取って食われてしまう
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不吉な言葉が、ズキズキと痛む雪の頭の中を廻り続けている。
思い出すのは、込み上げる吐き気と高熱の倦怠感。
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耐えられず嘔吐し、雪は動かぬ身体で壁に凭れていた。
脳裏に浮かぶあの残像と、鼓膜の裏で響くその言葉に苛まれながら。
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本気で取って食われてしまう
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ゾクゾクと悪寒が全身に駆け巡る。
高熱のせいだろうか、それともこの身に蓄積した恐怖のせいだろうか。
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いつの間にか傍らに佇んでいた彼。
身動きも取れない。
遠くで鳴っていた雷鳴が、すぐ傍へと迫り来る‥。
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雨足は相変わらず強いままだった。
しんとした室内には、ただ雨音と雷鳴の音だけが響いている。
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雪はようやく、深い眠りの淵から目覚めた。
そこに見えたのは、見慣れない天井。
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状況を把握するのに数秒掛かった。
そして把握するやいなや、雪は白目になってガバッと起き上がる。
「‥!」
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目の前に広がるのは、学祭を明日に控え、飾り付けが施されたバーの風景だった。
状況を理解した雪は、目を見開いて隣りにあるソファの方を見やる。
バッ!
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雪が眠りに落ちる前、そこには青田淳が寝ていたのだ。
しかし今は誰も居ない。雪は安堵の溜息を漏らした。
ふーっ‥
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ようやく少し落ち着いた雪は、今の自身の状況を改めて顧みる。
何‥私ここで寝ちゃったの?
疲れたからちょっと休もうと思って、座ってただけだったのに‥
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ぐるりと店内を見回した後、傍にあるテーブルの上へと視線を流した。
そこには、雪が青田淳の為に置いた薬と水がそのまま置いてある。
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そして少し離れた所にある自身の鞄の傍に、
傘が置かれているのに気がついた。
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雪のではない。だとすれば‥
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未だ雨は降り続いているようだった。
雪はまだ若干湿っている服に寒気を感じ、ゴホッと大きく咳き込んだ‥。
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どうにか家へと辿り着いた雪。しかしまだ咳は止まらない。
気怠い身体をどうにか動かし室内へと入る。
「ただいま‥」
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「あ‥誰も居な‥」
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暗い室内を見て、雪がそう呟いた時だった。
突然後ろから、誰かが雪を押し退けて家へと入る。
「ひっ!」
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思わず身体を強張らせた雪だが、見慣れたその背中に、ホッと胸を撫で下ろした。
「お父さん!」
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父は大きな足音を立ててズンズンと室内を進んで行った。
雪は未だドギマギしながら、その背中に声を掛ける。
「階段使ったの?ビックリ‥。お父さん?」
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父は娘の言葉には返答せず、ただ無言で何かを探していた。
呆気に取られて玄関に佇む雪に、やがて父は荒々しい口調でこう問い掛ける。
「雪、お前あの書類が入った封筒見なかったか?茶色の‥」
「えっ?ううん、私は‥」
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雪は自分は今帰って来たところだからと言葉を続けようとしたが、それはかなわなかった。
父は大声で苛立ちを口にしながら、そのまま家を出て行く。
「あー!くそったれ!この家にゃ使える人間が一人も居やしない!あ、木村社長!」
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「それは私が今‥」
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バタン!と大きな音を立てて、ドアが閉まった。
雪は”使えない”と言い捨てられたまま、ただその場に立ち尽くす‥。
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ゴホッゴホッ‥
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繰り返す咳で、浅い眠りはすぐに途切れてしまう。
熱は未だにあるようで、こんな時間にも関わらず雪はまだ眠れずに居た。
すると枕元に置いてあった携帯電話が、不意にメールを受信する。
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こんな時間にメールを送ってくるのは、一人しかいない。
雪は咳込みながら、アメリカに居る弟への文句を口にする。
「あー‥もう蓮のヤツ‥こっちは明け方だって何度言ったら‥」
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そこに表示されていたのは、ハンバーガーの画像と彼の弱音だった。
雪は暗闇の中で、ぼんやりと光るそれを見ている。
一週間ずっとハンバーガー。母さんが作ったキムチチゲが死ぬほど食いたいー
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姉ちゃんはいいよな、そこに居られて。
やっぱ家が一番だよ
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熱で気怠い身体を横たえながら、咳で眠れない夜を明かしながら、
雪はその言葉を何度も反復していた。
暗い布団の中でずっと、ただ今の状況に耐え続けながら‥。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>あの日の続き でした。
ここでなんと学祭準備の、淳が雪の指先を掴んだ<<雪と淳>指先>の続きが出てくるとは!
最近LINE漫画の方がこの辺りの話をやっていたので、若干タイムリーな感じですが‥。
最初の”取って食われてしまう”の所は、学祭終了後のモノローグですので、
そこの詳細はもう少し先の記事に出てきます。時系列混乱しますね^^;
そしてこの時期の雪のお父さん、事業が傾いてるせいか相当雪にキツイですよね。
蓮も早くもホームシックにかかってるみたいだし、赤山家みんなが余裕の無い時期だったのかもしれませんね。
次回は<雪と淳>対照 です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
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不吉な言葉が、ズキズキと痛む雪の頭の中を廻り続けている。
思い出すのは、込み上げる吐き気と高熱の倦怠感。
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耐えられず嘔吐し、雪は動かぬ身体で壁に凭れていた。
脳裏に浮かぶあの残像と、鼓膜の裏で響くその言葉に苛まれながら。
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本気で取って食われてしまう
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ゾクゾクと悪寒が全身に駆け巡る。
高熱のせいだろうか、それともこの身に蓄積した恐怖のせいだろうか。
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いつの間にか傍らに佇んでいた彼。
身動きも取れない。
遠くで鳴っていた雷鳴が、すぐ傍へと迫り来る‥。
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雨足は相変わらず強いままだった。
しんとした室内には、ただ雨音と雷鳴の音だけが響いている。
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雪はようやく、深い眠りの淵から目覚めた。
そこに見えたのは、見慣れない天井。
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状況を把握するのに数秒掛かった。
そして把握するやいなや、雪は白目になってガバッと起き上がる。
「‥!」
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目の前に広がるのは、学祭を明日に控え、飾り付けが施されたバーの風景だった。
状況を理解した雪は、目を見開いて隣りにあるソファの方を見やる。
バッ!
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雪が眠りに落ちる前、そこには青田淳が寝ていたのだ。
しかし今は誰も居ない。雪は安堵の溜息を漏らした。
ふーっ‥
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ようやく少し落ち着いた雪は、今の自身の状況を改めて顧みる。
何‥私ここで寝ちゃったの?
疲れたからちょっと休もうと思って、座ってただけだったのに‥
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ぐるりと店内を見回した後、傍にあるテーブルの上へと視線を流した。
そこには、雪が青田淳の為に置いた薬と水がそのまま置いてある。
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そして少し離れた所にある自身の鞄の傍に、
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雪のではない。だとすれば‥
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未だ雨は降り続いているようだった。
雪はまだ若干湿っている服に寒気を感じ、ゴホッと大きく咳き込んだ‥。
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どうにか家へと辿り着いた雪。しかしまだ咳は止まらない。
気怠い身体をどうにか動かし室内へと入る。
「ただいま‥」
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「あ‥誰も居な‥」
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暗い室内を見て、雪がそう呟いた時だった。
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思わず身体を強張らせた雪だが、見慣れたその背中に、ホッと胸を撫で下ろした。
「お父さん!」
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父は大きな足音を立ててズンズンと室内を進んで行った。
雪は未だドギマギしながら、その背中に声を掛ける。
「階段使ったの?ビックリ‥。お父さん?」
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父は娘の言葉には返答せず、ただ無言で何かを探していた。
呆気に取られて玄関に佇む雪に、やがて父は荒々しい口調でこう問い掛ける。
「雪、お前あの書類が入った封筒見なかったか?茶色の‥」
「えっ?ううん、私は‥」
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雪は自分は今帰って来たところだからと言葉を続けようとしたが、それはかなわなかった。
父は大声で苛立ちを口にしながら、そのまま家を出て行く。
「あー!くそったれ!この家にゃ使える人間が一人も居やしない!あ、木村社長!」
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バタン!と大きな音を立てて、ドアが閉まった。
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ゴホッゴホッ‥
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繰り返す咳で、浅い眠りはすぐに途切れてしまう。
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すると枕元に置いてあった携帯電話が、不意にメールを受信する。
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こんな時間にメールを送ってくるのは、一人しかいない。
雪は咳込みながら、アメリカに居る弟への文句を口にする。
「あー‥もう蓮のヤツ‥こっちは明け方だって何度言ったら‥」
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そこに表示されていたのは、ハンバーガーの画像と彼の弱音だった。
雪は暗闇の中で、ぼんやりと光るそれを見ている。
一週間ずっとハンバーガー。母さんが作ったキムチチゲが死ぬほど食いたいー
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姉ちゃんはいいよな、そこに居られて。
やっぱ家が一番だよ
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熱で気怠い身体を横たえながら、咳で眠れない夜を明かしながら、
雪はその言葉を何度も反復していた。
暗い布団の中でずっと、ただ今の状況に耐え続けながら‥。
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<雪と淳>あの日の続き でした。
ここでなんと学祭準備の、淳が雪の指先を掴んだ<<雪と淳>指先>の続きが出てくるとは!
最近LINE漫画の方がこの辺りの話をやっていたので、若干タイムリーな感じですが‥。
最初の”取って食われてしまう”の所は、学祭終了後のモノローグですので、
そこの詳細はもう少し先の記事に出てきます。時系列混乱しますね^^;
そしてこの時期の雪のお父さん、事業が傾いてるせいか相当雪にキツイですよね。
蓮も早くもホームシックにかかってるみたいだし、赤山家みんなが余裕の無い時期だったのかもしれませんね。
次回は<雪と淳>対照 です。
☆ご注意☆
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お名前が‥(TT)
取って食われる、不穏ですよね‥怖い‥。
おもちさん
日課にしていただいて‥ありがとうございます!
私も話が健太直美健太直美の時は鬱々としていました(苦笑)
やっぱり主人公達の話が見たいですね~
センナさん
初コメありがとうございます!
日本語版は台詞の中の文字数が限定されているっぽいので、結構はしょってあるところが多いですよね。韓国要素は消されちゃうし‥。ブログでは出来るだけ本家に寄り添った訳にしてます。
これからもまた遊びに来てくださいね~
きんぎょばちさん
妹さんはニュージーランドに留学中なのですか!心細くなりますよね‥。
雪ちゃんも蓮君に劣等感を感じるあまり、彼の支えになってあげようとは思ってませんものね。家族の支え、大きいですね。
青さん
あ~なるほど!
確かにそういった夢や情熱が無いと、一人異国の地で頑張る気概はなくなりますよね‥。
やりたいこと、蓮君は見つけられるんでしょうか‥。
「留学」はしたかったけど、「留学してしたいこと」がなかった、ってことを。
食事のことも語学のこともあったとは思いますけど、彼が帰ってきてからも復学を拒むのには、もっと根本的な問題があったはずです。
その点、彼の立ち直りを後押しできるのは、挫折と克服を経験してきた兄貴分だろうと思います。
もし蓮くんがアメリカに行ってる間に、蓮くんの悩みを家族の誰かが受け止めてあげられたら、逃げずに頑張っていたかもしれませんね...
まあ自分のことなんだから自分でなんとかしろとも思うのですが!やはり、何事もですけど、家族の支えって大きいと思います。
センナと申します。最近、line漫画でこの漫画を見つけて心底ハマってしまい、最新話が気になるなと検索していたら、こちらのブログを発見しました。
毎回、素敵な翻訳と鋭い考察に驚いて日本版の方を読み返してしまいます・・・
最近健太先輩とかお姉さんに振り回されてばかりなので、雪も淳の話しがくると嬉しい~