目当ての物を見つけた雪は、真っ直ぐにそこへ歩いて行って手を伸ばした。
ビニールを‥
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すると再び、トン、と手が触れた。
二人は顔を上げて、二度目のシチュエーションに目を見開く。
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すると次第に、淳の表情が曇って行った。
雪はそんな彼の顔を見て、あんぐりと口を開ける。
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淳は雪の手からビニールを取り去ると、くるりと背を向けてぶっきらぼうにこう言った。
「俺がやるよ」
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そっけない態度。
そんな彼に、ムカムカと怒りを覚える雪。
何なの?何で行動被るのよ?!
私がやろうとしてること知った上でのコレ?
そんでもってなんでアンタがムカついてんのよ?
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ただの偶然なのに、なぜムカつかれなきゃいけないんだろう。
憤るあまり、彼の後ろ姿をつい目で追ってしまう。
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それでも以前のように、悪感情ばかりを向けられている感じはしなかった。
雪は彼の背中を眺めながら、モヤモヤと一人考え出す。
アイツ、今日なんか‥全体的に謎なんですけど
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なんか悪いモンでも食べたのか?
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雪はナプキンを畳みながら、自分に対する彼の態度を思い返した。
ここ数日というもの‥なんか‥態度が曖昧というかなんというか‥
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浮かんで来るのは、つい先日のことだ。
鞄の中身をぶち撒けた時、彼がペンを拾ってくれた。
何を考えているのかは、相変わらず分かんないけど
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以前、書類を蹴られたことがある手前、どうして親切にもペンを拾ってくれたのか‥
さっぱり分からないのだ。
気まぐれ?私にムカついてたのが‥ほとぼり冷めたってこと?
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ダランと垂れるだけのナプキンが、折ればキッチリと形を成すように、
雪に対する彼の気持ちも、折り合いがついてきたということなのか‥?
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あの青田淳が‥?
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あのプライドの高い俺様野郎が、果たしてそんなに簡単に折れるだろうか。
ちっとも進まないナプキンを折る作業を前にして、雪は一人首を傾げる。
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淳はガラス棚にビニールを貼る作業の間中、胸中がモヤモヤしてしょうがなかった。
要らぬことを考え過ぎて、なんだか頭痛までしてくる始末だ。
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ずっと赤山雪のことを考えていた。
自分自身のことながら、わけが分からない。
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なぜ彼女と行動が被ってしまうのか、どうしてそんな彼女のことを考えて自分は頭を悩ましているのか。
ダメだダメだと自身に言い聞かせながら、淳は頭を横に振った。
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ふと気になって、彼女の方をチラと見た。
するとそこには、自分と全く同じ動きをしている雪が居る。
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「アイツに限って‥んなわけない」と言いながら、雪もまた頭をフリフリしているのであった。
そんなまさかのシンクロに、淳は呆れて口を開ける。
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「は!」
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バカバカしいと言わんばかりに、そう言い捨てて背を向けた。
世界で一番遠いと思っていた彼女と、なぜだか一番近いと思える現状を前にして‥。
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<雪と淳>シンクロ でした。
互いのことが嫌いだと思ってはいても、なぜだか考えていることがシンクロしてしまう、という二人。
淳がどうして雪のことを「同族」と思うようになるのか、そこへの過程が描かれているのかな?と思います。
次回は<雪と淳>平行線 です。
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…が、やっぱりブラック青田の方が好きなわたしはちょっとヤバいのか…。
今回一番気になったのは、紙ナフキンが難しそうに折られていたこと。
時間かかりそう…。
変に意識する2人をみて
最近の2人を見直すとにやけてしまいますね~
紙ナプキンは韓国ではこういう形で出されるのでしょうか?
とは、本家を(翻訳アプリ片手に)読んだ時に浮かんだ常套句ですが
あらためて見ると思春期のそれですね^^
微笑ましい。
お初にお目にかかります。papurikaです。
娘に勧められたLINEで、この作品に出合って数か月。今では娘(20)に「いい恋しろよ」と嘯き、よしよしと宥められる母になりました。
以後、良しなに^^
ブラック淳にはこの先健太追放の時にその手腕を発揮していただきましょう‥!
二人が悪感情のないただの先輩と後輩なら、かなり良いコンビでしょうね。
紙ナプキン、どーやって折ってるんでしょうね。今度韓国料理のお店でさりげなくチェックしてみます 笑
娘さんからwebtoonを勧められた、と!
親子二代で読んでらっしゃるのですね(^O^)素敵なご関係で羨ましいです!
雪ちゃんと淳の初めての共同作業‥この先の展開でまだまだ色々待ち受けてますので、お楽しみに‥!