「わ~お!これはこれは!A大経営学科のニューカップルじゃ~あ~りませんか!」
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柳楓は嬉しそうに、赤山雪と青田淳が並んでいるのを見て言った。
それもそのはず、青田淳から付き合うことを聞かされて以来、初めて二人揃っているところを柳は目にするのだ。
今日はボランティアとして障がい児童施設に学生たちが集まる日。
柳も他校の彼女を連れて、このボランティアに通っていた。
「ボランティアの場で公式初デートですか~?お似合いですな~」
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柳は大きく手を広げて彼らに近寄った。
先輩が照れた仕草で頭を掻く。
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そのまま柳は二人に覆いかぶさるように肩を組んだ。雪に向かって話しかける。
「学校が始まったら皆ビックリ仰天だろうな!誰が知ってんの?」「聡美と‥助手さん達です‥」
「くぅ~!ぶっちゃけてぇ~~!!」

柳は今にも学科の皆に喋って驚く顔が見たいが、サプライズのために黙ってるぜと言って、グフフフと笑った。
テンションの上がる柳に、彼女が「あんたうるさい」とたしなめる。
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そのまま柳は彼女に連れられて、廊下を歩いて行った。
「今度メシおごれよ!絶対な!」と淳に向かって言う柳は、嬉しそうな顔をしていた。
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雪はわざとらしく笑いながら、「照れるな~!」と頭を掻いた。
「言っちゃって大丈夫だった?」「はい。どうせいつかはバレることですから‥」
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ふと、先輩が雪の目元を覗き込む。
「ん?雪ちゃん、目が赤いね。寝不足?」
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不意に目元に触れられ、雪はビクッと身を固めた。
手で先輩の手元を遮るようにして、雪は身を離す。
「あ‥昨日遅くまで単語の暗記してたから‥」
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すると教室から柳が顔を出して、もう始まるぞと二人に声を掛けた。
行きましょう、と雪が淳を促す。
淳は、どこかぎこちないこの雰囲気を察したが、原因が分からない。
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彼女は、ぎくしゃくしたまま彼の先を行く。
その後姿は、しきりに何かを考えているように見えた。
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事実、雪は悶々と様々なことを反芻していた。
昨夜は単語の暗記で夜更かしをしていたわけではなく、色々なことを考え過ぎて眠れなかったのだ。
布団に入って目を瞑る度、和美の言葉が蘇った。
先輩は行ってしまった。あなたを見捨ててね
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先輩には関係ない話だと、何度も雪は気にしないようにしようと己に言い聞かせた。
そして今日を迎えたわけだが、実際に顔を合わせると先ほどのように身構えてしまう自分がいる‥。
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学生たちはチームに分けられ、施設の担当者から受け持ちのボランティア内容を言い渡された。
先輩は掃除のチームに入り、雪は子供達の指導のチームに入った。
学生たちはガヤガヤと、三々五々移動する。
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雪は柳の彼女と同じチームだ。
二人連れ立って移動しようとした時、不意に先輩と目が合った。
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雪はぎこちない態度で、「が、頑張って下さいね!」と声をかける。
先輩が微笑みながら、「うん、そっちもね」と言葉を返す。
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柳の彼女がその初々しいやりとりを見て、微笑ましく笑った。
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淳は後ろ髪を引かれる思いで、雪の後ろ姿を見ていた。
柳の彼女と談笑する姿は、いたっていつも通りに見える。
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やはりぎこちないのは淳の前でだけのようだ。
淳はモヤモヤしたものを抱えながら、柳と共に廊下を歩いて行った。
雪も心の中で、わだかまりが重くのしかかっているのを感じていた。
自分でも自分の態度があまりにもぎこちないって思う

自分で自分が思い通りにならない。
脳裏には、やはり先日の和美が言及した事件のことが浮かんできてしまう。
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老女ホームレス事件‥。
苦い記憶は未だ消えないままだが、もう既に去年のことだ。
正直、和美への怒りがおさまったとはとてもじゃないが言えない。
だからといってこれ以上追及したり憤慨したり、彼女のことで悩むのもまっぴらだ。
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しかし心の中のわだかまりは、どんどん色濃くなっていく。
それは和美に対してということではなく、先輩に対してのそれだった。
あの事件において、先輩に非があるわけではないのは当然のことだと雪は思っていた。
けれど、和美から聞いた先輩の言動は、彼に対しての不信を煽るのには十分だった。
お前も 赤山も
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そう言って背を向けて去って行ったという彼の後ろ姿を、雪は想像出来る気がした。
去年の苦い記憶の断片が、脳裏を掠めゆく。
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去年の先輩は間違いなく私のことを嫌ってたはず。私が悪かった部分もあったし
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けれども‥。
人の好き嫌いを抜きにして、あの状況を知ってたなら
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いくらなんでも‥少なくとも警備員くらいは呼んでくれても良かったのに
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人の命に関わる問題だったのに
ホームレス事件の翌日、自販機の前で話しかけてきた彼の姿を思い出す。
ワケを知りながら、あたかも知らないふりをして聞いてきたのは一体‥なぜ?
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彼への不信が募り、頭をもたげていく。
しかしこう考えてみたところで、もう過ぎ去った去年のことだ。
しかも先輩が自分を見捨てたことについても、雪が抗議出来る事ではない。
なぜなら、人を助けるのは決して義務ではないからだ。
けれど‥。
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どんなに好意的に考えてみようとしても、何度も「けれど」が思考を引き戻す。
去年までの関係ならこれで終わりかもしれないが、
今雪が不信を募らせている相手は、自分の彼氏なのだ。このままにしておけない。
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しかしなぜ彼が自分に告白してきたのか、雪は今さらながら信じられなかった。
老女ホームレス事件で、瓶で殴られようがなかろうが気にも留めないくらいに雪のことを嫌っていたくせに、
一体なぜ真逆の感情ともいえる告白をしてきたのか。

去年彼は、雪のことを無視して、嘲笑って、侮辱して、助けてもくれなかったのだ。
あれから一年も経ってない。半年でこんなにも、人は変われるものなのだろうか。
一体この状況を、どうとらえればいいのだろうか‥。

考えても考えても、深みにはまるばかりで答えは出ない。
雪は教室へと向かう廊下を、憂鬱な気持ちのまま歩いて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼への不信(1)>でした。
久しぶりの柳先輩~(個人的に好き‥)!彼女つき!
やりとりから見ると結構長いつきあいっぽいですよね。きっと柳先輩のお母さんが亡くなった時も傍にいてあげて‥
とか勝手に妄想しています(笑)
次回は<彼への不信(2)>です。
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柳楓は嬉しそうに、赤山雪と青田淳が並んでいるのを見て言った。
それもそのはず、青田淳から付き合うことを聞かされて以来、初めて二人揃っているところを柳は目にするのだ。
今日はボランティアとして障がい児童施設に学生たちが集まる日。
柳も他校の彼女を連れて、このボランティアに通っていた。
「ボランティアの場で公式初デートですか~?お似合いですな~」
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柳は大きく手を広げて彼らに近寄った。
先輩が照れた仕草で頭を掻く。
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そのまま柳は二人に覆いかぶさるように肩を組んだ。雪に向かって話しかける。
「学校が始まったら皆ビックリ仰天だろうな!誰が知ってんの?」「聡美と‥助手さん達です‥」
「くぅ~!ぶっちゃけてぇ~~!!」
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柳は今にも学科の皆に喋って驚く顔が見たいが、サプライズのために黙ってるぜと言って、グフフフと笑った。
テンションの上がる柳に、彼女が「あんたうるさい」とたしなめる。
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そのまま柳は彼女に連れられて、廊下を歩いて行った。
「今度メシおごれよ!絶対な!」と淳に向かって言う柳は、嬉しそうな顔をしていた。
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雪はわざとらしく笑いながら、「照れるな~!」と頭を掻いた。
「言っちゃって大丈夫だった?」「はい。どうせいつかはバレることですから‥」
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ふと、先輩が雪の目元を覗き込む。
「ん?雪ちゃん、目が赤いね。寝不足?」
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不意に目元に触れられ、雪はビクッと身を固めた。
手で先輩の手元を遮るようにして、雪は身を離す。
「あ‥昨日遅くまで単語の暗記してたから‥」
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すると教室から柳が顔を出して、もう始まるぞと二人に声を掛けた。
行きましょう、と雪が淳を促す。
淳は、どこかぎこちないこの雰囲気を察したが、原因が分からない。
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彼女は、ぎくしゃくしたまま彼の先を行く。
その後姿は、しきりに何かを考えているように見えた。
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事実、雪は悶々と様々なことを反芻していた。
昨夜は単語の暗記で夜更かしをしていたわけではなく、色々なことを考え過ぎて眠れなかったのだ。
布団に入って目を瞑る度、和美の言葉が蘇った。
先輩は行ってしまった。あなたを見捨ててね
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学生たちはチームに分けられ、施設の担当者から受け持ちのボランティア内容を言い渡された。
先輩は掃除のチームに入り、雪は子供達の指導のチームに入った。
学生たちはガヤガヤと、三々五々移動する。
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雪は柳の彼女と同じチームだ。
二人連れ立って移動しようとした時、不意に先輩と目が合った。
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雪はぎこちない態度で、「が、頑張って下さいね!」と声をかける。
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柳の彼女がその初々しいやりとりを見て、微笑ましく笑った。
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淳は後ろ髪を引かれる思いで、雪の後ろ姿を見ていた。
柳の彼女と談笑する姿は、いたっていつも通りに見える。
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やはりぎこちないのは淳の前でだけのようだ。
淳はモヤモヤしたものを抱えながら、柳と共に廊下を歩いて行った。
雪も心の中で、わだかまりが重くのしかかっているのを感じていた。
自分でも自分の態度があまりにもぎこちないって思う
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自分で自分が思い通りにならない。
脳裏には、やはり先日の和美が言及した事件のことが浮かんできてしまう。
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老女ホームレス事件‥。
苦い記憶は未だ消えないままだが、もう既に去年のことだ。
正直、和美への怒りがおさまったとはとてもじゃないが言えない。
だからといってこれ以上追及したり憤慨したり、彼女のことで悩むのもまっぴらだ。
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しかし心の中のわだかまりは、どんどん色濃くなっていく。
それは和美に対してということではなく、先輩に対してのそれだった。
あの事件において、先輩に非があるわけではないのは当然のことだと雪は思っていた。
けれど、和美から聞いた先輩の言動は、彼に対しての不信を煽るのには十分だった。
お前も 赤山も
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そう言って背を向けて去って行ったという彼の後ろ姿を、雪は想像出来る気がした。
去年の苦い記憶の断片が、脳裏を掠めゆく。
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去年の先輩は間違いなく私のことを嫌ってたはず。私が悪かった部分もあったし
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けれども‥。
人の好き嫌いを抜きにして、あの状況を知ってたなら
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いくらなんでも‥少なくとも警備員くらいは呼んでくれても良かったのに
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人の命に関わる問題だったのに
ホームレス事件の翌日、自販機の前で話しかけてきた彼の姿を思い出す。
ワケを知りながら、あたかも知らないふりをして聞いてきたのは一体‥なぜ?
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彼への不信が募り、頭をもたげていく。
しかしこう考えてみたところで、もう過ぎ去った去年のことだ。
しかも先輩が自分を見捨てたことについても、雪が抗議出来る事ではない。
なぜなら、人を助けるのは決して義務ではないからだ。
けれど‥。
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どんなに好意的に考えてみようとしても、何度も「けれど」が思考を引き戻す。
去年までの関係ならこれで終わりかもしれないが、
今雪が不信を募らせている相手は、自分の彼氏なのだ。このままにしておけない。
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しかしなぜ彼が自分に告白してきたのか、雪は今さらながら信じられなかった。
老女ホームレス事件で、瓶で殴られようがなかろうが気にも留めないくらいに雪のことを嫌っていたくせに、
一体なぜ真逆の感情ともいえる告白をしてきたのか。
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去年彼は、雪のことを無視して、嘲笑って、侮辱して、助けてもくれなかったのだ。
あれから一年も経ってない。半年でこんなにも、人は変われるものなのだろうか。
一体この状況を、どうとらえればいいのだろうか‥。
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考えても考えても、深みにはまるばかりで答えは出ない。
雪は教室へと向かう廊下を、憂鬱な気持ちのまま歩いて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼への不信(1)>でした。
久しぶりの柳先輩~(個人的に好き‥)!彼女つき!
やりとりから見ると結構長いつきあいっぽいですよね。きっと柳先輩のお母さんが亡くなった時も傍にいてあげて‥
とか勝手に妄想しています(笑)
次回は<彼への不信(2)>です。
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いや、和美だったからってワケではないのですよ。
記事やコメ何度も読み返して考えてたり、
まぁ自分の方の画像集めでPC目疲れしてたりで。笑
「赤山も」の意味が、ずーーーっとよく分からないまま
今に至りますわ、私。
なんなの、この人。
自分だって十分面倒くさいのに。
自嘲はこもってないのですよね、これって。
本気で他人事として言ってるの?って、
気になって気になって。
助けた助けないは、まぁ付き合う前のコトだから、
ましてお互い関係も良くなかったし、そんなにこだわる程の
コトではないと私は思っちゃうんだけど(確かに、そっから
短期間で「付き合おう」な関係になってるってのは不思議に思うかもだけど)、
とにかく「赤山も」に引っかかるわーっ。
そんだけ!文句言いにきました。←誰に
「赤山も」に引っかかりましたか!
私は結構言葉通りに受け取っちゃったからな~~。
他人に興味の無い先輩だから、人に対してあーだこーだゴタゴタしてる人達が理解不能、ということだと‥。違う?!
雪は先輩を嘲笑ったり、パブリックイメージと違うってことを人に言いふらしたりするから(勿論全部誤解なんですが)、尚の事気に障っていたんだろうなと。
皆さんはどうなんだろう‥「赤山も」って結構重要ワードですか?!
もんもん! (〃゜д゜;A アセアセ
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”先輩の本質”(”本当の先輩”かな?)というイラストが載ってます。
そうか~これがユジョンの本質なのか‥。
小首を傾げる姿は子供みたいですね。
これがスッと口をついて出るということは、相当幼いころから吉本新喜劇に親しんでいたと見えますね、キムギョンファン先輩。
いつも意表を突かれます。。笑
ギョンファン先輩は何でもやって下さいます!笑