静香はその柔らかな純情を瞳に滲ませながら、淳に告白した。
「あたし、淳ちゃんのこと好きなんだ」と。
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ずっと昔から、それこそ初めて会った時からだと静香は告げた後、立ち尽くす淳に向かって告白を続ける。
「知ってるクセに分かんないフリをしてたのも、全部知ってる。
それでもあたしは、淳ちゃんにとって他の人とは違って特別なんでしょう?
だから何度かこういうことをしても、許してくれてるんでしょう?」
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静香は淳のことを真っ直ぐ見つめながら、思いの丈を言葉に紡ぐ。
「ただ、会長が言うから良くしてくれてるんじゃないって、
あたしも分かってるんだよ?そうだよね?」
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静香は淳の手を取りながら、甘えるようにその肩に頭を凭れ掛けた。
「淳ちゃん‥」
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幼い頃からずっと傍に居た彼が、今特別な存在として隣に居る‥。
彼の大きな肩に凭れながら静香は、その甘く幸せな感情に酔いしれるように目を閉じた。
ずっとこんな気持ちに浸ることを、夢見ていたかのような表情で。
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しかし次の瞬間、淳はサッと腕を払い、肩に凭れていた静香から離れた。
その淳の行動に、思わず静香は目を丸くする。
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静香はキョトンとした表情で、「淳ちゃん‥?」と彼の名を呼びかけた。
今まで自分と淳との間にあった空気の中に、突然ピッと線を引かれたようなその感覚。
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見上げた淳の顔は、いつもと変わらない。彼は静香に向かって、自分の気持ちを淡々と口にする。
「言っとくけど、もうこんなことをしたりそんな話をするのは止めてくれ。
そろそろ許すのも面倒になってきたし」
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静香は淳が口にした言葉の意味を理解しかねた。目を見開いたまま彼のことをじっと見つめる。
ポカンとした表情の静香に向かって、淳は尚も淡々と自分の気持ちを口にし続ける。
「確かに父さんとは関係ない。
なぜか皆俺は言われるがままに生きてると思ってるけど、俺にも俺の基準ってもんがある」

そして淳は神経質そうなその顔を曇らせながら、一言こう口にした。
「‥いい加減にしてくれよ」
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静香は目の前の彼が浮かべるその表情とその言葉が、今自分に向けられていることが信じられなかった。
今までそれは、自分を除く他人に対してのそれだったからだ。
「じゅ‥淳ちゃん‥」
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静香は彼の名を口にしながら、もう一度その腕を取ろうとした。
しかし彼は冷たい口調で「止めてくれ」と一言口にして、その腕を引っ込める。
淳はその口調のまま、再び彼女に対して言葉を続けた。
「俺はお前を”自分の基準”で家族同然と考えて、よくしてやっただけだ。
お前が裏で何をしても、許してやってたのも」
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そして彼は線を引いた。
”自分の基準枠内”から、素のままでその言葉を口に出す。
「勘違いするんじゃない、静香」
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「勘違いするな」
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静香の目の前で、厚い扉がガチャンと閉まった。
今まで二人の間に立ちはだかるものなんて、何も無いと思っていたのに。
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立ち尽くす静香に向かって、淳は冷たい口調で別れを告げる。
「元気そうだな。病院に行く必要も無さそうだ。それじゃな」
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淳はそう言うと、そのまま一顧だにせず帰路を辿り始める。
彼の背中を見つめる、静香の身体が震えている。
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心の中にあらゆる感情が膨れ上がり、それが彼女を震わせていた。
彼の好意を勘違いしていたことへの羞恥、彼の冷淡さに対する怒り、この場にいる居た堪れなさ‥。
静香は赤い顔をして、ぐっと歯を食い縛る。
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そして何も考えられなくなると、叫び出していた。
その涼し気な背中に向かって、思いのままに声を上げる。
「ふざけんじゃないわよっ‥!」
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静香は烈しい形相で、淳に詰め寄った。
「あたしじゃなかったら誰とだったらいいっていうの?!
あんたみたいな歪んだ男‥!」
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「あんたを理解出来る女なんてあたしだけだって、本当に分からないの?!」
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その静香の必死な叫びに対して、淳はニヒルな笑みを浮かべてこう返す。
「それなりに気の合う面もあるけど、お前は俺らの関係がそこまで深いと思うのか?」
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は、と淳は息を吐いて、再び静香に背を向けた。
「勘違いするなと言っただろ。それじゃ、また明日」
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そして淳はそのまま歩いて行った。
動揺さの欠片も見られない、淡々とした足取りで。
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小さくなるその背中を見つめながら、静香はギリッと強く歯を食い縛っていた。
心の奥底に仕舞い込んでいた、忌むべき過去が顔を出す。
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バシッ、バシッ、と自分を叩く音が聞こえる。
あれは祖父が亡くなってから引き取られた、叔母の家で常に聞いていた音。
心の柔らかい部分が、潰される音。
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脳裏に浮かぶのは、そこから救い出してくれたあのおじさんと手を繋いで歩いた、広い道。
その家へと続く高い柵。初めて見るその景色。
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不安な気持ちで胸をいっぱいにして、
弟と一緒にあの門をくぐった。戸惑う自分達に向かって、おじさんが優しく声を掛けた。
「さぁ挨拶を。おじさんの息子だよ」
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その声の先に居たのは、一人の少年だった。
目尻を下げて、柔らかな表情で、その男の子は静香の方を見て優しく微笑んだ。
「こんにちは」
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あの時胸の中に弾けたあの感情を、今でも静香は覚えている。
それは初めて人から向けられる、朗らかで温かな笑顔。
無理に眠らせた純情を、優しく揺り起こすような。
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救われた、と思った。
ようやく自分を救ってくれる、王子様が現れたのだと。
この人の前でなら、もう柔らかな心の奥底を、砂を噛む思いをして閉じ込めなくても良いのだと。
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その柔らかな純情が、音を立てて潰されて行く。
とっくに仕舞い込んで忘れていたと思っていたその屈辱が、再び静香の顔を烈しく歪めて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(13)ー柔らかな純情ー でした。
3日ぶりの更新です~^^
皆様お元気でいらっしゃいましたでしょうか?(大袈裟な‥)
淳からの返答は、読者としては想定内でしたが、静香にとってはショックだったでしょうね‥。
高校時代の亮と静香は、淳のことを全然理解出来てなかった、という感じでしょうか‥。
静香にとっては、ここが今の彼女へと続くターニングポイントだったのかもしれません。
次回は<二人の弟>です。
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「あたし、淳ちゃんのこと好きなんだ」と。
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ずっと昔から、それこそ初めて会った時からだと静香は告げた後、立ち尽くす淳に向かって告白を続ける。
「知ってるクセに分かんないフリをしてたのも、全部知ってる。
それでもあたしは、淳ちゃんにとって他の人とは違って特別なんでしょう?
だから何度かこういうことをしても、許してくれてるんでしょう?」
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静香は淳のことを真っ直ぐ見つめながら、思いの丈を言葉に紡ぐ。
「ただ、会長が言うから良くしてくれてるんじゃないって、
あたしも分かってるんだよ?そうだよね?」
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静香は淳の手を取りながら、甘えるようにその肩に頭を凭れ掛けた。
「淳ちゃん‥」
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幼い頃からずっと傍に居た彼が、今特別な存在として隣に居る‥。
彼の大きな肩に凭れながら静香は、その甘く幸せな感情に酔いしれるように目を閉じた。
ずっとこんな気持ちに浸ることを、夢見ていたかのような表情で。
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しかし次の瞬間、淳はサッと腕を払い、肩に凭れていた静香から離れた。
その淳の行動に、思わず静香は目を丸くする。
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静香はキョトンとした表情で、「淳ちゃん‥?」と彼の名を呼びかけた。
今まで自分と淳との間にあった空気の中に、突然ピッと線を引かれたようなその感覚。
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見上げた淳の顔は、いつもと変わらない。彼は静香に向かって、自分の気持ちを淡々と口にする。
「言っとくけど、もうこんなことをしたりそんな話をするのは止めてくれ。
そろそろ許すのも面倒になってきたし」
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静香は淳が口にした言葉の意味を理解しかねた。目を見開いたまま彼のことをじっと見つめる。
ポカンとした表情の静香に向かって、淳は尚も淡々と自分の気持ちを口にし続ける。
「確かに父さんとは関係ない。
なぜか皆俺は言われるがままに生きてると思ってるけど、俺にも俺の基準ってもんがある」
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そして淳は神経質そうなその顔を曇らせながら、一言こう口にした。
「‥いい加減にしてくれよ」
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静香は目の前の彼が浮かべるその表情とその言葉が、今自分に向けられていることが信じられなかった。
今までそれは、自分を除く他人に対してのそれだったからだ。
「じゅ‥淳ちゃん‥」
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静香は彼の名を口にしながら、もう一度その腕を取ろうとした。
しかし彼は冷たい口調で「止めてくれ」と一言口にして、その腕を引っ込める。
淳はその口調のまま、再び彼女に対して言葉を続けた。
「俺はお前を”自分の基準”で家族同然と考えて、よくしてやっただけだ。
お前が裏で何をしても、許してやってたのも」
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そして彼は線を引いた。
”自分の基準枠内”から、素のままでその言葉を口に出す。
「勘違いするんじゃない、静香」
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「勘違いするな」
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静香の目の前で、厚い扉がガチャンと閉まった。
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立ち尽くす静香に向かって、淳は冷たい口調で別れを告げる。
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淳はそう言うと、そのまま一顧だにせず帰路を辿り始める。
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心の中にあらゆる感情が膨れ上がり、それが彼女を震わせていた。
彼の好意を勘違いしていたことへの羞恥、彼の冷淡さに対する怒り、この場にいる居た堪れなさ‥。
静香は赤い顔をして、ぐっと歯を食い縛る。
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そして何も考えられなくなると、叫び出していた。
その涼し気な背中に向かって、思いのままに声を上げる。
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静香は烈しい形相で、淳に詰め寄った。
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その静香の必死な叫びに対して、淳はニヒルな笑みを浮かべてこう返す。
「それなりに気の合う面もあるけど、お前は俺らの関係がそこまで深いと思うのか?」
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は、と淳は息を吐いて、再び静香に背を向けた。
「勘違いするなと言っただろ。それじゃ、また明日」
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そして淳はそのまま歩いて行った。
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小さくなるその背中を見つめながら、静香はギリッと強く歯を食い縛っていた。
心の奥底に仕舞い込んでいた、忌むべき過去が顔を出す。
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バシッ、バシッ、と自分を叩く音が聞こえる。
あれは祖父が亡くなってから引き取られた、叔母の家で常に聞いていた音。
心の柔らかい部分が、潰される音。
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脳裏に浮かぶのは、そこから救い出してくれたあのおじさんと手を繋いで歩いた、広い道。
その家へと続く高い柵。初めて見るその景色。
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不安な気持ちで胸をいっぱいにして、
弟と一緒にあの門をくぐった。戸惑う自分達に向かって、おじさんが優しく声を掛けた。
「さぁ挨拶を。おじさんの息子だよ」
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その声の先に居たのは、一人の少年だった。
目尻を下げて、柔らかな表情で、その男の子は静香の方を見て優しく微笑んだ。
「こんにちは」
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あの時胸の中に弾けたあの感情を、今でも静香は覚えている。
それは初めて人から向けられる、朗らかで温かな笑顔。
無理に眠らせた純情を、優しく揺り起こすような。
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救われた、と思った。
ようやく自分を救ってくれる、王子様が現れたのだと。
この人の前でなら、もう柔らかな心の奥底を、砂を噛む思いをして閉じ込めなくても良いのだと。
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その柔らかな純情が、音を立てて潰されて行く。
とっくに仕舞い込んで忘れていたと思っていたその屈辱が、再び静香の顔を烈しく歪めて行く‥。
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<亮と静香>高校時代(13)ー柔らかな純情ー でした。
3日ぶりの更新です~^^
皆様お元気でいらっしゃいましたでしょうか?(大袈裟な‥)
淳からの返答は、読者としては想定内でしたが、静香にとってはショックだったでしょうね‥。
高校時代の亮と静香は、淳のことを全然理解出来てなかった、という感じでしょうか‥。
静香にとっては、ここが今の彼女へと続くターニングポイントだったのかもしれません。
次回は<二人の弟>です。
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私はここで「雪と去年の話を避けようとしたあの時と同じ対応策だ」と思いました。自分に面白くない流れになると「はいはい、ストップ」。
そして「似てる面もある程度はあると思うけど、そこまではな‥」
これ間違ってませんけど、ニュアンスも考えると
「幾つか気のあう所があっただけで、(お前は)(俺達の関係が)そこまでだと思うのか?」みたいな感じです。
仮にユジョンが地位も財産も失って、大学近くの考試院の部屋で飲んだくれる転落ぶりを見せたとしても、ホンソルとインハだけは見捨てないと思います。
となると、その二人はどうしてもどこかで激突を…。
ある意味、静香と淳は「同士」というか‥。男女を越えたそんなある種の気安さがありますねぇ。
彼女(雪ちゃん)からしたら、そういった異性の存在は気になるでしょうな~^^;静香、超美人だし‥
淳の台詞、了解しました!修正しておきます~
青さん
ただ静香と淳の関係に父親が全く絡んでなかったら‥と考えると、遅かれ早かれ淳の方から関係を断っているような気もします。
>仮にユジョンが地位も財産も失って、大学近くの考試院の部屋で飲んだくれる転落ぶりを見せたとしても
秀紀兄さん‥元気かな‥(T T)
いよいよ連載とリアルタイム更新ですな
さすがたゆまぬ努力の賜物
陰ながら応援してます
ここもと実家関係忙しくてコメント出来ないですが
いつも見てますからー
で本当に静香の女の部分はショックでしょうが
この扱いある意味同士というか本質的部分共有してると他ならないですよ
別れた女たちは二度と交わらないと思いますがずっと何かしら関わっていけただろうに
しかし静香の顔の変化が一番激しいですよね
素直さが残っていますから高校生時代は
あぁ、可愛いです。。(←どこまでも亮さんでごめんなさい!!笑)
ついに本家においつくという偉業おめでとうございます~!
これからも影ながら応援してます!
ところで、今までずっと淳さんのこと あつしだと思ってました(笑)
なんとなく じゅん より あつし のほうがしっくりくるくるな気がしませんか?
完全に私の個人的感覚でしかないですけど(笑)
500日近くも続いた毎日の日課がなくって、恋人と別れたような…そんな気持ち。が、3日後に再開。笑
これまた、ありがたいですー!
きっと、みなさんもタイムリーで嬉しいのでは~。
今回もまた、Yukkanen節がすごくよかったです。特に、辛い悲しい暗闇から救いだしてくれた一筋の光青田淳との出会いの場面。そしてその光が消えた瞬間。師匠の文章、沁みました。静香にとっての青田淳の存在の大きさに触れ、少し切ないです…。
そして、はいたいさん、今さらっ。笑
というものの、私も当初あつし読みしてました。なんとなく、じゅんぽくない気がしてました。顔が。
でもフルネームだと、青田あつしより、青田じゅんの方がシックリしませんか~。
どうでもいいですが、じゅん 単独だと北の国からのテーマが脳内に流れます(笑)それもモノマネ付きで(笑)
ちゃんとみたことないんですけどね(≧∇≦)
お久しぶりです~!どうしてらっしゃるかなと気になっていたところです。お元気そうでなによりです^^
作者さんの静香の描き分け上手いですよね~。亮と淳は変わって無いように見えますが‥。それだけスレちゃったのか‥と思うと寂しくなります^^;
ぽこ田さん
あの一コマ亮さんにコメくださるとは‥どこまでも亮派でらっしゃる!笑
はいたいさん
お久しぶりですー!関係ないですが、今日の昼は友人の沖縄みやげのソーキそばを食べました。はいたいさんを思い出しました(笑)
そしてりんごさんと同じく、いまさら‥っ!(白目)
という私も最初「あつし」と読んでました。てへ。
先輩の韓国名を漢字に直すと「有情」らしいので、個人的には「じゅん」は「淳」もアリですが「純」とかでも良かったのかな?と思いました。
(亮が「お前名前が”有情(情が有る)”って書くのに、情がねぇなぁと言う場面がありましたっけねぇ)
りんごさん
コメありがとうございます!
500日近くもついて来て下さったりんごさんに、こちらこそ感謝ですよ!
これからもよろしくです!
淳さんの「自分の基準」、わかりにくくて多少静香可哀想だなと思います。淳さんからしてみれば、特別でも居心地が良くて素になれる存在でも、静香には求めているものが違ったのですね。あぁ~やっぱり、やっと見つけた雪ちゃんとうまくいってほしーっ!